翌日のバンドの練習は滞りなく終わり、これまたリサさんたちの粋な計らいによって、僕は紗夜さんと二人きりで帰路についていた。
(どのタイミングで切り出そう)
僕はそれを切り出すタイミングを見計らっているのだが、なかなか切り出せずにいた。
いざ切り出そうとすると、恥ずかしくなってしまい尻すぼみしてしまうのだ。
告白までしておいて何をいまさらと思うかもしれないが、真実なのだから仕方がない。
紗夜さんも何かを言いだそうとしてはやめたりを繰り返しており、お互いに決まづい雰囲気に包まれていた。
「あ、着きましたね」
「本当だ」
そうこうしていると、とうとう目的地である紗夜さんの家の前まで来てしまった。
(ええい、しっかりしろ。一樹!)
このままでは、デートに誘えなくなってしまう。
そう感じた僕は自分に檄を飛ばす。
「紗夜さんっ」
「は、はい!?」
その結果が、自分でも予想外なほどの大きな声で彼女の名前を呼ぶということだった。
「今週の日曜って予定ある?」
「こ、今週の日曜ですか? ……いえ、とくには」
「実は『トコナッツパーク』の招待券が当たったんだけど、もしよかったら一緒に行かない?」
そう言って僕が紗夜さんに手渡したのは、先日の抽選会で当てた”特賞”のトコナッツパークの招待券だった。
紗夜さんは、それを見て目を瞬かせて固まっていた。
僕は、あえて何も言わずに彼女の反応を待つ。
「あの、これって……その、デート……ですか?」
「僕の知っている知識が間違ってなければ、デート……かな」
顔を真っ赤にして聞いてくる紗夜さんに、僕は頬が熱くなるのを感じながら応える。
「私も……一樹さんと行きたいです」
やがて、真っ赤な顔で微笑みながら紗夜さんはOKを出してくれた。
「あ、ありがとう。それじゃ、詳しい集合場所とかはメールでしよう」
「は、はい。よろしくお願いします」
とまあ、お互いにテンパりながらも僕はなんとか、デートの予定を取り付けることに成功した。
そこから先のことは実は全く覚えていない。
(時間もよし、服装もよし。忘れ物、よし)
そして迎えたデート当日。
今日が初めてのデートと言うだけあって、起きた時からドキドキが止まらない。
いつもよりおめかししようにも、持っている服はどれもいつも来ている服なので、いつも通りの服装となってしまった。
時間もどういうわけか集合時間より2時間も早く来るという始末だ。
(いったいどれだけ楽しみにしてたんだろうね、僕)
もしかしたらがっつきすぎなどと思われるのではと心配になったが、遅刻するよりはマシなので、待つことにした。
そして……
「お、おはようございます」
「お、おはよう。紗夜さん」
意外にも、早い時間に紗夜さんが集合場所である駅前に姿を現した。
「ごめんなさい、もう少し早く出るべきでしたね」
「いや、ついさっき来たばかりだから気にしないで」
これまたなんというベタなやり取りだとは思うけど。
「あの……一樹さん」
「何? 紗夜さん」
「私の格好、おかしくないですか?」
顔を赤くさせてもじもじしながら聞いてくる紗夜さんは、小動物……いや、むしろそれ以上にかわいく思えた。
「全然そんなことないよ。とても似合ってるし、かわいいよ」
「っ!?!? あ、ありがとうございます。一樹さんも、その……カッコいい、ですよ」
僕の感想に紗夜さんは顔を真っ赤にさせながら、お礼を言ってくれた。
その表情はとてもうれしそうにも思えた。
「そ、それじゃ、予定よりも早いけど行こう」
「え、ええ」
こうして、僕たちは予定よりも1時間30分ほど早く、トコナッツパークに向かうのであった。
そんな僕たちを見ている人物たちにも気づかずに。
★ ★ ★ ★ ★
同時刻、多くの人が行きかう駅前広場に10人の人影があった。
その人物たちの視線の先には、歩き始めた一樹と紗夜の姿があった。
「ぬふふ、二人ともいったみたいだね~」
「まさか本当に予定時間より早く来るなんて思わなかったよ~」
その人物たちは、全員物陰から二人を見ているっため、やや不自然な状態になっていたのだが、当の本人たちは知る由もない。
「あこ、紗夜さんのあんな表情始めてみましたっ」
「クソっ、リア充め」
その人物たち……日菜に加えて紗夜を除いたRoseliaのメンバーと、一樹と裕美を除いたMoonlight Gloryのメンバーたちは、二人の様子にそれぞれ声を上げる。
ちなみに、こうなった原因については、二人の会話を聞いた日菜がリサとあこに連絡し、そこから一気にRoseliaのメンバーに伝わって行ったのだ。
そして、その流れ弾でうわさを聞き付けた啓介からMoonlight Gloryのメンバー全員という形で話は広まり、誰が言いだしたのか、デートの様子を後をつけて観察するということになったのだ。
「ヒナから連絡が来たときはまさかと思ったけど、本当に行動が早いよねー」
「あいつが持ってるのは、俺が持つべきだったやつなんだっ」
感心した様子でつぶやくリサと、もはや憎悪すら感じさせる啓介の恨み節という対照的な状況となっていた。
「どうして私が……」
「あこちゃん、今井さん……あの、止めたほうが……」
「啓介、嫉妬はみっともねえぞ」
ちなみに、燐子と聡志はつけていこうとする彼女たちを止めようとしていたのだが、止まることもできずそのままついていくことになったのだ。
「そんなこと言いながら友希那だって、興味津々なくせにー」
「別に私は―――」
リサの言葉に否定しようとする友希那だったが、
「それじゃ、その手に持ってるカメラは何かなー?」
リサはいたずらっ子のような笑みを浮かべながら、彼女の手にあるカメラを見ながら問いかけた。
「こ、これは……記念写真を撮ろうとしただけよ」
「もー、友希那ってば素直じゃないんだから☆」
分が悪くなり、そっぽを向く友希那をからかうリサをしり目に、日菜の視線はずっと二人に向けられていた。
(おねーちゃん、楽しそうだな~)
その心境は、ただただ姉の楽しそうな表情を見れてうれしいというものだった。
「あ、二人が移動するよ。ついて行こー!」
「あ、ひなちん待ってってばっ」
こうして、彼女たちによる追跡劇が幕を開けるのであった。
(こりゃバレたらマジで地獄行きだろうな)
ある意味実現しそうな予感を心の中でつぶやく人物も一緒に。