BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第220話 現実は無常に

病院の手術室前の待合席。

日が傾き、窓から差し込むオレンジ色に包まれるそこに、駆けつける五人の人物がいた。

 

「一樹はっ!?」

「………」

 

駆けつけた人物を代表して一人の青年……啓介が声をかけるが、その場にいるものは誰も反応しない。

 

「……そうか」

 

それだけでも、彼らにとっては十分だった。

現在、一樹は手術を受けていた。

あの爆発の後、駆け付けた救急車などによって、一樹は病院に搬送されたのだ。

だが、状況は最悪だ。

助かる可能性はもはや天文学的な確率でしかない。

それでも、彼女たちは一樹の無事を祈り続けていた。

そこに五人の少女……彩に千聖、イヴに麻弥と花音が駆け付けた

 

「日菜ちゃんっ!」

「日菜さん、紗夜さん!」

「彩ちゃん……一君が、一君がっ」

 

彩の姿を見た日菜は、それまでの沈黙から一転、ぽつりぽつりと話し始める。

その様子を見て、彩たちは、どれだけひどい状況なのかを悟った。

 

「だ、大丈夫だよ」

「啓介っ! めったなことは言うなっ」

「だ、だってさ。前に事故にあった時だって、重体だったんだ。こ、今度も、また……」

 

聡志の言葉を無視して、あっけらかんと言い放つ啓介だが、その声は震えていた。

 

「紗夜ちゃん、今は信じて待とう。ね」

「……えぇ」

 

俯いている紗夜のそばに腰かけながらかけられた花音の励ましの言葉に、紗夜は力なく頷く。

それからかなりの時間が経過した。

手術室前には二人組の男性……警察官の姿があったが、彼らは早々にその場を後にしていた。

とうとう時刻は夜になり、窓から差し込む月明かりが、手術室前を薄暗く照らしていた。

そんな時だった。

 

「あ、明かりがっ」

 

麻弥の口にした言葉と同時に、手術室のドアが開かれる。

 

「先生っ、息子は……一樹は!?」

 

手術室から出てきた担当と思われる医者の表情は、これ以上ないほどに暗く神妙とした面持ちだった。、

 

「手はつくしましたが……残念です」

 

それは、その場にいた全員が一番聞きたくない言葉だった。

 

「すみません。少しだけお話を伺えますか?」

「わかり、ました」

 

何時からいたのか刑事と思われる男性に促されるように、緋宏はその場を離れていく。

 

「………え?」

 

彼女達が、医者の言葉の意味を本当に理解したころには、医者はすでに一礼して彼女たちの前を去っていた、

 

「嘘……でしょ?」

「そんな……」

 

現実を受け入れられない者。

突き付けられた残酷な現実に、呆然と立ち尽くすか、力なく地面にしゃがみ込む者。

その場は深い悲しみに包まれていく。

 

「……一君が……死んだ」

 

そして、ぽつりと、日菜がつぶやく。

 

「……っ……」

 

彼女の目元から涙がこぼれ落ちる。

 

「う……うあああああっ」

 

それは一つのきっかけだった。

日菜の泣き声に呼応するように、花音たちの嗚咽が響き渡っていく。

 

「……」

 

そんな中でも、紗夜は泣くわけでも怒るわけでもなく、まるで抜け殻のようにそこに立ち尽くすだけだった。

この日、一人の青年はその短い生涯を閉ざした。

 

 

★  ★  ★  ★  ★  ★

 

 

「………」

 

あれからどれくらいの日数が過ぎたのだろうか……。

私の生活は何も変わらない。

何時ものように制服に着替えて、朝食を食べて家を後にする。

何時ものように通学路を歩いて、そして……、

 

「また、来ちゃったわね」

 

私はある家の前にいた。

そこは美竹家……一樹君の家だ。

頭の中では、私が一番大好きだった一樹君は、もうこの世にいないことは、理解しているのだ。

それでも、私は無意識的にどうしてもここにきてしまう。

 

(ふふ……これじゃ、また今井さんに心配されるわね)

 

今でこそないけど、前まではそこにいないはずの一樹君の姿が見えていたのだ。

信じられないと思うけど、本当のことだ。

彼が私に微笑んでくれるから、私も微笑み返す。

夜は一樹君と電話でおしゃべりをしたことだってある。

その場面を見たか、その話をすると、そこにいた人たちは複雑な表情で私を見るのだ。

最初のころはその理由は分からなかったけど、今ではわかるような気がする。

あれは……私が見ていた一樹君は、私が生み出していた幻なんだって。

今井さんからは『役に立てないかもだけどさ、アタシにできることがあったら何でも言って』と励まされ、湊さんからは練習を休むようにも言われたけど、それでも私は休んだことはない。

もし休んでしまえば、現実に押しつぶされて、もう二度と取り返しのつかないことになるのがわかっているから、

 

「おねーちゃん」

「……日菜」

 

家の前に立っている私に声をかけた日菜の表情は、憐れむでもなく、ただただ優しく微笑んでいた。

 

「あたしね、一君がいなくなっちゃってから気づいちゃったんだ。あたしは知らないところで一君に守られていたんだって」

「……」

 

”クラスの人数が一気に数十人も減った”。

一樹君が亡くなって少ししたある日に、日菜から聞かされた話は、とてもどうでもいい内容だった。

それでも、どうしてだろうか、その出来事の後ろに一樹君の姿が見えるのは。

 

「だから、おねーちゃんのことも守ってるよ。今でもちゃんと。だって、一君ってそういう人だから」

「ッ!」

 

日菜のその言葉がトドメだった。

私はいてもたってもいられずに日菜に抱き着いた。

 

「ッ、一樹君が、私のせいで……一樹君がっ……」

「だいじょーぶ……大丈夫だから」

 

日菜の前で……ましてやしがみついて泣くなんて、いつ以来なのだろう。

いや、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。

そんなことなど考える余裕もなく、私はただただ泣き続けた。

 

 

 

「ごめんなさい、みっともないところを見せたわね」

「ううん。おねーちゃんは全然みっともなくないよ」

 

少しして、ようやく落ち着きを取り戻した私は、日菜から離れて謝罪の言葉を口にしていた。

恥ずかしさで日菜の顔をまともに見れないけれど、日菜の優しさはこれでもかというほどに伝わってくる。

 

「一緒に学校に行こ!」

「……たまにはいいわね」

 

私は差し伸べられた日菜の手を取ると、姉妹そろって学校に向かう。

 

「帰りはフライドポテトを食べよう!」

「か、買い食いはだめよ」

 

ちょっとだけ変わった日常。

それでも、この日常を私は大事にしたい。

それが、この日々を守ってくれたあなた……一樹君にできる私の精一杯の恩返しだから。

 

 

第9章、完

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