僕は今弁護士のベンさんと共に、あるビルの出入り口の前にいた。
そこはベンさんが予告した二時間後のビルの会見の会場となる場所で、大勢のマスコミの人たちがいるのが閉ざされたドアの向こう側から聞こえる喧噪で伝わって来る。
「大丈夫です。先ほどの打ち合わせ通りの内容を話してもらえば問題はありません」
「はい。ありがとうございます」
これから始まる会見に一度深呼吸をしていると、安心させるように微笑みながらアドバイスを送ってくるので僕はそれにお礼で返す。
「では、行きましょう」
ビルの前で合流した相原さんの一声で、僕たちは会場に足を踏み入れる。
(まぶしいなっ)
入った瞬間に、一斉にたかれるフラッシュに鬱陶しさを感じながらも、僕は相原さんとベンさんに挟まれる形で最前列に置かれ亜テーブルの前まで移動する。
位置的には、マスコミの人たちと向かい合う形で立っているので、よくテレビで見ているのと同じ光景だ。
『これより、芸能事務所に所属するMoonlight Gloryの一樹の、暴行傷害事件に関するか意見を実施いたします。皆様に向かって右側にいる方は、今回の件に関する弁護士件代理人の飯田です』
「よろしくお願いします」
相原さんの紹介に、ベンさん……飯田さんが一礼して応える。
『今回司会を務めさせていただきます私は、Moonlight Gloryのマネージャーの相原と申します。まずは今回の一件につきまして飯田よりご説明いたします』
「本日は、お忙しい中本会見にお越しいただきましたこと感謝申し上げます。さて、早速ですが、今回の騒動に関する概要を説明させていただきます」
相原さん以外の僕たちは用意してあった椅子に腰かけると、飯田さんによって今回の暴行事件に関するあらましの説明が行われた。
事の発端は、『週刊分代』が僕が一般人に暴行をしたことを報道したことから始まった。
診断書なども存在し、被害者も実在していること、そして警察に任意同行を求められたという情報が入ってきたことから、今回の一件の信ぴょう性は格段に上がったのかもしれない。
そこからは話が大々的に膨れ上がって行ってしまい、今日にいたるのだ。
ちなみに、僕の無実が証明されたのは、犯行時刻とされる時間、全く違う場所で僕をのせていたタクシードライバーがそのことを、タクシーに搭載されているドライブレコーダーの映像と合わせて証言したためだ。
『それでは、一樹より皆様に詳細のお話をしていただきます』
飯田さんの説明が終わり、今度は僕が口を開く番だった。
僕はマイクを手に再び立ち上がる。
「改めまして、本日は本会見にお越しいただきまして、ありがとうございます。また、今回の一連の騒動で応援してくださる案の皆様及び、関係者の皆様に多大なるご不安とご迷惑をおかけしてしまったことを、この場でお詫び申し上げます」
僕はそう言って頭を下げて謝った。
そこを狙ってか、シャッター音がうるさいほど鳴り響く。
そして、頭を上げた僕は話を始める。
「今回の事件ですが、あらましは弁護士からご説明にあった通りとなります。今回の暴行事件の疑惑ですが、全く持って事実無根であります。これは私の無実を証明する方の発言と、証拠の映像により明らかです」
飯田さんに見せてもらったドライブレコーダーの映像には、乗っている時間と僕の姿がはっきりと映し出されていたのだ。
それは紛れもなく僕の無実を証明するのに十分なものだった
「私の無実を証明してくださった方にはこの場を持ちましてお礼を申し上げさせていただきます。そして、マスコミの皆様にお願いがございます。今回の疑惑に伴いまして、一部報道機関の方の度を越した取材行為や報道が見受けられました。今回の一件が大きくなってしまったのは、説明をしなかった私に一因がございますし、取材等を含め報道機関の皆様のお仕事であることも理解しておりますが、無関係である一般の方への強引な取材や私を犯人と断定しての報道は、それを見ている視聴者の方に誤った情報を伝えたり、無関係の方に多大なるご迷惑をおかけすることにもつながります。皆様におかれましては、取材などのやり方について、今一度見直しをしていただき、今後私のようなことが起こらないよう、改善していただけることを強く望みます」
僕の言葉に、会場にいた数人の記者が俯いてるのが見えた。
どうやら自覚はあるらしい。
この時点で、この会見を開いた目的の一つが成し遂げることができたが、こんなものでは終わるわけもない。
「続いて、私のほうからも失礼します。先ほど話に会った通り、一部のマスコミの方の取材や報道は依頼人の名誉を著しく損ね、非常に悪質であります。皆様におかれましては、再発防止に努めていただくことを重ねてもお願い申し上げるとともに、これからある音声をお聞きいただきたいと思います」
そう言って飯田さんはICレコーダーを取り出して、それが会場中に聞こえるようにマイクの間和えまで持っていくと、再生を始めた。
『おい!! いい加減正直に言え! お前がやったんだろ!!』
突如としてICレコーダーから流れてきた男の罵声に、会場中が大きくざわめきだす。
「こちらは依頼人が先ほどまで受けていた警察での取り調べを録音したものになります。お聞きいただいたように依頼人に対して威圧的な取り調べを行っております。これは明らかな自白強要であり、後日警察に対して訴訟を視野に対応を検討していく旨を、この場を持ってお伝えいたします」
『それでは、これより質疑応答に移らせていただきます。質問のある方は挙手にてお願いします。また、時間の関係上、勝手ではございますが各媒体ごとに質問は最大2つとさせていただきます』
相原さんの言葉と共に、会場にいた記者の人たちが一斉に手を上げ始める。
(なんだか、小学生の授業参観日みたい)
僕はその光景に、他人事のように思いながらその光景を見ていた。
『それでは、後方の黒いスーツの女性の方、どうぞ』
「日夕テレビの前田です。一樹さんにお尋ねします。今回の暴行事件の一件についての一樹さんのお考えをお聞きしたいのが一点、もう一つが今回報道の中でありました一般女性との交際は事実なのか答えていただきたいです」
(やっぱり来たか)
紗夜がらみの質問が来るだろうなとは思っていたが、本当に来たことに驚きを通り越してため息が漏れそうだった。
紗夜はアイドルでもなければ、普通の一般人だ。
何もやましいこともないが、だからと言って認めるというのはまた別の話だ。
「まず、今回の一件ですが被害にあわれた方を含めた勘違いが引き起こしてしまったものだと思います。警察についても人を疑うことが仕事であるというのは十分理解しているつもりです。また、二点目の交際についてですが、今回の会見とは関係がないので、コメントは差し控えさせていただきますが、特に否定はしないという旨を付け加えさせていただきます」
僕のその答えに、会場内が軽くざわめく。
まあ、答えはしなかったが否定しなかった時点で、それは認めているようなものではあるが。
その後も質問がされ、それにこたえていくのを繰り返していた。
『では、後方の男性の方、どうぞ』
相原さんに指名された男性が、立ち上がる。
『週刊分代の荒木です。一樹さんにお尋ねします。まず一つが、最初に警察に任意同行を求められた際に応じなかった理由は何ですか? 次がなぜ犯行時刻にタクシーをわざわざ利用したんですか? 自分のアリバイを偽装するためですか?』
茶色のレンズのサングラスをしている男性は、不敵な笑みを浮かべながらそう疑問を投げかけてきた。
その質問に、会場内の空気が一気に凍り付く。
(なるほど、こいつか)
対する僕は、この一件の”共犯”でもある人物を確認しながらその質問に答えていく。
「まず、任意同行を求められた際に拒否したのは、少々取り込んでおり時間が取れなかったからです。また、犯行時刻にタクシーを利用したのは、お恥ずかしながらその日は少し疲れていたためです」
僕はそこまで答えると、”一ついいですか?”と付け加えて話を続ける。
「先ほど、偽装とおっしゃられましたが、この日時で利用した領収書もございます。こちらについては後程配布資料としてお配りいたしますので、そちらをご確認していただけると幸いですが、これらを偽装したと言われるのであれば、それを証明していただきたいのですが、ありますか?」
僕のその切り返しに、荒木という男性は何も答えることはなかった。
「アリバイ工作といわれのないご指摘をされるのは、私としては大変遺憾である旨を伝えさせていただきます」
その後も、いくつか質疑応答をしたところで、会見は終了となった。
次回で顛末に触れたところで、いよいよこのルートのクライマックスに向かって話は大きく動き出していきます。
……たぶん投稿は日曜日ぐらいになるかと