団長たちから、一報があって数日が経過した。
これまで、特に変わったような出来事は起こっていない。
もし団長から何も知らされていなければ、僕は対策をとることもなく大倉家の餌食になっていただろう。
これに関しては、本当に運がいいとしか言えなかった。
「一樹君、どうかしたの? 顔が怖いわよ」
そんなことを考えていたからだろう。
少しだけ心配した様子で紗夜から声をかけられてしまった。
「そう? 好きな人と一緒にいるから緊張してるのかな」
「も、もうっ。本当に恥ずかしげもなく言うのね」
僕の切り返しに、紗夜は恥ずかしそうに言いながらも、どこかうれしそうな様子だった。
(何とかごまかせた)
本当であれば、紗夜にも言うべきなんだろうけど、そんなことをして下手に心配をさせてしまっては申し訳なさすぎる。
いや、それ以上にこういった何でもない時間は、僕にとっては癒しのようなものでもあるのだ。
だから、話すわけにはいかないのだ。
「それにしても、これからどんどんと寒く、そして日も短くなっていくわね」
「そうだね。まあ、それが普通なんだけどね」
あとひと月もすれば、今はまだ明るい時間でも薄暗くなっているだろう。
彼女と過ごす冬はどんな感じなのかなと考えていると、とても幸せな気持ちになってくる。
そんな時だった。
「な、なんですか? あなた達は」
いきなりの事態に、紗夜は問いただす。
だが、その声は完全に震えていた。
それもそのはずだ。
大勢の男が、僕たちを取り囲むように立っている状況で平気な人など、どこにもいない。
それも、殺気のようなものを隠すこともなく放ちながら、手には鉄パイプを持っているという、明らかにやばい奴だとわかるような格好をしているとなればなおさらだ。
僕はできる限り冷静に自分の状況を確認する。
僕がいる場所は運の悪いことに、この付近は住宅街から少し離れた場所のため、人通りが多くはない。
つまり、大きな声で叫んだところで、助けが来る可能性は極めて低いのだ。
「美竹一樹だな」
状況を確認していると男の一人が、僕たちにそう問いかけてくる。
「そうですけど、何か御用でも?」
「うぉらぁ!!」
僕の疑問に返ってきたのは、男からの攻撃だった。
「ふっ!」
僕は振り下ろされた鉄パイプをすんでのところで躱した。
それが合図だったかのように、僕を囲っていた男たちが一斉に襲い掛かってきた。
「紗夜、僕から離れないでっ」
「は、はいっ」
僕は紗夜に危害が及ばないように、彼女を守りながら男たちの攻撃をさばいていく。
「やぁ!」
ある時は、相手の腕を取って、投げ飛ばし、
「ふっ」
またある時は足を引っかけて転ばし。
それを永遠と繰り返していく。
暴漢対策にとやっていた格闘技の経験が、ここで活かされるとはある意味複雑な気持ちだ。
(くそ、そろそろ限界か)
どのくらいやり合ったのか、僕の体力のほうが限界を迎えつつあった。
ここまでは何とか捌けてたが、次第に余裕(元からないけど)もなくなりつつある。
「ッ!」
その時だった。
ついに限界を迎えた僕は、足をもつれさせて地面に倒れてしまったのだ。
相手も、それを見逃すはずもなく、鉄パイプを手にこちらに一斉に向かってくる。
「一樹君っ!!」
紗夜の悲痛な叫びに、僕は一瞬覚悟を決めた時だった。
「オラオラオラァ!!!」
「グハッ」
「がっ!?」
威勢の良い雄たけびと共に、男たちをなぎ倒しながら、一人の人物が現れたのだ。
「何だてめえはっ!」
「そいつの幼馴染だッ! おめえら、どうして一樹を狙うッ!」
その人物……田中君は大きな声で男たちを問いただす
「邪魔すると、おめえも痛い目見るぞッ!!」
「そう言われて、逃げるほど薄情じゃねえんだよ!」
その横にいた中井さんも、激しく頷く。
田中君の背中に隠れながらだけど。
「構わねえ、やっちまえ!」
男の一人の掛け声とともに、再び男たちの攻撃が始まる。
だが、田中君たちが助けに入ったことで、うまく分断されたため、僕でも十分に余裕を持って捌くことができるようになった。
田中君は僕以上に柔道の達人だ。
男たちの攻撃を余裕で捌くと、無力化していった。
「死ねぇっ!!」
「いやああああ!!!」
対する中井さんも、護身術レベルではあるが男を投げ飛ばしていた。
……悲鳴を上げながらだけど。
「退けっ、退けぇっ!」
そんな状況に、自分たちが不利だと悟ったのか、男の声に反応するように、その場にいた男たちは走り去って行った。
「一樹……無事か?」
「うん。ありがとう、二人とも。紗夜は?」
軽く息を切らせながらも僕の身を案じてくれる田中君にお礼を言いながら、近くにいた紗夜にも確認をとる。
「ええ。私は大丈夫だけど……」
「一体、何者だあいつら? どうしてお前たちを狙うんだ?」
「わからないけど……とりあえず早いとこ帰ったほうがいいかな」
紗夜の言葉を引き継ぐように口にした田中君の疑問の言葉に、僕はそう言って誤魔化した。
「そうだな。俺達も同行するぞ」
「ありがとう」
こうして、僕たちは田中君たちに守られる形で、それぞれの自宅に帰るのであった。
(……どうしよう)
そんな僕の悩みの種を抱えながら。
★ ★ ★ ★
同時時刻、大倉家の雄一の部屋。
そこにいたのは雄一と、複数人の黒いサングラスに黒服を身に纏った男たちの姿だ。
「何? 失敗しただと?」
「はっ。申し訳ございませ―――」
「馬鹿野郎! 一人をしとめるのに、何を手間取ってやがるっ」
直角に上半身を前に倒しながら謝罪の言葉を口にしようとするのを遮った雄一が、黒服の男たちに罵声を浴びせる。
「それが、とんだ邪魔が入りまして……」
「っち、運のいい野郎だ。次の手を考えねばな」
そう口にした雄一は不気味な笑みを浮かべていた。
出来れば今年中には紗夜ルートを終わらせたいなと思う、今日この頃です。