「はい、肉じゃがの出来上がり~☆」
「うわぁ~、おいしそう!」
リサさん達によって用意された食事がテーブルに並べられていくのを見て、あこさんが目を輝かせる。
本日の料理は肉じゃがに白いご飯、ポテトサラダといった感じだ。
リサさんいわくお味噌汁も作りたかったらしいのだが、時間の関係でこちらは没となった。
ちなみに、ポテトサラダは紗夜が作ったものだ。
「それじゃ、さっそく……」
『いただきます』
リサさんの言葉に合わせるように、全員で手を合わせて口にすると、食事が始まった。
各々がそれぞれ好きな料理を小皿に取っていくスタイルをとっているので、全員の腕がテーブルの中央を行きかっている。
そんな中、湊さんはテーブルにある料理を前に、引きつったような表情を浮かべていた。
「ど、どうしてゴーヤが……」
「あはは、ごめん。つい買っちゃって」
そこにあったのは、リサさんが最後に買ったゴーヤを使って僕が作ったゴーヤチャンプルだった。
冷蔵庫の中にある豆腐に卵を使わせてもらうことで完成した料理だ。
レシピを見ながら作ったので、味の保証はできないけど。
「どういうこと?」
「友希那ってゴーヤとか苦い食べ物とかが苦手なんだよ」
リサさんの説明に、思い当たる節がいくつもあった。
例えばコーヒーを飲むとき、湊さんは必要以上に砂糖を入れていたとか。
タダの甘党なのかとも思っていたのだが、どうやらそういう理由らしい。
「べ、別に苦手ではないわ。ちゃんと食べれるわよ」
僕とリサさんの会話が聞こえていたのか、湊さんはムキになってゴーヤチャンプルを小皿に取り分けると、それを口に入れた。
……ものすごく怖い表情を浮かべながら。
「っ……おいしいわ」
おそらく苦みが来るのだろうと身構えていた様子だったが、湊さんは目を瞬かせて驚きながら感想を口にした。
「何か入れた?」
「甘党だと思って、はちみつを入れたんだけど」
どうやらよくわからないが、それが功を奏したみたいだ。
最初は自分でも、はちみつを入れるのはないと思っていたのだが。
おいしそうにゴーヤチャンプルを食べる湊さんの姿に、僕も試しにと大皿から取り分けて一口食べてみる。
(あ、おいしい。苦くもない)
やはり、はちみつのおかげなのか、ゴーヤの苦みも完璧にというわけではないが、かなり和らいでいた。
確かにこれなら、ゴーヤが苦手な人でも食べることはできそうだ。
「氷川さんの、ポテトサラダ……おいしいです」
「右に同じく。ありがとね、紗夜」
そんな中聞えてきた白金さんの感想に便乗する形で、僕は紗夜にお礼を言った。
「ど、どういたしまして」
そのお礼に、紗夜は嬉しさと恥ずかしさを混ぜたような表情で返す。
いつも食べている場所でRoseliaのメンバーと一緒に食べる夕食は、どこかとても賑やかに感じながら、幕を閉じるのであった。
ちなみに、これはどうでもいいことだが、ゴーヤチャンプルにはちみつを混ぜると、苦みが緩和されるらしい。
夕食の後片付けをして話をしていたら、かなり遅い時間になってしまっていて、みんなが帰ることろには外はすっかり真っ暗だった。
「それじゃ、あたしたちは帰るね」
「気を付けてね」
僕は帰路につく皆を外まで見送る。
いくら彼らのターゲットではないからと言っても絶対に安全だとは限らない。
そもそも夜道に女子だけというのからみても安全ではないのだが。
そして、皆が帰っていくのを見送った僕は、後ろのほうに立っている紗夜のほうに向きなおる。
「ところで、紗夜は帰らなくていいの?」
「ええ。今日はあなたのところに泊まるつもりだから」
「………はい?」
帰ろうとしない紗夜に対して聞いたことへの答えが、あまりにも自然な感じに聞えてしまった僕は、聞き間違えたのかと思ってしまった。
「だから、今日は一樹君の家に停まっていくつもりだから帰らないの。両親にはすでに言ってあるから安心して」
「いや、安心してって……」
紗夜が一度家に帰るといった本当の理由はそれだったのかとツッコむべきなのか、それともあのバックの正体はお泊りセットなのかとツッコむべきなのか。
「あの、もしかして迷惑……だったかしら?」
「いや、そんなことはないよ。紗夜がいいのであれば」
何と返したらいいか悩んでいると、先ほどまでの堂々とした様子はどこへやら、不安げな表情で聞いてくるので僕はそう答えた。
「それじゃ、中に入ろう」
「お世話になります」
僕は重くなりかける雰囲気を変えるべく、あえて陽気に中に招き入れるのであった。
こうして、紗夜は僕の家で一晩泊まることになるのであった。
★ ★ ★ ★
同時刻、大蔵家。
雄一の部屋からはけたたましい音が鳴り響いていた。
「クソっ! クソクソクソっ!!」
「あ、兄ちゃん……落ち着いて」
いつもイケイケな正とは一転して、この日はひどく怯えていた。
それは、雄一が癇癪を起し部屋の者を手当たり次第破壊し続けているためだ。
鳴り響いていたけたたましい音は、それによるものだった。
雄一が癇癪を起した原因は、言うまでもない。
「これが落ち着いていられるかぁっ!! あのクソガキ……一度ならず二度までもっ!!」
一樹に対して仕掛けている攻撃を、二度も躱しているからだ。
しかも、二度目はうまくいき二人は作戦成功だとほくそ笑んでいただけに、逆転劇のダメージは計り知れない。
「も、もう一回やってやろうぜ! 今度はアリバイなんて作られないようにっ」
「あほッ! 同じ手が二度も通用するわけねえだろうがっ。それに俺たちの記事を書いてくれていたあそこも潰れちまってるんだぞっ!」
二人の捏造を脚色しまくって世に出していた出版社『分代社』は、一樹の反撃によって潰れており、二人はもうこの手を使うのは難しくなっていた。
「こうなったら、回りくどいのは終わりだ。この俺の手で直接印籠を渡してやろうじゃねえか」
「そうだよ! 回りくどいことなんかしないで最初っからこうすればよかったんだっ」
雄一は、新たな作戦を思いついたことで、再び平静を取り戻し、それにつられるようにして正もいつもの調子に戻る。
「これで、あのガキはおしまいだ」
『グハハハハハっ』
その日、雄一の部屋には、不気味な笑い声が響き渡ることになるのであった。
次回で、本章は完結となります。