BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第7章『胎動』
第203話 新学期


「……いよいよか」

 

色々なことがあった夏休みも、昨日で終わった。

今日からはまたいつもの学園生活が始まる。

 

「さてと、頑張りますか」

 

僕は自分を奮い立たせるように声を出すと、自室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

「行ってきます」

 

朝食を食べ終えた僕は、一足先に家を出る。

妹の蘭とはあまり一緒に学園に行くことはない。

理由としては単純に、出る時間がバラバラだというものなのだが、今日のような日はその限りではないのだ。

なので、別に蘭と一緒に出てもよかったのだが、今日だけは一人で行きたかったのだ。

その理由は、いつもの啓介たちとの待ち合わせ場所にいる人物との約束だからだ。

いつもの待ち合わせ場所にいたのは、日菜さんでも啓介たちでもなく

 

「おはよう、紗夜」

「おはよう、一樹君」

 

柔らかい笑みを浮かべる僕の大事な恋人である紗夜だった。

僕たちはどちらからでもなく自然な動作で手をつなぐと、学校に向かって歩き出す。

 

「一樹君、宿題は終わりましたか?」

「あはは、どこかのあほじゃないからちゃんと終わらせてるよ」

 

彼女と恋人同士になって約一か月。

まだ付き合いたてホヤホヤ(?)な僕たちだが、仲はとてもいい。

この間の失敗に終わった初デートが一番大きいと僕は見ている。

そんな彼女と、今日一緒に登校しているのは、単純に紗夜さんと約束をしたからだった。

 

「……? 一樹君、私の顔に何かついてるかしら?」

「いや。今日も紗夜はかわいいなって」

「なっ……い、いきなり何を言うのよっ」

 

僕の一言に、紗夜さんの顔が一気に赤くなる。

 

「だって、一緒に登校したいだなんて、紗夜さんから言ってくれるなんて思いもしなかったんだから」

 

そう、今日一緒に登校したのは紗夜から提案があったからだ。

僕としては断るという選択肢など最初からないので、二つ返事でOKを出すと、場所と時間を伝えて待ち合わせたのだ。

 

「だって……私と一樹君は学校が違うし、それに日菜がいつもあなたと一緒に登校してるって言ってるから……」

「なるほど、嫉妬しちゃったんだ」

「だから、そうやってはっきりと言わないでっ」

 

紗夜の言わんとすることを汲んで口にすると、思いっきり怒られてしまった。

でも、顔が赤いから迫力は形無しだけど。

 

「め、迷惑だったりする?」

「まったく。僕も紗夜と一緒に登校できてうれしいよ」

 

何度も言うが、上目遣いはズルい。

でも、僕は何も嘘は言ってない。

彼女と一緒に登校できてうれしいんだ。

 

(なんだか、日菜さんが煽っているような気もしなくもないけど)

 

あまり変なことをするようであれば止めるが、現状でそれをするほどのことでもないので、とりあえず放っておくことにした。

 

「あ……」

 

そんな話をしていると、いつもの分かれ道までたどり着く。

それまで明るかった紗夜の表情が曇るが、こればかりはどうしようもない。

 

「あの……もし迷惑でなければ、明日から一緒にどうかしら?」

 

視線をいろいろな場所に移しながら聞いてくる紗夜に、僕は

 

「喜んで」

 

と応えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始業式ということもあり、一日の内容も朝礼とHRといった簡単な内容がほとんどだった。

 

(啓介、今頃地獄を見てるだろうな)

 

啓介は不運にも、提出日に提出しなければ倍の課題を課すことで有名な教師の科目の宿題を終わらせられず、ペナルティが確定となったそうで田中君伝で、啓介からの悲鳴が届けられた。

尤も、僕ができるのはただただやらせることだけなのだが。

それはともかくとして、放課後に僕は一人で屋上に来ていた。

理由はただ単純に時間つぶしのためだ。

 

(紗夜が帰る時間までまだ余裕があるし、他の場所でも行ってみようかな)

 

この日、紗夜と一緒に帰る約束をしていた僕は、紗夜が帰れる時間までここで待つことにしたのだ。

本当であれば、花女で待てばいいのだが、あそこにはいろいろなやばい奴がいるので絡まれるとものすごく体力を消耗する。

例えば、3階から飛び降りて傷一つもないという、日本の代表選手も真っ青な芸当をやって見せた某金髪少女とか。

本人は星の形の髪型と言っているが、見た目は確実に猫耳のような髪形をしている少女とか。

 

(うん。絶対にかかわりたくない)

 

後者はともかく、前者は本当にやばい。

彼女の場合は日菜さんの倍吹っ飛んでいるので、かなり大変だ。

ただでさえ、日菜さん一人でも振り回されているのに、それが倍になったとあればどうなるかなんて想像がつく。

別に悪い人というわけではないのだが、少しだけ苦手意識があるのが正直なところだ。

 

(それに、待ってたら目立つんだよね)

 

こことは違い、花女は完全に女子高だ。

そんな場所に男の僕が待ってれば、嫌でも注目を集める。

別に、僕はアイドルでもなければ、紗夜に至っては一般人だ。

恋愛をしたところで、たいした問題にはならない。

これが日菜さんだったら、話はまた別なのだが。

とはいえ、騒がられてちやほやされるのも考え物だ。

ましてや紗夜は風紀委員だ。

そんな彼女が風紀を乱していると、後ろ指をさされるのはどうしても避けたかった。

 

(まあ、どうやっても付き合ってるのがばれるのは時間の問題だけどね)

 

田中君曰く、『お前たちには自覚はないだろうけど、二人が一緒にいると完全に甘ったるい雰囲気になってるぞ』とのことらしいので、それは間違いない。

 

(ま、どうとでもなるか)

 

そのことについて僕には動揺などは一切なかった。

 

「さてと、そろそろ行くか」

 

本当はいろいろと歩き回ろうと思っていたが、考え事をしていたらちょうどいい感じの時間になっていたこともあり、僕は紗夜と合流するために屋上を後にしようとした。

そんな時だった。

 

「待ちたまえ、美竹一樹」

「ん?」

 

なんだか珍妙な言い回しで僕を引き留めたのは、阿久津だった。

 

「貴様には、この前恥をかかされた。これは死刑に値する」

「…………」

 

今、僕は完全にあっけにとられていることだろう。

前半は分かる。

後半が意味不明だ。

 

「よって、お前を処刑する……と言いたいところだが俺様の慈悲で貴様に最後のチャンスをくれてやる」

「……チャンス?」

 

正直に言って、相手にもしたくないのだが、いつまで付きまとわれても面倒なので、とっとと話を切り上げさせる方向に行くことにする。

 

「日菜とその姉の紗夜を、俺様に献上しろ」

「…………………は?」

「低俗な貴様にわかりやすく言うとだな、この俺様の側室に日菜と紗夜をさせろ。お前も長生きしたいだろ?」

 

一瞬何を言っているのかが理解できなかったが、改めて言い直してくれたことではっきりと理解できた。

 

(この野郎、日菜さんだけでなく紗夜まで……許せない)

 

怒りが頭の中を埋め尽くそうとするが、それも一瞬のこと。

スーッと頭の中がクリアになっていく感覚に変わっていた。

 

「それに『イエス』とでも言うと思ったか? 答えは『ノー』だ」

 

このような奴に怒り狂ったところでどうしようもないと思えたからこその切り返しだった。

 

「貴様っ、この俺様の寛大な慈悲を無碍にするとは……貴様にこの世の地獄を見せてやるっ! 俺様には大―――」

「寝言は死んで言え。バーカ」

 

怒り狂って何かを吠えまくっている阿久津を無視して、僕は屋上を後にする。

今にして思えば、これが始まりだったのかもしれない。

 

 

 

★ ★ ★ ★

 

 

 

とある場所の一室。

そこは、まるでリビングではないかと思わせるほどの広さのある部屋だった。

置かれている家具なども、高級さをうかがわせるものばかりだった。

そこにいる1人の短髪の白髪の男の近くに置かれていた電話が鳴り響く。

 

「おぅ、どうした? ん? なんだと?」

 

電話口の人物の話を聞いていた男の口調に怒りが混じり始める。

 

「そんなひどいことを……よし任せろ。あんちゃんがそいつを成敗してやる。で、名前は?」

 

男は手にある飲み物が入ったグラスをテーブルに置きながら、電話の相手の話に耳を傾ける。

 

「美竹一樹だな」

 

その名を口にした男の口は、不気味なほどに吊り上がっていた。

 

 

BanG Dream!~隣の天才~   第7章『胎動』




というわけで、今回より新たな話が始まります。
前半と後半の話の明暗がすごいことになっていますが、今回はこんな感じになりそうです。



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