まさかの200話目です。
僕たちは、難なく電車に乗ってトコナッツパークのある場所に向かっていた。
電車内は、夏休みということもあって乗っている人は多かったが、混雑を避けるように集合時間を決めていたこともあり、そこまでの混雑はしていなかった。
(考えすぎだといわれても最善に備えないと)
こういった夏休みのような時期は、女性たちを食い物にしようとする不届き者が出没する時期だ。
ありえないとは思うが、できる限りそういった危険から自分の彼女を守りたいと思うのは、男の性というものだろう。
そんなことを考えながらも僕と紗夜さんの二人でドア付近に立って、外の景色を眺めていると紗夜さんが手を軽くトントンと引っ張ってくる。
「どうかした? 紗夜さん」
「いえ、さっき見たことがある人影を向こうのほうで見たので」
釈然としない言い方に、僕は紗夜さんの見ていた方向に視線を向けてみる。
そこにあったのは、特にこれと言って違和感のない車内の光景だ。
これからどこかに行くであろう老若男女の姿だ。
(ん?)
そこで、僕は違和感を感じた。
僕たちの斜め左後ろの方向にある座席だ。
そこでに座っている人物たちが気になった。
そこに座っていたのは今どきなカジュアルな服装の男女だった。
(あの、帽子……どこかで)
その中の一人、おそらくは女性と思われる人物が被っている、鼠色のニット帽がどこかで見たような気がしてならないのだ。
ニット帽には『SHE☆』という文字が縫われている。
(って、あれは日菜さんのだっ)
前に日菜さんの私服姿を見たことがあるが、確かにあのような帽子をかぶっていた。
(だとすると、その横の令嬢風の服装は湊さんか。って、横のギャルは完全にリサさんだし)
1人が分かると、次々にそこにいるのが誰なのかがわかるから不思議だ。
「一樹さん?」
「えっと……日菜さんと湊さん達だったよ」
一瞬、隠しておこうかとも思ったが、まず無理なので僕は紗夜さんの真実を告げた。
「……あと、佐久間さんたちもですね」
「……なんか、ごめん」
お互いに微妙な雰囲気になってしまった。
「それで、どうしましょうか? このままだとついてきますよ」
「……そうだね」
別に一緒に来てもいいが、今日はせっかくの紗夜さんとの初デート。
カップル水入らず(?)で今日は過ごしたい。
もっと言えば、知り合いに見られたくはない。
「撒きますか?」
「それができれば、良いんだけどね」
彼女たちはおそらくだが、僕たちがどこに行くのかを知っている。
もしそうであるならば、僕たちの目的地を知っている以上、撒いたところでそこに行ってしまえばいいだけの話だ。
「でしたら、どうすれば」
「僕にいい考えがあるんだけど」
そこで僕は、ある作戦を決行するべく、紗夜さんに段取りを説明するのであった。
目的の駅に到着した僕は、改札を抜けると、ゆっくりとした動きで路地裏に入り込む。
その先の突き当りを左に曲がったところで、僕と紗夜さんは反転して、先ほど来た方向に向かって立つ。
僕がやろうとしているのは、至極単純な待ち伏せだった。
「うわ!?」
「きゃ!?」
「うおわ!?」
現に、遅れてやってきた追跡者である日菜さんたちは、待ち構えている僕たちに驚いて、急停止してつんのめるがその背中に続いていた人たちが次々にぶつかるという、ベタ展開が繰り広げられることとなった。
「あ、あはは……」
そして、僕たちと目が合うと、彼女たちは引きつったような表情で笑ってその場を取り繕う。
「もはや、言い逃れはできないけど。どうしてここにいる?」
「えっと、おねーちゃんと一君がどんなデートをするのか見たくなって」
「二人の初デートを見守ってあげようかなーって」
「わ、私は……あこちゃんを止めようと」
「俺のバラ色の夏休みを奪われたんだから、このくらいいいじゃないかっ」
理由を問いただすと出てくる数々の釈明に、僕と紗夜さんはため息を漏らした。
まとめると、日菜さんのように好奇心からつけてきた者が8割、それ以外は白金さんのようにそれを止めようとしていた人物という構成になっているようだ。
一部に嫉妬めいたものが理由の人がいるけど。
「あなた達、いったい何を――「まあまあいいじゃないか」―――ですが、一樹さん」
紗夜さんの雷が落ちようかというところで、僕はそれを止める。
「一君……本当にごめんね」
紗夜さんの雷が落ちないということで、ほっと安堵の表情を浮かべる者がいるが、それは甘すぎだ。
「彼女たちのつけてこようとしたそのやる気は褒められるべきだ。だから、それにお応えして次のバンドの練習の時は僕もいつも以上に張り切らせてもらうよ」
「えっと……張り切るって?」
僕の物言いで察したのか、引きつった笑みを浮かべたリサさんからの問いかけに、僕は
「無限地獄行きだ」
サクッと地獄行きを宣告した。
「じょ、冗談よね? 美竹君前に言ってたわよね? あれはやらないって」
「確かに言ったけど、こんなことをしてせっかくの初デートに水を差したあほどもを、僕が謝罪だけで済ませるとでも?」
『思ってないです』
即答で答えが返ってくるのは複雑だが、こちらとて楽しい時間に水を差されているのだ。
このくらいはやったって罰は当たらないだろう。
「さあ、早く帰んな。それとも無限地獄のパワーアップ版である『無限地獄MAXIMUM』がお望みか?」
『ひぃっ!?』
僕のその言葉に、全員は雲の子を散らすように逃げていく。
ちなみに、『無限地獄MAXIMUM』など存在していないのだが。
「か、一樹さん。あなたは鬼ですか?」
「でも、紗夜さんのお説教よりは効果てきめんでしょ?」
紗夜さんにも引かれたが、僕たちは気を取り直して、トコナッツパークに向かって歩き出す。
その後、トコナッツパークに到着するまでの間、後ろのほうを警戒していたが、僕の脅しが効いたようで彼女達の姿を見ることはなかった。