「―――とまあ、こんなわけだ」
「そうだったんですね」
僕の、バンドが解散に至るまでの話を聞き終えた彼女たちはとても居心地の悪そうな感じだった。
そうなるのも無理はない。
僕の両親が死んだことも一緒に話してしまったのだから。
湊さんには、前に話していたが、それでも聞いていて気分のいい話ではないのだ。
「一応言っておくけど、仮に父さんたちが死ななくても、バンドは解散していたはずだよ。僕たちの曲もコンセプトもあの時はまだ誰かから与えられた状態でやっていたから」
あえてフォローするように言ってはみたが、重苦しい雰囲気はなかなか元に戻らなかった。
でも、僕の言ったことは嘘ではない。
両親が死んだことは一つのきっかけであり、あの時の音楽は自分がやりたいと思ったものなのかという疑問は、もともとあったのだ。
仮にあの事故がなくても、いずれは同じ運命をたどっていた可能性は高い。
「どうして、あなたはリーダーを止めたのかしら? 今の美竹君も十分リーダーみたいな感じよ。わざわざ作戦参謀とかになる必要はないわ」
「どのような理由があれ、僕はバンドメンバーを振り回したからね。しかも性質の悪い自爆テロにも似たようなやつでね。そんな僕がもしまた権限を持ってしまえば、また同じようなことをしかねない。だから僕はそれを防ぐために権限だけを外したような状態で落ち着かせたんだ」
そして生まれたのが、今のいびつな形のバンドなのだが、それでもうまく機能はしている。
リーダー権限を外したことで、僕に対しての一つのストッパーの役割を果たしてくれているのだ。
「あと一つだけいいかしら?」
「今更感が強いけど……まあいいや」
「どうして、美竹君は”Music sprit Fes”への参加を渋っているの? あなた達の実力であれば、不安を感じる必要はないように見えるのだけど」
湊さんの問いかけに、再びみんながざわついた。
紗夜が『Music sprit Fes』の説明をして、そのざわめきはさらに強まる。
(………なるほど、そういうことか)
そんな中、僕はある確信を持てた。
どうして、湊さんがこうもためらうことなく僕が”HYPER-PROMINENCE”のバンドのメンバーであることを言えるのかという疑問の答えが。
「別に実力とかで怖いとは思っていない。ただ、不安なだけ」
「不安?」
「僕はそのイベントにも全力で挑む。そうすれば、必然的に曲のジャンルも前のバンドの時のに似ていく。そうなれば僕達がHYPER-PROMINENCEだったことに気づかれる可能性だってある。そうなった後のことが怖いんだ」
別にバレる云々の心配はしていない。
疑問を持たれてもとぼければいいだけのこと。
一番の問題は、前のバンドのことに気づかれ、僕たちがそっちのほうに流されて行ってしまうことのほうが大きい。
あの時の栄光は……誇りはすべて過去の物。
いわば幻だ。
それが、今の僕たちに合わされば今のバンドの均衡はまた崩れてしまう。
そうなった時の場合が、僕は怖くて仕方がなかったのだ。
「美竹くん、これは私の意見だけど、出るべきだと思うわ。確かにあなたの言う通りのことが起こる可能性がある。それでも、貴方たちのバンドはその程度でどうにかなってしまうほど、軟弱なのかしら?」
「私も湊さんと同じ意見よ。一樹君のバンドのメンバーが、どうにかなってしまうのかどうかはあなた自身がよく知っているはずでしょ」
「あこも、難しい話はよく分からないですけど、でもでも一樹さんもMoonlight Gloryのみんなもお姉ちゃんと同じくらいカッコいいんです! だから、絶対に大丈夫だと思います!」
次から次に僕に駆けられる言葉。
中には煽っているようなことを言う人もいた。
それでも、みんなの言葉の共通点は、僕が踏み出せない一歩を踏み出せるよう、背中を押してくれていることだった。
「皆、ありがとう」
気が付けば、僕の心の中にあったつっかえのようなものは、きれいさっぱりなくなっていた。
「今、答えがはっきり出たよ」
そして、僕は彼女たちに答えを口にするのであった。
「まさか、ばれるとは思ってもいなかったよ」
「私としては、もっと早く話してほしかったわ」
帰り道、僕と紗夜はいつものように二人で帰路につきながら、話をしている。
「それについては悪かったって。あの時のことは封印しようって決めていたから」
今でも、それが正しかったのかどうかは分からないけど。
そんな時、僕はふとある一軒家の前で足を止めた。
「一樹君?」
「ここのこと覚えてる?」
「当たり前でしょ。前にあなたが住んでいた家よ」
そこは紗夜の家の隣で、元々僕たちが暮らしていた家だった。
そこはいまだに買い手がついていないのか、人の住んでいる気配はない。
「紗夜にだけ、僕の夢というか、目標を話すね」
今思えば、僕は初めて誰かにこのことを言うかもしれない。
「僕はお金を貯めて、奥寺を……この家を取り戻す」
「取り戻す?」
「うん。すべてはここから始まった。だから、ここをもう一度手にすれば僕は本当の意味で自分を取り戻せるかもしれない。そう思うんだ」
別に家に執着しているつもりではないが、ここに住んでいた時の自分を取り戻せば、きっと僕たちは本当の意味で月の栄光という名に恥じないバンドになれるような気がするのだ。
それは、過去の自分になるというわけではない。
前に進みながら、かつての自分を取り戻すのだ。
さらなる高みに行くために……自分自身に対する挑戦のために。
「この家には、地下に続く隠し階段があるんだ。そこは特設の練習会場にもなってるんだよ。もしここを手に入れられたら、招待するね。紗夜とRoseliaのメンバー全員を」
「ええ、楽しみにしてるわ。でも、最初は私だけを呼んでほしいわ」
「そのつもりだよ」
僕と紗夜は、お互いに向かい合いながら、くすくすと笑いあう。
それがどれだけ先のことかはわからない。
でも、その時が来ることを祈って、僕は紗夜と約束を交わすのであった。
そして、後日。
僕はみんなを、ミーティングルームに集めていた。
この間のイベントの答えについて、みんなに話したいという理由で。
「皆、今日は早くに集まってもらってごめん」
「で、話を聞かせてもらおうか」
「うん。僕は―――――」
そして、僕は湊さんたちに話した自分の気持ちを、みんなに包み隠さずに話した。
皆は何も言わずに静かに聞いてくれていた。
「こんな僕だけど、もし許してくれるのであれば、僕はこのイベントに出たい。みんなと一緒に次の一歩を踏み出したいんだ」
「……らしいけど、どう? 聡志」
僕の話を聞き終えた森本さんが、田中君に話をふる。
「……んなの決まってんだろ。このイベントに出場し、次の一歩を踏み出す。当然一樹も一緒にな。異論がある奴は声を上げろ」
「……ッ。ありがとう、皆!」
色々と迷惑をかけた僕を受け入れてくれたことがうれしくて、僕は何度も何度もお礼の言葉を口にしていた。
「わかったから、何度も何度もお礼を言うな」
「おやおや、お顔が真っ赤でっせー」
「うるさいっ」
そんな僕に、お礼を言うのを止めるように言った田中君の表情は、明らかに照れている様子の田中君をからかう啓介を、僕たちはお互いに顔を見あわえて苦笑しながら見ているのであった。
その後、ミーティングルームを訪れた相原さんにイベントへの参加の意向を改めて伝えたことで、僕たちのイベント参加は確定となった。
そしてついに、MSFの日を迎えた。
「よしみんな準備はいいか?」
「問題なし!」
「右に同じく!」
「私も!」
ステージ脇で、いよいよ次の番となった僕たちのバンドの演奏に先駆けて、田中君の問いかけに啓介と森本さんに中井さんの順で答えていく。
みんなの表情はいつものように堂々としていて、その表情には不安の色は見えない。
「一樹、お前はどうだ?」
そして、最後に僕の番になった。
みんなが見つめる中、僕は静かに深呼吸をする。
「僕はMoonlight Gloryの作戦参謀だよ? 問題はない。それに、どこかの誰かさんがリークまでしてくれたんだから、ここでうだうだなんてはしていられないよ」
「う゛!? その件については前から謝ってるだろ」
僕の嫌味にバツが悪そうに言う田中君の様子に、みんなはぷっと噴き出して笑い始める。
田中君は、僕をこのイベントに出させる(というよりは僕の本心を聞く)為に、湊さんに僕たちが伝説のバンド”HYPER-PROMINENCE”だったこととMSFについて話したのだ。
その結果がこれだ。
尤も、それのおかげで僕はいろいろと吹っ切れたのだから最終的には田中君には感謝の気持ちでいっぱいなわけなのだが。
そんな時、どっと歓声が沸いた。
どうやら僕の前のバンドの演奏が終わったようだ。
「Moonlight Gloryの皆さん。出番です」
「よし。じゃあ行くか」
スタッフの言葉に呼応するように声を上げた田中君に応じながら、僕たちは観客のいるステージへと足を進める。
まだまだ色々な課題はあるが、それでも一歩ずつクリアしていければいい。
そんな気持ちと共に。
そして、この日のライブは無事に成功という結果を収め、僕たちはまた大きな壁を一つ乗り越えるのであった。
第1章、完
ということで、今回で本章は完結となります。
そして、いよいよ次が本作最後の章となります。
それでは、最後の次章予告を。
MSFで成功を収めた一樹たちのもとに、あるライブのオファーが届けられた。
一樹たちは、ライブを成功させるべく、準備を進めるのだが……
次回、最終章『Moonlight Gloryよ、永遠に』
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1:ほかのヒロインとの話
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2:いっそのことハーレムを
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3:その他