道中で、日菜さんたちに尾行されるというハプニングはあった物の、僕たちは目的地であるトコナッツパークにたどり着くと、受付で招待券をスタッフの人に渡して中に入る。
「それでは、着替えたら外のほうで待ち合わせましょ」
「わかった」
このトコナッツパークはウォーターアトラクションが多いことで有名であり、その性質上水着に着替えておく必要がある。
またテーマパークのアトラクションは、ほとんどが室外にあるので、一度外に出る必要がある。
外に出るにも更衣室を通る必要があるので、更衣室を素通りするような人物はそうそう現れないだろう。
水着を忘れた人には、水着の販売店もあるというある種の親切設計らしい。
それはともかくとして、僕は一度紗夜さんと別れ、更衣室で水着に着替えて外に出た。
外には紗夜さんの姿がないので、まだ着替えが終わっていないのかもしれない。
そしで、そこで僕が見たのは、アトラクションの数々だった。
「すごいな……さすが大人気なスポットなだけある」
目の前にあるのは、まるで遊園地ではないのかと思わせるほどのアトラクションの数々だった。
(そういえば、どのアトラクションに行くか全く決めてなかったな)
テーマパークの概要は調べても、アトラクションまでは調べないバカがどこにいるのかと思うが、ここにいる。
僕は、とりあえず少し先にある案内板のほうを確認する。
色々なアトラクションがあるが、マイナーな感じのアトラクションは避けて、メジャーなアトラクションで行くほうが無難だろう。
(だとすると、定番のウォータースライダーに、ウェーブプール……波のプール? といったところかな)
それ以外は行き当たりばったりでいいだろう。
「一樹さん」
「あ、紗夜さ……ん」
適当にプランを決めたところでかけられた声に、僕は声のほうに振り返ると、言葉を失ってしまった。
そこにいたのが、水着姿の紗夜さんだったからだ。
いや、ここはウォーターアトラクションのテーマパークなのだから、水着を着ていても不思議ではない。
簡単に言ってしまえば、紗夜さんの水着姿に見惚れてしまっていたのだ。
「あ、あの……私の水着、変……ですか?」
そして、僕のそれを自分の格好がおかしいからだと思い込んでしまった紗夜さんの上目遣いに近いそのしぐさに、がりがりと体力的なものが削られていく。
「い、いや、そんなことは……とても似合っていてかわいいよ」
「か、かわっ!? ……は、恥ずかしいので、そういうことはこういう場所でははっきり言わないでください」
僕の恥ずかしそうに頬を赤らめる紗夜さんだが、それでもかわいいのは真実だ。
やや落ち着いた感じの薄水色っぽいビキニタイプの水着は、紗夜さんにかなりマッチしていた。
「そ、それでどこから行きましょう?」
「えっと……ウォータースライダーと、ウェーブプールを回ってみようかなと思うんだけど、どっちを先にしようか……」
「それでしたら、ウォータースライダーは一番人気があるらしいので優先パスをとりましょう。ウェーブプールも、この時間でしたらそんなに混雑はしていないはずです。あと、食事の入店予約も済ませておきましょ。食事時になると入店するのに時間がかかりますから。おすすめは――――」
(す、すごい……)
紗夜さんの口からすらすらと出てくるプランに、僕は舌を巻く。
いったいどうすればここまで念密なプランを立てられるのだろうか?
「あの、どうかしました?」
「紗夜さんって、もしかしてここに来たことある?」
「いえ、今日が初めてです。事前に調べておいただけです。せっかくの一樹さんとのデートなんですから、待ち時間などで貴重な時間を無駄にするのは嫌だったので」
(紗夜さんも、今日のデート楽しみにしてくれてたんだ)
そう思うと、なんだかうれしい気持ちがこみあげてくる。
「な、なんですか? その顔は」
「何でもないよ。それじゃ、ウォータースライダーの優先パスを取りに行こう。なくなったりしても嫌だしね」
そうんなこんなで、僕たちはウォータースライダーの優先パスを取るべく、その場を後にするのであった。
その後に、紗夜さんおすすめのお店で予約を済ませた僕は、ウェーブプールで遊ぶことにしたのだ。
「すごい流れがあるな」
「ええ。なかなか面白いですね」
僕と紗夜さんは、そのプールの流れに身をゆだねていた。
周りには浮き輪をして空を眺めていたり、どっちかの方向に泳いでいたりと楽しんでいる人たちがいた。
水中でもちゃんと手をつないでいる僕たちは、もしかしたらバカップルに見えるかもしれないが、それでも僕はとっても楽しく、充実した時間だった。
(出来れば、紗夜さんも同じ気持ちだといいな)
そんなことを願いながら、僕は楽しそうに笑っている紗夜さんの表情を見ているのであった。
「予約を取っておいて正解でしたね」
「うんそうだね。意外に早く入れたよ」
ちょうどお昼時だということもあり、ウェーブプールを後にした僕たちは、腹ごしらえをするべく先に予約をとっておいたレストランエリアの南側にあるシーフードレストランを訪れていた。
ここは高校生にもお手頃な価格であり、なおかつテラス席ではパーク内を一望できるらしく、紗夜さんがおすすめというのも頷けるお店だった。
「一樹さんの、おいしそうですね」
「え、そう? そういう紗夜さんの料理もおいしそうだよ」
紗夜さんは、突然僕の頼んだ料理を見ながら言ってくるので、僕も同じように返す。
「で、でしたら私の一口、食べますか?」
「えっ……いや、それなら僕のもいいよ」
なんだか紗夜さんがさっきからおかしい。
なんというか、もじもじしているというか……
「そ、そうですか。では……はい」
「あの……これは一体?」
そう言って自分の料理をフォークに乗せてこちらに差し出してくる紗夜さんの行動に、僕はそう言うのが限界だった。
「で、ですから……食べさせて、あげます」
「…………」
顔を赤くしてこちらから視線をそらせる紗夜さんの申し出に、僕は今度こそ言葉を失う。
「あ、あの……もしかして、私何か間違ったことを……今井さんが、こういうことをする物だと言っていたので」
(リサさんの差し金かっ)
どうやら、これはリサさんの差し金だったようだ。
だとすれば、納得も行く。
紗夜さんがいきなりそのようなことをするようには思えなかったからだ。
でも、あえて言おう。
”リサさん、ナイスアドバイス”だと。
「すみません、今のは忘れ――「いやいや、全然変じゃないから」――そ、そうですか? では……あーん」
「あ、あーん」
紗夜さんから食べさせてもらった料理は、残念なことに全く味が分からなかった。
(これ、ものすごく恥ずかしいっ)
理由は恥ずかしさというものだけど
「ど、どうですか?」
「お、おいしいよ」
それでも、口から出てくるのはそんな言葉だ。
多分嘘は言ってない。
平常時に食べればおいしかったはずだ。
「それじゃ、はい。紗夜さん、あーん」
「え、私は別に――「あーん」――あ、あー……」
自分だけはやらないつもりのようだがそうはいかない。
僕は頬を赤らめている紗夜さんに料理を差し出すとそれを食べさせた。
そして、しばらくして紗夜さんが口を開く。
「おいしい……ですけど少し恥ずかしいですね」
結論として、とても恥ずかしかったというので一致したお昼時だった。
ちなみに、この時僕たちが注目を集めていたのは、言うまでもなかった。
食べさせ合いっこをするカップルは、果たしてバカップルなのか否か……ものすごく気になっていたりします(苦笑)