第208話 処分
「失礼します」
あの衝撃的なメールに会った指示通り、事務所に向かうと、受付で待っていたのか、相原さんとと共に向かったのは社長室だった。
「わざわざ休みの日にすまないね」
「いえ」
口調こそ穏やかだが、表情はかなり険しかった。
僕は社長に促らされるまま社長の向かい側のソファーに腰かける。
「さて。本題に入ろう。話とは他でもない、例のメールの件だ」
「実は先ほど、こちらの原稿が出版社から送られてきました。明日、これを掲載するという内容の文面と一緒に」
机の上に置かれたそれは、先ほどのメールに添付されていた画像の物だった。
雑誌名は『週刊分代』となっていた。
ゴシップ記事などを面白おかしく書き連ねている雑誌らしく、あまり評判は良くないらしい。
そして、そんな雑誌の見出しは、メールの内容と同じだ。
『人気バンドの『Moonlight Glory』のメンバー、一樹氏に特大スキャンダルを入手した。なんと、何の罪もない一般人に暴力をふるい怪我をさせたというものだ。被害者Aさんは、全治三か月の重傷で、近く被害届を提出する予定らしい』
そこから先もいろいろ書かれていたが、読むのをやめた。
「で、念のために聞くが、この記事は事実かね?」
「いえ。全く持って身に覚えがありません」
社長もそのことは分かっているようで、”ふむ”と相槌を打つにとどまった。
「私としてもそうであると考えているが、君直近で暴力沙汰を起こしているらしいじゃないか」
社長の言うことに心当たりはない。
だが、思い当たるとすれば一つだけある。
「……それは、Pastel*Palettesの氷川日菜さんのことでしょうか? お言葉ですが、例の件に関しては私は『された側』です。また、彼女とは和解しており、解決済みです」
「確かにそうだがね、私は君にも原因があったと考えているんだよ」
社長のその言葉に、僕は何も言えなかった。
社長のまっすぐな視線が、僕から反論の言葉を奪っていたのか、それとも図星だったからか……多分両方だ。
「君が一方的に暴力をふるったとは思ってはいないが、火のないところに煙は立たないともいう。よって、君を無期限の謹慎処分とする」
社長の口から告げられた処分に僕は何も言うことができなかった。
「この一件がうまく終息するまでを期限とするが、状況によってはさらに重い処分も検討する可能性がある。学校側にも連絡をしておいたから、大人しくしておくように。決して独断では行動せず、相原に確認を通してから動きなさい。いいかね?」
「……はい」
話は終わりだといわんばかりに、僕のみ退出するように告げられ、僕は深く頭を下げると、社長室を後にするのであった。
BanG Dream!~隣の天才~ 第8章『炎と鏡と』
「これは参ったな……」
あのまま家に戻った僕は、自室でぼやいた。
(まさかあの時の一件が処分の判断材料にされるだなんて)
日菜さんが僕を殴り飛ばした一件は、思いのほか根深い影響を与えていたらしい。
確かに、あれは僕が彼女を怒らせてやらせたことなので、社長の言っていることもあながち間違いではない。
羽丘からは、自宅についた時に義母さんから、同じく自宅謹慎の処分が下されたことを知った。
奇しくも、日菜さんの時と同じ状況となってしまったわけだが、この処分は僕的には社長の優しさであると解釈している。
もしこのままお咎めなしで、外を出歩いていればさらなるトラブルに巻き込まれる可能性だってあるのだ。
例えば、心無い野次や、義憤に駆られた人物による襲撃等々。
あげてもきりがないほどにある。
(とりあえず、今のうちにできることをやろう)
社長の話によれば、発売日は明日だ。
つまり、すべてが始まるのは明日ということになる。
「えっと……『しばらくの間電話はこっちに』と」
僕はRAINで知り合い全員に、事の次第を説明した文面と電話番号を書いてからそれを送信するt、電話の電源を切る。
「本当に速いな」
切った直後になり響く着信音に、僕は苦笑しながらも机の上に置いた一昔前の携帯(ガラケーだけど)を手に取ると、番号を確認するとその電話に出た。
「もしもし」
『一樹君!? いったい、あのメッセージはどういうことなの!』
電話に出るや否や、切羽詰まった様子でまくしたてる紗夜の声に僕は思わず形態を耳から離してしまった。
「そのままの意味だよ。人を殴って怪我をさせたっていう内容の記事が出るらしいから、謹慎してるように言われたんだ」
『そのことは事実なの?』
「まさか。心当たりなんて微塵もないよ」
紗夜の問いに、僕はきっぱりと断言する。
僕が分身でもしていない限り、そいう事件を起こすことはありえない。
『そうよね。私は一樹君を信じるわ』
「ありがとう。それと一つ提案だけど、この疑惑が晴れるまで、家に来るのは控えてもらってもいいかな?」
『え? ……どうして』
どうやら家に来るつもりだったのか、少しだけショックを受けたような声色が返ってきた。
「この一件でマスコミが家にまでくる可能性が十分考えられる。そこに紗夜が来たら紗夜まで迷惑がかかることになるんだ」
『私は、別に迷惑だなんて……』
「僕のせいで関係ない人が巻き込まれるのは、僕が嫌なんだ」
紗夜の言葉を遮るように、僕はそう言う。
紗夜はある意味無関係だ。
だからこそ、僕はあまり巻き込みたくはない。
もちろん、好きな人だからという理由もある。
『一樹君……わかったわ』
そんな僕の気持ちが通じたのか、紗夜は聞き入れてくれた。
「それじゃ、電話切るね」
『え、ええ』
それから他愛のないことを話し続け、気づけばすでに1時間も話し込んでいた。
これ以上はさすがに紗夜にも申し訳ないので、僕は電話を切ることを切り出した。
『一樹君』
「何?」
電話を切ろうとすると、紗夜から名前を呼ばれた僕は紗夜の言葉を待った。
『大好きです』
「………え?」
恥ずかしそうに言われたその言葉の意味が理解できたのは、電話口から『ツー、ツー』という音が聞こえていた時だった。
「それ、ズルいでしょ」
僕はもうつながっていない電話に向かって、ぽつりとつぶやくのであった。
新しい章は、まさかの処分から幕を開けました。
ちなみに、週刊誌名は架空の物なのです。