BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第209話 炎上

とうとう僕の暴行事件の記事が掲載された週刊誌が発売された。

特に予想していたような騒動などは起きず、ただただ平和な時間が続いていた。

ネットで軽くエゴサをしてみると、やはり記事の影響からか『一樹、クズだな』といった批判的な書き込みはみられるものの、ごくごく少数の印象が強い。

やはり、週刊誌の評判の悪さが、ある種のストッパーになっているのだと思う。

だが、それも長くは続かなかった。

それは、夕方のことだった。

 

(ん? お客さんかな)

 

リビングで気晴らしを兼ねて花を活けているときに、来客を告げるチャイムが鳴る。

 

「はーい、今行きます」

 

そのチャイムに義母さんが応対しに玄関に向かうのを見送り、再び花を活けようとした時だった。

 

「一樹! ちょっと!」

「何だ?」

 

玄関のほうから聞こえる義母さんの呼ぶ声に、尋常なら座ぬものを感じた僕は急いで玄関に向かう。

そこにいたのはスーツ姿の二人組の男性だった。

 

「美竹一樹君だね? 警察の者です」

 

ドラマと同じように警察手帳をこちらに見せる行動に、まるでドラマでも見ているのかと一瞬思ってしまった。

 

「公園での暴行容疑の件で、署までご同行願いますか?」

「失礼ですが、それは強制ですか?」

 

僕の問いかけに、警官の表情が一瞬だが強張るのを見逃さなかった。

 

「いえ、任意ですので拒否することもできます。ですが、心証は悪くなります」

「それでしたら、申し訳ありませんがただいま立て込んでいますので、後日お伺いいたします」

 

僕は警官の任意同行を拒否した。

それに対して、警官の疑いのまなざしは一気に強まる。、

 

「わかりました。では後日来ます」

 

警察も任意の状態で無理やり連れていくことはできないので、引き下がるしかない。

何とか、この場をしのぐことはできた。

 

「一樹、どうして断ったのよ?! これじゃ一樹が犯人だって思われても仕方がないわよ」

「まあ、それが狙いなんだけどね」

「何ですって?」

「いや、何でもない。申し訳ないけど、もう少しだけ僕の好きなようにさせてほしい。決してこの家に泥を塗るようなことにはさせないから」

 

一瞬漏れ出た本音をごまかしながらも、僕は義母さんに頭を下げて頼んだ。

 

「……気を付けるのよ?」

「ありがとう」

 

僕の無謀にも思えるその頼みを、義母さんは何も聞くことなく受け入れてくれたことに、僕はお礼を言うのであった。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

自室に戻った僕は、息を吐きだした。

 

「まさかここまで早くに動いてくるとは……」

 

まさか記事になったその日に警察に呼ばれるとは思ってもいなかったので、その展開の速さに驚きを隠せなかった。

 

(でも、これではっきりした。やはり、背後に大蔵の影があるな)

 

そもそもそれ以外にあり得ないのだが、念には念をということで見極めていたのだが、その結果がこれだ。

 

「……嵐が来るな。これ」

 

僕はこの先に訪れるであろうそれを確信するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記事が掲載されて三日が経過した。

この頃、状況は悪化の一途をたどっていた。

 

『さて、続いてのニュースです。連日お伝えしております、人気バンドのMoonlight Gloryの一樹容疑者による暴行事件についてです―――』

 

朝のテレビのニュースで報じられたのは、僕の暴行事件疑惑についてだった。

任意同行を拒否した次の日から様々な新聞などで大々的に報じられるようになった。

そして、いつの間にか、僕が犯人だという断定という形になっていた。

さらに変わったことがもう一つあった。

 

「……」

 

それは、先ほどから何度も何度も鳴り響くチャイムだ。

カーテン越しに見える窓の外には、たくさんの報道関係者の姿があった。

どうやら僕に直撃取材を行おうとしているらしい。

 

「すみませーん! 今日新聞の者ですが―! 一樹さん、出てきてくださーい!!」

「……うるさ過ぎ」

 

ひどいところだと大声で僕を引きずり出そうとする者まで出る始末だ。

 

「……行ってくる」

「外、あんなんだけど無視していいから。相手にするんじゃないよ」

 

僕は謹慎中なので、外に出ることはないが、蘭はそうはいかない。

 

「もう慣れたから、平気」

「ごめんね、迷惑かけて」

「別に、兄さんが悪いわけじゃないでしょ……兄さんこそ、頑張って」

 

無関係の妹に迷惑をかけていることを誤るつもりが、逆に励まされてしまった僕は、リビングから蘭を見送る。

ドアを開けると、一瞬者たーおんやら何かをまくしたてる声が聞こえるが、それもすぐに元に戻る。

これも、いつもの日常だ。

 

『では、現場の鈴木さん』

 

そんな中、いまだにテレビでは僕のことを報道していた。

どこかと中継がつながっているのか、中継先の人物を呼び出すと、映像はスタジオから切り替わる。

 

(ん? ここって……まさかっ)

 

画面に映しだされた住宅街に、見覚えのあった僕は嫌な予感を感じずにはいられなかった。

 

『はい! 今私は、一樹容疑者と交際しているとされるAさんの自宅前に来ております! 先ほど取材を申し込みましたが、『彼は無罪だ』と訴えておりました』

 

それは僕の予想通り、紗夜たちの家だった。

 

「クソっ」

 

どういうわけかはわからないが、どうやら僕と紗夜の交際が明るみになってしまったようで、彼女のもとにも報道関係者が殺到しているようだった。

 

『まったく、無責任な恋人のせいで、迷惑をこうむっているというのに、一樹容疑者は逃げているわけでしょ?』

『本当に無責任ですね』

 

テレビでは出演している人たちが口々に僕の批判をし続けている。

しかも、紗夜の存在をちらつかせながらだ。

僕は、これ以上聞く気にもなれず、テレビを切ると自室に逃げ込むように移動する。

 

「はぁ……さすがにこれは堪えるな」

 

自室に戻ってほっと胸をなでおろしながらも、僕はこの現状をぼやく。

このままベッドに潜り込んで外の騒動をシャットアウトしたいという気持ちとは裏肌に、僕はエゴサをしていた。

それまでは非常に少ない批判的なコメントも、現在では大幅に増えていた。

コメントの内容も『クズ』やら『逃げるな』などが多く、中には『自害しろ』やら『殺す』といった物騒な文言も多く存在している。

 

(さすがにこれ以上は難しいか)

 

少しだけ様子見をしていたが、関係のない人にまで影響が及んでいる始末だ。

そろそろこちらも行動をするべきなのかもしれない。

僕は、携帯を手にすると電話をかける。

 

『はい、相原です』

「お疲れ様です、一樹です」

 

電話をかけた相手は相原さんだ。

 

『一樹さん。どうされました?』

「現在の状況について、一度警察のほうにお話をしたいと思うんですけど、よろしいでしょうか?」

 

僕の問いかけに相原さんはしばらく待つように言うと、保留音に切り替わる。

僕は今から警察のほうに自分の無実を証明するために行こうとしているのだ。

とはいえ、勝手な行動は間違いなく事務所からお咎めがあるので、僕は最初にお伺いを立てることにしたのだ。

 

『お待たせしました。今、一樹さんのご自宅はマスコミの方々に包囲されているような状況です。このままだと外を出た瞬間に質問攻めにあうことが予想されます。それを最小限に抑えるために今からお迎えに上がりますので、お待ちください』

「ありがとうございます」

 

とりあえず、警察に話をしに行くことはOKのようだった。

僕は電話を切ると、相原さんの車が到着するまで、もう一か所電話をかけておくのであった。

 

 

 

 

 

相原さんがやってきたのは、電話を切ってから数分後のことだった。

チャイムが鳴ったので、僕は玄関の鍵が開いている旨を伝えると、すぐに相原さんが玄関に入ってきた。

 

「お待たせしました。一樹さん予め申し上げますが、ここを出ると、マスコミの皆様に質問攻めにあうことが予想されますが、”決して”何も答えずに車に乗り込んでください」

「わかりました。義父さん、義母さん。行ってきます」

 

相原さんから改めて注意点を伝えられるので、それに頷きながら、僕は玄関まで見送りに来ていた義父さんたちに挨拶をする。

 

「ああ、気を付けて行ってくるんだぞ」

「信じてるからね」

 

義父さん達からの言葉を聞いた僕は、そのまま相原さんのほうに向き直すと、こちらに向けて頷いてくるので、僕も頷き返す。

そして、玄関の扉が開かれた。

 

「今、一樹さんが自宅から姿を現しましたっ」

「一樹さん! 暴行疑惑というのは本当なんですか!?」

「一樹さん一言お答えください!」

 

それはまるで、テレビで見ているのと同じ光景だった。

大勢の記者がこちらに向かって質問攻めをし乍ら付きまとってきたのだ。

しかもフラッシュがまぶしい。

そんな状況でも、僕は何も答えずに記者の間をすり抜けるように、止めてある車まで移動すると素早くそれに乗り込んだ。

どうやら運転手が別にいたようで、僕に続いて相原さんも乗り込むと、ドアを閉めながらここを出るように指示を出す。

それから間もなくして、車はゆっくりと動き出す。

こうして僕は、決着をつけるべく警察に向かうのであった。




ということで、いよいよ一樹の反撃が始まる……というところで、今回は終わります。
さすがにやられっぱなしなわけはないので(汗)

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