BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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気づけばUAは7000を突破し、お気に入りも40を超えていました。
読んでくださる皆様に感謝してもしきれません。

そんなわけで、第22話になります。


第22話 悩みの種

早速だが、みんなには悩み事ってあるだろうか?

人には多かれ少なかれ、一人一人に悩み事というのは必ずあるらしい。

それはともかく、何を言いたいのかというと。

 

「ねーねー」

「……」

 

先ほどから、小声で話しかけてくる緑色の髪の少女についてだ。

別に話しかけられることが嫌だというわけではない。

静かに過ごしたいという思いはあっても、やはり孤独というのは嫌なものだ。

 

「むぅ、無視しないでよ」

 

何も反応しない僕の様子に、日菜さんは頬を膨らませていた。

 

「今、授業中」

 

一番の問題は、授業中に話しかけてくることだ。

 

「別に小声で話してればへーきだよ」

「そんなはずないでしょ」

 

その僕の言葉を肯定するように

 

「氷川、美竹。前に出てこの問題を解きなさい。私語をしているんだから当然解けるはずだよな」

 

と、数学の教師に指名されてしまった。

 

「あちゃー」

「うげ」

 

やっちゃったねと言わんばかりの表情を浮かべる日菜さんだが、もうどうしようもない。

 

(ここはササっと解いて終わらせよう)

 

僕と日菜さんは黒板の前に立つと、それぞれチョークを手に問題文を見る。

そして、同時に解き始め、同時に解き終えるとチョークを置いた。

それを確認した先生が、僕たちが書いた答えを見ると

 

「……二人とも、正解だ」

 

先生の言葉と同時に、クラスメイトから”おぉ”という歓声が沸き上がる。

 

「やったねー」

「………だね」

 

日菜さんは嬉しそうに話しかけてくるが、僕はただただ先生に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

「喜ぶのは構わないが、私語は慎みなさい」

「すみません」

 

結局謝ることになるのであった。

 

 

 

 

 

「疲れた」

 

昼休み、僕は廊下のほうを歩きながら一人ぼやいていた。

結局授業中は話しかけられるかちょっかいを出され続けていたような気がする。

しかも、僕がとばっちりを食らうというのもテンプレートのような展開になっていた。

 

(予習しているからあてられても解けるけど、あまりやりすぎて成績に響くのは困る)

 

ここの成績のつけられ方はテストが9割、授業態度などが1割という割合になっている。

別に1割ぐらいなら落としてもいいのだが、とれるところを落とすのはなんだか複雑な気持ちになる。

極力反応しないようにはしているのだが、それもだんだん難しさを増しているように感じられる。

 

(とりあえず、この時間は静かな場所で英気を養おう)

 

日菜さんの意識がこちらから離れた隙を狙って教室を飛び出したので、教室に戻るのは少し気が引けた。

 

「屋上でも行こうかな」

 

啓介の話だと、屋上は花咲とは違い開放されており、割と穴場スポットらしい。

階段を上って屋上に続くドアを開くと、そこには人の姿はあるものの、人数はそれほど多くはない。

とりあえず、手ごろな場所に腰かけると、僕は手にしていた戦利品を食べることにした。

 

「あれ、美竹君じゃん。こんなところで会うなんて珍しいね」

「……」

 

そんな僕に話しかけてきたのは、ギャルっぽい印象を持つ栗色の髪を後ろで結んでいる女子学生だった。

 

(なんで僕の名前を知ってるんだろう)

 

「どうしたの? アタシの顔をじっと見ちゃって」

「いや……誰?」

 

不思議そうに聞いてくる彼女に名前を聞くと、肩がかくっとなった。

 

「アタシは今井 リサ。君と同じクラスなんだけど」

「そう……忘れてた」

 

本当は聞いてすらいなかったのだが、あえて言うことでもないだろう。

 

「リサ?」

「あ、友希那」

 

そんな時、彼女を呼ぶ人物がいた。

友希那と呼ばれた女子学生は、一瞬こちらを見る。

 

「あ、彼はアタシと同じクラスの――」

「美竹 一樹です。よろしく」

 

その視線を察して僕のことを紹介しようとするのを遮るようにして、名前を口にした。

やはり、そのくらいは自分の口から言ったほうがいいと思ったからだ。

 

(みなと) 友希那(ゆきな)よ。よろしく」

 

それだけだった。

それだけ言うと、興味を無くしたように僕から視線を外して、今井さんの横に腰かける

 

「えっと、ごめんね。友希那って興味のないことになるとこんな感じになっちゃうから」

「いや、別に気にしてないから大丈夫」

 

一瞬、この間の日菜さんのようになるのかと思ったが、やはりこれが普通のようだ。

 

「あ、アタシも一緒にお昼いいかな?」

「それはこっちが聞くべきだと思うけど」

 

先にいたのはこっちだが、そうも言ってられない。

向こうは二人……しかもかなり親しい様子だ。

そんな彼女たちが僕に別の場所に行くように言うのであれば、移動するのが無難だ。

 

「アタシたちは別に構わないよ。というより後から来たのはこっちだし。友希那も平気だよね」

「ええ。私は構わないわ」

 

どうやら二名とも大丈夫のようなので、僕はそのまま戦利品の焼きそばパンを食べる。

 

「お昼って、もしかしてそれだけ?」

「そうだけど。何か?」

「男の子ってたくさん食べる印象があったから不思議に思ったんだ」

 

確かに、パン1個は物足りない。

だが、これには訳がある。

 

「お弁当を作ろうと思ったんだけど、生憎料理ができないから。義母さんも朝は忙しいし」

「そうなんだ」

 

今井さんに言った内容は半分嘘だ。

確かに料理はできないが、苦手なだけで練習すればできるようになると思う。

 

(まあ、練習する気もさらさらないけど)

 

義母さんは確かに朝は忙しそうにしているが、前もって言っておけば作ってくれるかもしれないし、そうでなくてもどこか近場のお店で買っていけばいいだけの話だ。

 

「それじゃ……はい、どうぞ」

「……これは?」

 

僕は今井さんに手渡された紙製のお皿の上に置かれたおかず(+おにぎり一個)を前に、今井さんに尋ねる。

 

「男の子がパン1個はだめだからね。アタシのおかずをおすそ分け☆」

「………こんなにもらったら今度はそっちが」

 

正直もらえるのであればありがたいが、流石にそれで相手に迷惑をかけるのは気が引けたのだ。

 

「大丈夫! 今日はちょっと多く作りすぎたから、食べきれるかなと思ってたし。逆に食べてくれるとありがたいなーって」

「でも……」

「それじゃー、今度アタシたちに何かをおごる。それなら平気でしょ」

 

受け取るのをためらう僕に、気を使わせないように今井さんは交換条件を持ち出す。

 

(……降参だ)

 

彼女はギャルっぽい印象を感させているが、しっかりと周りに気を使っている。

そうなると、逆にこれ以上気を遣わせるほうが彼女にとっては迷惑だろうと思い、僕はそれを呑んだのだ。

 

「いただきます」

「どうどう?」

 

今井さんにもらったおにぎりを一口食べると、今井さんは目を輝かせながら感想を聞いてくるので

 

「おいしいです」

「やったっ☆」

 

と答えると、今井さんは満面の笑みで喜びをあらわにする。

 

(こういう昼休みも)

 

たまにはいいものだなと思いながら、僕は今井さんがくれたおかずを食べるのであった。

ちなみに、このことを啓介に話したとき、

 

『なんでお前ばかりおいしい目に合うんだよっ。チックショー』

 

と悔しみをあらわにしていたのだが、それはまだ先の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悩みの種と言えば、もう一つだけある。

久しぶりに花咲方面に足を向けた時のこと。

 

「こんにちは、兄貴っ」

「……団長」

 

たまたま鉢合わせになったのは、元花咲ヤンキースの団長だった。

今はグループは解散し、今は建築関係の仕事をしているらしい。

 

「それで兄貴、ここには何の御用で」

「いや、ちょっと散策をしていただけです。というより、兄貴って呼ぶのやめてください」

 

団長たちは僕の最後のライブを見たようで、どういうわけか兄貴と呼ばれるようになった。

スマホには無理やり教えられた団長の連絡先が登録されていたりする。

何度もやめるように言ってるのだが、

 

「何を言うんですか。俺たちはあの演奏にめっちゃ感動したんすよ。あんな演奏ができる漢の中の漢を呼び捨てになんてできません」

 

そのたびにこのように返されてしまうので、もう諦めた。

 

「もし何か困ったことがありましたら、この俺に何なりと言ってください。不詳このテツ、兄貴のお力になってみましょう」

「あ、ありがとうございます。それじゃ、僕はこれで」

 

一応心強い(?)協力者を得ることができたのはよかったのかもしれない。

 

(本当に、慣れないなぁ)

 

それでも、こんな日々もいいかなと思う夕方の出来事だった。




 

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