……今回はかなり重めです。
第216話 誘拐
『氷川紗夜と氷川日菜を預かった。無事に解放してほしければ、今から言う場所に一時間以内へ一人で来い。他の人間を連れてくれば、人質の命はない』
電話先の人物は、場所を伝えるとそのまま電話を切った。
「……ついに動きやがったか」
今はつながっていないスマホを見ながら、僕はつぶやく。
正直、ものすごく怒りがこみあげている。
(落ち着け。大丈夫)
でも、僕は落ち着かせる。
大切な人たちがさらわれているのだ。
冷静でいられるはずもないが、僕が取り乱せばそれだけで相手の思うつぼだ。
「……よし。まずは……」
何とか自分を落ち着かせることができた僕は、先ほど届いたメールをマツさんのところに転送する。
そして、すぐに電話をかけた。
『兄貴っ! あのメールは一体――』
「朝早くにすみません。時間がないので用件だけ伝えます」
先ほどのメールを見たのか、慌てた様子のマツさんに、事のあらましを説明する。
『なるほど。わかりました。すぐに団長たちと協力してお二人の居場所を突き止めますっ』
「それと、例の計画を始めてください」
僕は、向こう側が強硬策に打って出た場合の対抗策を事前に決めており、それのGoサインをマツさんに出したのだ。
『分かりやしたっ。ですが、計画の効果が出るのに少し時間がかかります』
「どれぐらいですか?」
『てっぺんあたりには間に合わせます』
(つまり、あと数時間か)
この先どうなるのかはわからないが、僕にできることはとにかく時間を稼ぐことだというのは明白だ。
「よろしくお願いします」
僕はそう言って電話を切る。
残り時間はあと55分ほど。
場所の位置的に走っても30分はかかる。
(朝食はお預けだな)
今日はかなりの出来栄えだっただけに、食べることができないのは残念だが、紗夜たちを助け出してこの一件を終わらせてからゆっくり食べることにした。
僕は片付ける時間がないため、テーブルの上をそのままにしつつ、身支度を整えて出かけられるようにする。
(持っていくのは携帯と財布でいいかな)
財布なんか持って行っても何の意味もないけど、でも何かに使えるかもしれないと思った僕は、財布を持っていくことにしたのだ。
そして、携帯にある設定をするとそれも一緒にポケットに入れる。
「よし、行くか」
そして、身支度を整えた僕は、家を後にするのであった。
BanG Dream!~隣の天才~ 第9章『落涙』
(ここが指定された場所か……)
指定された場所は、現在、資材置き場として使われていると思われる空き地だった。
このあたりは、住宅地や繁華街から離れているため、当然人通りも全くない。
何かをするにはうってつけの場所だろう。
僕はそんな空き地の真ん中に立つと、あたりを見回す。
周囲には様々な資材が置かれてあるため、死角が多かった。
(おそらく奇襲をかけてくるのだろうけど、一体どこから……)
僕はせわしなく周囲に視線を向けながて、警戒を強める。
それで奇襲を防げるのかどうかは分からない。
何せ、ここは向こうの指定した場所。
要するに、地の利は向こうにあるのだ。
そう思っていると、ふと顔に冷たい物が降ってきた。
(雨か……)
予報では雨が降るなんて言ってなかったんだけどなと思いながらも、小雨なのでそれほど気にもしなかった。
そんな時、僕の背後から物音が聞こえる。
「っ!?」
その音に慌てて振り返った瞬間、僕の口と鼻に何かが当てられるような感触がした。
そして、そこで僕の意識は完全に闇に落ちるのであった。
★ ★ ★ ★
「ぅ……」
目を覚ました私が最初に感じたのは、頭がくらくらする感覚とぼやけた視界だった。
でも、それも一瞬のことで、時間が経つにつれて視界がはっきりとしていく。
「ここは……」
そこは、どこかの倉庫のような場所だった。
もちろん私にこの場所の心当たりなどあるはずもない。
(確か……)
私は記憶を遡らせる。
そして思い出せたのだ。
日菜と一緒に帰路についているとき、いきなり真横に黒のワンボックスが止まったかと思うと数人の人が飛び出してきたのを。
あの時、何かを嗅がされて眠らされていたようだ。
(そうだっ……日菜は)
私は慌てて一緒にいた日菜の姿を探す。
両手足を動かそうにも縛り付けられているのか全く動かすことができないので、顔を動かしてあたりを見回す。
日菜の姿はすぐに見つかった。
私の真横で眠っていたおかげで。
「日菜、日菜! 起きて頂戴」
「んぅ……おねーちゃん?」
私の呼びかけに、日菜はのんびりした様子で目を開けると、寝ぼけたような感じであたりを見回す。
「ここどこ?」
「……わからないわ」
場所は分からないけど、私たちの身に何が起こったのかはすぐにわかっていた。
(連れ去られた……ようね)
おそらくは、一樹君が言っていた人物が仕組んだことなのだろう。
「お目覚めかい、嬢ちゃん」
「ッ、誰!?」
そんな時私たちの耳に聞こえてきた男の人の声とともに現れた金髪の男性。
この人が私たちを連れ去った人物のようだ。
「嬢ちゃんたちには悪いが、しばらくそこでじっとしていてもらうぜ。まあ、逃げれないとは思うが、妙な真似をすればお前らの命はないと思え」
そう言って私たちにナイフを突きつける男の人の言葉は、私たちの体をこわばらせるのに十分なものだった。
「あなた達のことは知っています。日菜は……妹は関係ないはずです。すぐに妹を解放してください」
「何を言ってるのおねーちゃん! 解放するんだったらおねーちゃんにして!!」
「くっはは! 実に素晴らしい姉妹愛だことで。だがなぁ、俺たちはお前たちをここに連れてくるように言われてるんだわ。だから、解放なんて、できませーんッ!」
そんな私たちのやり取りに顔を歪ませて長良男性は告げると、汚らしい笑い声を上げ始めた。
(……一樹君、お願い早く来てっ)
私にできるのは、目の前にいる男の人に負けじと睨みつけることと、心の中で最愛の人物に助けを求め続けることだけだった。
クリスマスにシリアスな展開の作品を投稿する私は、絶対に鬼畜だと思います(苦笑)
また次回、お会いしましょう。