BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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気が付けばもう20話目。
早いようなそうでもないような心境です。

そしてUAも7000にまで到達しておりました。
これからもどんどん頑張っていこうと思う今日この頃です。

今回は二名ほど原作キャラが登場します。
誰なのかはタイトルを見ればわかってしまいそうですが(汗)


それでは、どうぞ


第20話 儚さと天才と少女と

「ただいま」

「おかえり。……ちゃんと寄り道はしてないな」

 

学校が終わってそのまま直行で帰った僕を、義父さんは少し厳しげな表情で出迎えた。

 

「言われたことは守ります。それにちゃんと自分の立場は自覚していますから」

「それは感心だ。では、昼食を食べたらさっそく始める」

 

(そう、僕は美竹家の人間なんだから)

 

僕は自分に言い聞かせるようにつぶやくと、手を洗いに洗面所に向かうのであった。

 

 

 

 

 

夜、お風呂に入り終えた僕は、自室のベッドに仰向けに倒れこむ。

 

「はぁ。終わった」

 

昼食後からの数時間、僕は華道の基礎を習い続けていた。

華道は全くの未経験者の僕が、いきなり家元の後継者になってしまったのだから、当然と言えば当然だ。

 

(この本をちゃんと読んでマスターできるようにしないと)

 

義父さんから読んでおくようにと渡されたのは、華道初心者でもわかるように、説明されている内容の本だった。

 

「今週末にはテストをするだなんて。本当に鬼だな」

 

でも、やるしかないのだ。

僕には、それしかないのだから。

 

「とりあえず、明日から授業があるし、準備でもしておくか」

 

僕は明日の授業で使う教科書などをカバンに入れると、義父さんに渡された本を読むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……あれ?」

 

朝起きると、僕は椅子に座っていた。

 

「あ、そうか。結局読んでいるうちに寝ちゃったんだ」

 

机の上には父さんに渡された本が開いた状態で置いてあったので、間違いない。

 

「ん~。やっぱりベッドで寝るほうがいいな」

 

椅子に座ったまま寝たからか、ちょっと変な感覚を覚える。

 

「しかも、いつもより早いし」

 

かなり早くに起きたようで、このまま軽く寝られるような時間だった。

 

(まあ、早くいくのも手か)

 

そうすれば彼女と顔を合わせずに済むし。

そうと決まれば、僕は素早く制服に着替えると、今まで読んでいた本をカバンに詰めて自室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり誰もいないか」

 

朝食を食べ終え、学園に向かった僕は、誰もいない教室を見てぽそりとつぶやく。

いつもは啓介たちと登校するのだが、今日は早くに出すぎたため長時間待つことになってしまう。

さすがにそんなに待ってもいられないので、今日は一人で先に学校に来たのだ。

もちろん、啓介に連絡は入れておいたので、そう問題は起こらないだろう。

 

(そういえば、一人で登校するなんてことそうそうなかったんだっけ)

 

よほどの事情がない限り、登校の時は一緒だった記憶しかない。

僕たちも、いろいろと変わり始めているのかもしれない。

 

「流石に一人というのもあれだし、軽く散歩でもしようかな」

 

そう思い、僕は校内の散歩をすることにした。

だが、校内の散歩はすぐに終わり範囲を学校の敷地内に広げる。

 

「学校に森があるなんて、不思議な気分だ」

「――――ない」

 

学園の敷地内にある森を散歩しているとふと何かの声が聞こえてきた。

 

(こっちからだ……行っていようかな)

 

後にして思えば、それは単純な好奇心だったと思う。

 

「ああ、儚い」

「………」

 

その好奇心が引き合わせたのは、長身の(服装からして女子だろうか)学生が両手を広げて芝居がかったような仕草で声を出しているところだった。

 

「ああ、はかな――――ん?」

 

そんな時、彼女を見る僕の存在に気付いたのか、こちらのほうに顔を向ける。

 

「おやおや、こんなところまで来てしまうなんて、なんて儚いのだろうか、子猫ちゃん」

「………はい?」

 

演技がかった言い回しは素なのか、僕があった人間の中で群を抜いたタイプの人だった。

 

「名乗らせてもらうよ。私は薫、瀬田(せた) (かおる)というんだ。良ければ、君の名前を聞かせてもらえるかな?」

「……一樹。美竹 一樹」

 

落ち着いてみてみると、芝居がかっているのに、それが全く気にならない。

まるで王子のような印象だった。

 

「一樹か……ああ、儚い。私のことは薫で構わないよ」

「……一体ここで何をやってるんですか?」

 

なんだかいきなり呼び捨て&名前で呼んでもいいというお許しをもらってしまったが、僕は気になっていることを聞く。

 

「ああ、ここで劇の練習をしているのさ。私は演劇部に所属しているからね。まあ、進学したばかりだからまだ再入部はしていないんだがね」

 

どうやら、薫とは同学年のようだ。

 

「君はどうしてここに?」

「早く来すぎたから散歩をしていたら声が聞こえた」

 

同学年相手に敬語も変なので、とりあえず言葉遣いを直すことにした。

 

「ふふ。どうやら、私のこの言葉が君を呼び寄せるものとなってしまったようだね。ああ、なんて罪深いんだ。だが、とても儚い」

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

「なんだい? 何でも聞いてくれ」

 

とりあえず、気になっていることを聞くことにした。

妙に儚いと言い続ける理由とかも気になるが、それ以上に気になることがあった。

 

「なんでいつも演技がかった仕草をしてるんだ?」

「それは、どこでも私にとっては舞台だからね……つまり、そういうことさ」

 

(うん。全然、わかんない)

 

そういうことと言われてもどういうことかは分からないが、とりあえずいつでも舞台だと思っておく練習方法という解釈をすることにした。

間違えていても、それほど問題にはならないだろうし。

そんなわけで、僕は軽く話をしたのちにその場を離れるのであった。

 

 

 

 

 

いまだに誰も来ていない教室で、僕は自分の席に腰かけると早速義父さんに渡された本を開く。

 

(いやー、本当にすさまじい人だった)

 

啓介とかで、そのすさまじさには慣れているような気がしていたが薫という人物は斜め上を言っていた。

 

(それに、僕も彼女のことを呼び捨てにできてるし)

 

女子相手に呼び捨てなどできない僕にとっては、衝撃的な状態だ。

それほど彼女の纏うオーラがすごかったのかもしれない。

彼女は間違いなくプロになれる。

そして、役者嫌いの僕ですらも、それを考えさせない彼女はある意味天才としか言いようがなかった。

 

(とりあえず、これを読み切ろう)

 

そして僕は本を読み進める。

それからどのくらいたったのか、ふと集中力が途切れた瞬間に、後ろ……精密には斜め左後ろから視線を感じた。

 

「ねーねー、何読んでるの?」

「……誰?」

 

それと同時にかけられた女子の声に、振り向きながら僕が返したのはそんな一言だった。

 

「えー、昨日名前言ったよ?」

 

そこにいたのは、少し頬を膨らませた短めな緑色の髪の少女だった。

 

「それは申し訳ない。興味がないから他の人のは聞いてないんだ」

 

(なんだろう……どっかであったような……)

 

そんな感覚を覚えながらも、僕はそう返した。

ぶっちゃけ、クラスメイトで知っているのは啓介くらいだし。

 

「じゃあ、もう一回するね。あたしは氷川(ひかわ) 日菜(ひな)! よろしくねっ」

 

元気いっぱいに自己紹介をする氷川さんは、興味深げにこっちを見ている。

おそらく、僕の自己紹介を待っているのだろう。

 

「……僕は、美竹 一樹。まあ、よろしく」

 

人に名乗らせて自分は名乗らないというのも、礼儀に反すると思い、僕は名前を言う。

それですべてが終わるだろうと思った。

 

(氷川……まさかね)

 

苗字が僕が知っている人のと同じだったが、同じ苗字の人など、探そうと思えばいくらでも出てくると思い深く考えないようにした。

それでも、この妙な感覚が消えることはなくずっと残り続けているのが気がかりではあったが。

 

「一樹………」

「な、何?」

 

だが、僕の名前を聞いた瞬間、彼女は先ほどまでとは違って疑いのまなざしで、僕のことを見る……いや、睨みつけてきた。

まるでそれは、親の仇のようなものにも思えた。

 

「ねえ、君。紗夜っていう人のこと知ってる? あたしのおねーちゃんなんだけど」

「………」

 

(紗夜って……そうか、そういうことか)

 

彼女の質問で、僕はこの不思議な感覚を理解した。

彼女の名前が同姓で、口にした”紗夜”が同名でなければ、間違いない。

目の前にいる少女は、僕が”奥寺”だった時に、よく料理のおすそ分けをしに来てくれた隣の家の娘、紗夜さんの妹だ。

 

「さぁ……()は知らないですね」

 

僕は、一人称を変えて答える。

これで、ばれた時も”私”は知らないと答えただけだと言い訳ができる。

完全に屁理屈だけど。

 

「そう……だよね。ごめんね、変なこと聞いて」

「いや、別に構わない。でも、どうしてそんなことを?」

 

とりあえず、なんで敵意をむき出しにされたのか、その理由だけでも聞いておきたかった。

 

「それはね、君と同じ名前の人が隣の家にいたんだけど、その人がおねーちゃんをいじめたから」

「それはひどいな」

 

(いじめたって、何?)

 

僕には心当たりがない。

もちろん、無意識にしていたという可能性はあるだろうから断言はできないけれど。

 

「うん。もうこの話はおしまいっ。それよりも、(かず)君」

「えっと……それって僕のこと?」

 

今、僕の聞き間違いでなければあだ名めいた感じで呼ばれたような気がするんだけど。

 

「うんッ! 一君のほうが”るんっ”てくるから」

 

(るんって、何!?)

 

今度は擬音が出てきた。

しかも全然意味が分からない。

 

「一君も、私のこと名前で呼んでいーよ。おねーちゃんとごっちゃになっちゃうでしょ」

「……わかったよ、日菜さん。これでいい?」

 

もうそのあだ名は変えるつもりはないだね、と心の中で突っ込みながら僕は名前で呼ぶことにした。

 

「うん♪ それでそれで、その本は何?」

「これは生け花の本だね。家がこういうのをやる家だから勉強」

「へー」

 

興味深げに本をのぞき込む彼女の姿は、どこか楽しんでいるような気がした。

これが、僕と彼女……氷川 日菜との出会いであり、そして僕の目指していた目立たずに平穏な学園生活を過ごすという目的が終わりを告げた瞬間だった。




最初の構想では、薫は出ないはずだったりします。

口調などが変かもしれないので、もしおかしかったらご一報いただけると幸いです。
それでは、また次回。

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