それは、私にとっては偶然でしかなかった。
いつものように、自主練をしようとスタジオに行くと、そこには先客がいたのだ。
「あら?」
それは、美竹くんだった。
いつも彼は私たちよりも早く来て自主練をしているのは知っていた。
この間、彼と紗夜が巻き込まれた事件での後遺症を克服するためだというのも。
(そういえば、どういうことをしているのかは知らないわね)
さほど気にもしていなかったが、そういえば、私たちは彼がどのような練習をしているのかを見たことはなかった。
前に聞いたのは、エンドレスにやり続ける練習方法だった。
でも、それは本人曰く封印しているらしく私たちにもやらないようにと釘を刺してきた。
(あの時は、本当に怒っていたわね)
思い出すのは、少し前のSMSでの出来事。
演奏を聞いていた観客が離れていく結果に、ショックを受けた私たちは、その理由を考えていた。
その結果私が導き出したのがRoseliaのメンバー間の雰囲気が変わっているということ。
そして、それをもとに……バンド結成時に戻そうとした私が実践したのが美竹君がやって見せた『無間地獄』だった。
その時、美竹君はバンドのほうで立て込んでいて、練習を見れる様子ではなかったが、用事を終わらせて私たちの演奏を聞いた彼はすぐにその異変に気が付いた。
そして、何があったのかを聞いた美竹君は怒った。
『あんた、僕のあの言葉をベタなフリだと思ったか? それとも正気でやってんのか? というより、そもそもお前は彼女たちを殺す気か!!』
あの時の美竹君の言葉は、今でも私の記憶に残っている。
最終的には、何とか問題を解決できたのは、不幸中の幸いだった。
それはともかくとして、私は彼の練習の邪魔にならないように、静かにドアを開けスタジオ内に足を踏み入れる。
「っ!?」
その瞬間、まるで私の体中に電気が走ったようにビリっとした感覚に襲われた。
聞えてきたのは、美竹君が奏でるギターの音。
何かの曲のソロ―なのか、最初はゆっくりとだが次第に、速くなっていき両手を忙しなく動かして音を鳴らしている。
(
少し前に、ある人物に教えてもらったことが、事実だったことを私は確信した。
何より、彼の奏でるその音が、雄弁に物語っていたのだ。
私は、そっとドアを開けると外に逃げるように出るのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「えっと……ごめん、湊さん。今なんて言ったのかな?」
湊さんの口から出た単語に、僕は速まる鼓動を抑えながら、もう一度言うようにお願いした。
「HYPER-PROMINENCEとして、今の演奏の感想を聞かせてほしいの」
もう一度聞くと、同じ答えが返ってきた。
僕の聞き間違いということはなくなった。
(どうする……)
どうしてバレたのかはわからないが、僕は混乱する頭で必死に考える。
あの時の……HYPER-PROMINENCEのバンドメンバーであることは、できれば知られたくないのだ。
「……何のことかさっぱり。僕たちのバンドはMoonlight Gloryだよ。HYPER-PROMINENCEではない」
だからこそ、僕はとぼけた。
「ええ。確かにそうね……”今は”」
(間違いなく、確信してるな、これ)
湊さんの含みのある言い方に、僕は嫌というほどそのことを実感させられた。
「ねえ紗夜。そのハイパー何とかって何?」
そんな中、湊さんが口にしたバンド名についてリサさんは紗夜に聞いていた。
紗夜なら、知っているだろうと思ってのことだろうが、それは的確な人選だった。
「HYPER-PROMINENCEです。数年前にいきなり現れた伝説のバンドですね」
「伝説?」
「あ、あこ知ってます! 大いなる闇の宴にドーンって登場したバンドですよねっ」
(何それ?)
あこさんまで知っていたのは意外だったが、僕たちのバンドについての説明は、ある意味紗夜が十分なほどに説明できていた。
「噂ですが、結成して最初のライブで”FUTURE WORLD Fes”に出場したらしいのですけど……その直後に解散したと」
紗夜はそう言いながら、こちらに確認をするような視線を向けてきた。
これ以上誤魔化すのは可能だが、さすがに無理があると判断した僕は、無言で頷くことで答えた。
「あ、あれに一発で合格って……」
「ええ、だから伝説のバンドと呼ばれているわ」
自分でもそうなるために出たところも大きい。
(ついにというべきかとうとうというべきか)
いずれはバレるのではと思っていたが、実際にばれた時になると、複雑な気持ちになる。
「あの……どうして、解散したんですか?」
「………」
白金さんの疑問も、当然のものだ。
「美竹くん、あなたがどうして隠していたのかは私にはわからないわ。でも、よければ話してくれないかしら?」
「アタシからもお願い。興味本位ではないって言えないけど、でも知りたいんだ」
湊さんに続いてリサさんや紗夜からもお願いされ、僕はどうにも引けない状況になってしまった。
(まあ、いっか)
「わかった。話すよ」
これ以上隠していたところで、何の意味もないこと。
何より、彼女たちなら話しても大丈夫という思いから、僕はすべてのことを話すことにした。
あまり思い出したくない、あの時の話のことを。
この話は、バンドストーリーの2章の後という設定となっております。
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1:ほかのヒロインとの話
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2:いっそのことハーレムを
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3:その他