BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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今回より、新しい章の話になります。
本作完結に向けての話となりますので、楽しんでいただければ幸いです。

そして、またまたあとがきのほうで二点ほどお知らせがありますので、そちらも併せて読んでいただけると幸いです。


最終部 第1章『幻の誇り』
第230話 先延ばしされる返事


今年も残すところあとひと月にまで迫りそうなこの日、僕はCiRCLEの練習スタジオにいた。

目的はもちろんギターの練習だ。

 

「ふぅ……」

 

僕は、一息つくと時間を確認する。

 

(もうそろそろ来そうだな)

 

今僕がいるスタジオは、この後Roseliaの練習で使用されるスタジオだ。

練習時間前にここを利用する人がいないときだけを条件に、月島さんとオーナーの厚意で時間を前倒しにして使わせてもらっている。

もちろん、使用料はちゃんと支払っている。

 

(約一か月……練習を重ねたとはいえ……)

 

僕は自分の右手を見ながら、深いため息を漏らす。

その理由は単純だった。

 

「あと一歩なんだけどな」

 

少し前に起きた阿久津大蔵コンビによる事件で、僕たちは誰一人命を落とすことなく解決を迎えることができた。

今までで、報復などの不穏な兆しもみられず、何とかうまく終わらせることができた。

だが、その代償が僕の左手の後遺症なのだから、複雑なところだ。

これまでのリハビリや練習などで、何とか目標の7割まで回復させることができた。

これなら、人前で演奏しても満足させることは十分にできるだろう。

だが、僕はまだ納得がいっていない。

というより、あまりしっくりと来ていないのだ。

 

(どうすればいいんだ? これ)

 

考えてみたところで、何も答えは浮かばなかった。

 

「っと、そろそろ来る頃かな」

 

時刻は練習開始の30分前。

僕は、素早くギターなどを片付けていく。

なぜならば……

 

「あら、今日も早いのね」

「おはよう、湊さん。紗夜」

 

いつも練習時間よりも前に来て、自主練を始める人がいるからだ。

 

「一樹君、今日も?」

「うん。まあ、結果はご覧の通りだけど」

 

紗夜たちは、僕が早くに来て自主練をしていることを知っており、このやり取りもここ最近毎回繰り返している。

紗夜とデート(日菜さんが一緒に来たので、あれをデートとしてカウントできるのか?)をしてから、登下校の時間くらいしか二人っきりの時間が取れない。

紗夜も何も言わないとはいえ、正直申し訳ないなと思いつつ、僕は右手の回復を最優先させている。

 

(もう猶予もないし、早めに何とかしないと)

 

事務所発表の復帰予定日まで、もうそう日もない。

そのことが、僕を焦らせる一因にもなっていたのだった。

 

 

BanG Dream!~隣の天才~   最終部 第1章『幻の誇り』

 

 

「ねえねえ、一君」

「何? 日菜さん」

 

ある日、ギターのメンテナンス(とは言っても、弦を張り替えてチューニングをしただけだけど)をしていると、その光景をじーっといていた日菜さんが話しかけてきた。

チューニング中に話しかけてこないあたり、彼女も立派なギタリストだなと実感していたりもする。

 

「一君のギター、弾いてもいい?」

「別に構わないけど……」

 

チューニングをしたばかりのところで言ってくるあたり、日菜さんらしいなと思いながら、僕はギターを日菜さんに手渡す。

 

(壊さないよな?)

 

流石にギターを壊されたらたまったもんじゃない。

 

「それじゃ……あれ? むむむ?」

 

そんな僕の心配をよそに、日菜さんはギターを弾いては顔をしかめ、また弾くという何とも奇妙な光景がしばらくの間繰り広げられた。

 

「はい、ありがとー」

「どういたしまして」

 

満足がいったのか、しばらく弾いたところで、日菜さんは僕にギタを返した。

 

(流石の日菜さんも、こいつを操ることはできなかったか)

 

日菜さんは終始、本人が鳴らそうとしていた音を鳴らせていなかった。

これは、チューニングが間違っているわけでも、日菜さんの技量不足というわけでもないのだが。

 

「一君のギターって面白いよね」

「そう?」

 

目を輝かせて言ってくる日菜さんに、僕はどこがおもしろいのかがわからずに首を傾げつつも相槌を打つ。

 

「だって、あたしのギターだったらびょーんってなるのに、一君のだとぶよよーんってなるんだもんっ」

「その擬音は分からないけど、このギターはちょっとばかり癖が強いんだよ」

 

相変わらず、日菜さんの使う擬音は独特だ。

 

「このギター、一見普通のギターのように見えて普通に弾こうとすると、変な音を上げる。チューニングが正しいにもかかわらずにね」

 

小さいころ、このギターを使い始めてすぐは、まさにスランプ状態だった。

どんな本やマニュアルを見ても、押さえている場所は正しいのにその音が鳴らないのだ。

文字通り、僕はあの時ギターに振り回されていた。

 

「それじゃ、一君はどうやって弾いてるの?」

 

興味津々に聞いてくる日菜さんに、僕は”ものすごく単純なことだけど”と前置きを置いたうえで続ける。

 

「このギターのどこをどういう風に抑えればその音が鳴るのかをすべて、頭の中に叩き込んだんだよ」

 

いくらやってもできなかったため、僕は癇癪を起したのだ。

その結果が、それだったりする。

どこをどうすれば、その音になるのかさえ分かればいいという単純な答えだ。

 

(……そうか)

 

そこで、僕はふとひらめいた。

今の自分の抱えている右手に対する問題を解決できる策を。

 

「日菜さん、ありがとう!」

「? どういたしまして?」

 

ひらめきのきっかけをくれた日菜さんにお礼を言う僕を、日菜さんは首を傾げながらも相槌を打った。

 

「ところで、そろそろ出てってくれるか?」

「ほぇ?」

 

日菜さんと話をしていて忘れていたが、今いるのは事務所のミーティングルームだ。

そして、ここにいる理由はこの後に今後の活動についての説明が相原さんからあるらしく、それを聞くためだ。

僕は少し早く来てしまったので、チューニングをしていただけに過ぎないのだ。

そして、時間的にそろそろ皆が来る頃合いだ。

なので、僕は日菜さんにここから出るように促したのだ。

 

「あ、そっか。もうこんな時間か。じゃあね、一君!」

 

そう言って日菜さんはすんなりと引き下がってくれた。

日菜さんもなんだかんだ言って常識はある。

……まあ、邪魔すると雷が落ちるというのを学んでいるからかもしれないけど。

主に、リーダーからの。

 

「おはよーっす」

「あ、一樹君。おはよう」

「お疲れ」

 

日菜さんがミーティングルームを後にして少ししてから啓介たちが中に入ってきた。

しかも、珍しく田中君と一緒に相原さんも入ってくる。

 

(あ、そういえばいつもは僕が最後か)

 

なんだかんだ言ってどうしても事務所に行くのに時間がかかってしまう(主に日菜さん関連が理由だけど)ので、中々新鮮な光景だった。

尤も、それは僕のせいでみんなが帰るのが遅くなっているということでもあるけど。

 

「皆さん、お疲れ様です。本日より、Moonlight Gloryの活動は再開となりますが、よろしいでしょうか?」

 

相原さんは全員を見渡しながら言いつつこちらのほうに視線を向けてきたので、僕は頷いて答える。

 

「では、話の本題に入らせていただきます。本日は、こちらのイベントの運営より出場のオファーが届きました」

 

そう言って、相原さんが配ったのは一枚のチラシだった。

 

「えっと……『Music Spirit Fes』って、あの?!」

「はい。これまでの皆さんのご活躍から、是非出場してほしいと」

 

イベント名を知った啓介がやや興奮気味に声を上げる。

それも無理はない。

 

『Music Sprit Fes』

 

通称MSFは、『FUTURE WORLD Fes』や『SWEET MUSIC SHOWER』と比べるとやや陰りはあるものの、音楽がものすごく好きだったり、そこに精通している人たちで知らない人はいないとまで言われるほど有名な催しである。

それに出場するにはFWF並みの厳しいコンテストを突破するか、運営からのオファーの二択しかない。

しかも、そのオファーの基準も、”音楽業界で誰もが認めるほどの功績”をたたき出すのが条件なのだ。

全世界のグループが出場し、ここで高評価を得られれば、そのバンドは安泰だともいわれているらしい。

日本でも、十数年ほど前にこのイベントに出場したバンドがいるが、そのバンドは未だに現役で、大物グループと言われていたりするのが、その証明だろう。

 

「こんなイベントにオファーをもらえるなんて、夢みたい……」

「ああ。俺たちのこれまでの歩みがちゃんと評価されてるんだな」

 

そんなイベントからの出場のオファーに、感激している者、自分たちが評価されていることを喜んでいる者と反応は様々だったが、喜んでいるというのは一致していた。

……一名を除いてはだけど

 

「それでは、こちらのイベントには出場ということでよろしいですね」

「「「「はい!」」」」

「ちょっと待ってください」

 

全員が頷く中、異論を唱えたのは他ならない僕だった。

僕のその行動に、啓介たちが驚きを隠せない様子だった。

それをしり目に僕は

 

「そちらのオファーの返事は、少しだけ待ってもらってもいいですか?」

 

と、告げるのであった。




前書きのお知らせですが、一つ目は続編の執筆・投稿が決定いたしました。
時期としましては、今年の下旬ごろを予定しております。
こちらは、来週から始まりますアニメの3期の展開などを考慮させていただくためですので、投稿開始まで、今しばらくお待ちください。

そして、二つ目ですが、今回よりアンケートのほうを開始させていただきたいと思います。
内容は、『どのような作品が読みたいか』です。
先ほどお伝えしました通り、続編の投稿が決定となりましたが、開始まで少し時間が空いてしまうため、間でもう人作品できるのではという考えによるものです。
少なくはありますが、選択肢をご用意させていただきましたので、上から順にご案内いたします。

・ほかのヒロインの話を読みたい→本作では書いていない人物との話を執筆いたします。
・いっそのことハーレムでも→ストーリーを無視したご都合主義満載でのハーレム物の話を執筆いたします。
・その他→選択肢にないご要望がある場合はこちらをお選びください。
     リクエスト内容はお手数ですが、活動報告かメッセージなどでお聞かせください。
     *感想でのリクエストは規約違反になりますので、ご遠慮ください。

期間は2週間ほどを予定しております。
皆様のご意見をぜひ、お聞かせください。

読みたい作品は?

  • 1:ほかのヒロインとの話
  • 2:いっそのことハーレムを
  • 3:その他

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