BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第21話 テストと変わる日常

あれから、早いもので週末になった。

つまりは

 

「それでは、テストを始めよう」

 

義父さんからのテストを受ける日であった。

 

「内容は、そこにある花を使い、目の前の剣山に活けなさい」

 

つまりは実技試験のようなものである。

僕は和服の着物を着ている。

目の前には器があり中には剣山と呼ばれるものが置かれていた。

その横には複数の種類の花が置かれている。

僕は、それを活けていく。

 

(あれ、なんか思ってのと違う)

 

最初は生け花なんて難しいものだと思っていたが、やってみるとそれほど難しいとは思えなかった。

基本的な決まり事を守れば、あとは自由なのだ。

 

(あ、そうか。似てるんだ)

 

そこで気が付いたのだ。

生け花のこれと、作曲の時の感覚が同じだということに。

作曲もテーマのようなものを決め、バラバラな要素をパズルのように組み立てることで出来上がる。

他の人はどうかは知らないが、僕にとって作曲とはそういうものなのだ。

 

(もし仮に、これに一つの曲のテーマを反映させれば)

 

そう考えた僕は、すぐに試してみる。

 

(ここは力強く、終わりに向かっては緩やかに)

 

するとどうだろうが?

サクサクと、悩むことなく手が動いていき数分もしないうちに完成した。

 

「終わりました」

「これは……」

 

僕がそう口にするとともに、義父さんの表情は驚愕の色が強かった。

 

「ダイナミックでかつ何かを訴えかけてくるような感じ……合格だ。文句のつけようもない十分な作品だ」

「ッ……ありがとうございます」

 

義父さんの賞賛の言葉に、僕は嬉しさを隠しながら礼を言う。

 

(こんなところまで音楽のことが関わってくるなんて)

 

意外と、音楽とは切っても切れない運命なのかもしれない。

 

「……もうこんな時間か。夕飯にしよう」

 

時計を見ると、確かにいい時間になっていた。

義父さんのその言葉で、僕は夕食となった。

 

「また蘭はいないのか」

「ええ。今日も遅くなるみたいよ」

 

リビングに蘭さんがいない事に顔をしかめる義父さんに、相槌を打つ母さん。

その二人を見ていると、僕はふと考えてしまいそうになる。

 

(この家に、僕の居場所はあるのかな)

 

と。

 

「一樹? どうかしたの」

「あ、いえ。とてもおいしそうなので、つい。いただきます」

 

心配そうにこちらに視線を向ける義母さんに、僕はそう取り繕うと両手を合わせて料理に手を付ける。

その間も、ずっと先ほどの考えが消えることはなかった。

 

 

 

 

 

「これは相談したほうがいいかな」

 

夕食を終え、お風呂を済ませた僕は、自室でぽつりとつぶやく。

今の現状をみんなに相談したところで、どうにもならないのは明らかだ。

だが、それでも相談するべきではないかと思うのは、前の一件があるからだろう。

僕の”幼馴染だから何も言わなくても分かり合える”という根拠のない甘えによってバンドをも解散することになってしまったことを。

あの一件以来、隠し事はせずに、お互いの思っていることを口にするというのが、暗黙のルールにもなっているほどまだ引きずっているのかもしれない。

 

(まあ、とりあえずもう少し頑張ってみよう)

 

明日は学校だ。

早々に仕度をして寝ることにした。

 

(そういえば、最近ギター弾いてないな)

 

ギターはタンスの中に保管してある。

他の皆はどうかは知らないが、最後のライブ以降僕はギターには触れていない。

もう音楽はやらないという、僕の決意の意思表示のためでもあった。

慣れてきたとはいえ、少し寂しさも感じるが、それでも僕の決意は変わらない。

 

(それに、家元の後継者としての責務を果たさないと)

 

そう自分に言い聞かせた僕は、部屋の明かりを消してベッドに潜り込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう」

「おっす」

「……おはよう」

「おはよう、一樹君」

「おっはよーっ!」

 

翌日、待ち合わせ場所で待っているといつものメンバーが挨拶をしながら駆け寄ってくる。

 

「おはよう、みんな」

 

それに僕も答えていつものように歩き出す。

 

「そういえば、今日の数学テストらしいぞ」

「っげ、まじかよ。何にもしてねえ」

 

歩き出して、ふと思い出したことを啓介に言ってみると啓介の顔が絶望に染まる。

 

「ったく、またおめえは。前みたいに変な騒動起こすなよな」

 

呆れたようにため息を吐く田中君は、この前の抜き打ちテストの一件のことを思い出しているのかもしれない。

 

「それだったら、教科書の内容を全部覚えちゃえば?」

「そうだな、それが……出来たら頭抱えないんだよぉっ」

「いや、そもそも教科書の内容を全部覚えるって、こいつはともかく誰にもできねえぞ」

 

教科書丸暗記の提案に、田中君も否定する。

まあ、さすがに丸暗記するくらいなら、正攻法で勉強したほうが簡単だけど。

 

「え、あたしならよゆーなんだけどな」

『…………』

 

そんなつぶやきに、僕たちはいっせいに足を止める。

先ほどからスルーはしていたが、なんかおかしい。

 

「皆号令。1」

「2」

「3」

「4」

「5」

 

僕から始まり、森本さん中井さん田中さん啓介の順で番号を言っていく。

僕たちは5人なのだから、これでいいのだ。

 

「6!」

 

だが、そこに何者かが介入してきた。

そして、もうみんなはその存在の正体には気がついていた。

気が付いたうえで、あえて触れないようにしていたのだ。

でも、皆ツッコミを入れたくてしょうがないのかなんとも言えない複雑そうな表情を浮かべている。

そんなツッコみたくてもツッコめない状況が続いていると、

 

(田中君……お前が言えって顔で睨まないで)

 

ついにしびれを切らしたのか苛立った様子でこちらを睨んでくる田中君に、僕はこの均衡を破ることにした。

 

「なんで、ついてきてるの? 日菜さん」

 

僕が後ろのほうに視線を向けると、楽しそうに笑みを浮かべる日菜さんの姿があった。

 

「一君がいたから♪」

 

いや、そんな”そこに山があるから”見たいなノリで言われても。

 

「ぁ、ぁの、この人……は」

「あー、彼女は僕のクラスメイトなんだ」

 

人見知りの中井さんが森本さんの後ろに隠れるのはいつものことだった。

 

「氷川 日菜だよ。よろしくね」

「は、はい」

 

日菜さんの自己紹介に、中井さんの声がどんどん小さくなっていくのも仕方がないと言えばそう言える。

 

「ねーねー」

「ひゃい!」

 

そんな彼女に興味を持ったのか、日菜さんは一気に距離を詰めていった。

 

「なんでそんなにびくびくしてるの?」

「そ、それは……あの、えっと」

 

森本さんの陰に隠れようとする中井さんと、そんな彼女の視界に入ろうとする日菜さんとの攻防を見て、そろそろ止めたほうがいいと思い行動に移した。

 

「はい、日菜さんいったんストップ。中井さんが怯えてるから」

「あ、ごめんね」

「い、いえ。大丈夫……です」

 

とりあえず、二人を落ち着かせることができた。

 

「それで、どうしてついてきたの?」

 

そのあと、お互いに自己紹介をしたうえで、もう一度先ほどと同じことを聞いてみた。

 

「一君と話してると、とてもるんってきたから」

「……翻訳してくれ」

「無理」

 

僕は田中君に即座に言い返した。

僕には彼女の”るん”が何を意味しているのかが全然理解できないのだ。

こうして、僕達は日菜さんとともに学園のほうに向かうのであった。

そんな中、僕は察してしまった。

 

(僕って、もしかしてこれからも彼女に振り回されたりするのかな)

 

そんな事実を。




私は生け花の知識が全くと言っていいほどないので、間違えていないかが心配だったりします。
とはいえ、あまり生け花の話は触れないのであれなんですが(汗)

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