BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第235話 やらかし

「―――というわけで、今年いっぱいは練習には参加できなくなった」

 

翌日、いつものように練習を始めようとする湊さんに断りを入れて、僕は海外でのライブツアーの件を説明したのだ。

 

「す、すごい! リサ姉、リンリン海外だって海外っ!!」

「うん、すごいね……あこちゃん」

「あこ、気持ちは分かるけど、少し落ち着こうね」

 

海外でのライブということもあり、あこさんのハイテンションになるのは無理もない。

白金さんも驚いている様子ではあるが、比較的落ち着いている。

リサさんに関しては、いつも通りだろう。

紗夜は昨晩説明しているので、驚いた様子もない。

 

「あのフェスでのあなた達の演奏は素晴らしかったわ。だからこその結果ね。父さんも応援してるって言ってたわ」

「あはは、湊さんの父親に応援してもらったとあっちゃー頑張らないわけにはいかないかな」

 

湊さんの父親から激励までもらったのであれば、頑張らないほかない。

 

「海外でのライブは、配信とかはされないのかしら?」

「うーん。たぶん難しいと思うよ。いくら海外とはいえ……ねぇ」

 

注目度はあるにしても、テレビなどで名前配信されるほどにはまだ至っていないのか、そういう話は聞いていない。

とはいえ、後日何らかの形でこっちにもライブの映像が届けられると思うが。

僕の答えを聞いて、湊さんは少しだけ残念そうにしていたのが、少し申し訳なかった。

 

「そろそろ練習を始めましょう。一樹君もいいわね?」

「もちろん」

『はいッ』

 

そして紗夜の号令によって、みんなは練習を始めるのであった。

 

 

 

 

 

練習の休憩中、外のカフェテリアで作業をしていると、僕の向かい側の席にリサさんが腰かけた。

 

「相席失礼☆」

「言う前に座ってたら意味ないよね?」

 

正確にはあの字を言う前に座っていたりするけど。

 

「それは言わないお約束だよ」

「……まあいいけど」

 

ウインクしながら言うリサさんに、これ以上何を言っても無駄だと悟った僕は、作業のほうを再開させることにした。

 

「何やってるの? これって……ファンレター?」

「まあ、そんなところかな」

 

こんな場所で何をと思うかもしれないが、毎日数十通も送られてくるファンレターすべてに目を通して、一通一通返事を書いていくというのはかなりの重労働だ。

時間もかかるうえに、返事を出さなければどうなるか……考えただけでも恐ろしい。

そんなわけで、時間を見つけてはちょくちょくと返事を書いているのだが……

 

「あれ……なんか書いてる内容が一緒っぽいんだけど?」

「……言わないで」

 

リサさんからの鋭い指摘に、僕は一瞬体をこわばらせる。

凄まじいくらいに多いファンレタ-への返事の文を考えるのは大変なのだ。

そして、気が付くとほぼ定例文化しているという状態だ。

とはいえ、どれも内容が”応援しています”やら”頑張ってください”といった内容のファンレター限定だけど。

 

「えっと、なんかごめん」

 

そして事情を悟ったのか、なんとも言えない表情のリサさんに謝られてしまう。

 

「まあ、これよりも一番の問題は”やらかし”何だけどね」

「やらかし?」

 

思わず口から出た愚痴に、リサさんは興味を持ったのか首を傾げつつ聞いてきた。

 

「芸能人とかアイドルとかのファンで、特にマナーの悪い人たちのことを指す言葉らしいよ」

「マナーが悪いって、どんな?」

「僕もよく知らないけど、プライベートの芸能人を尾行したりストーカーまがいのことをするとかって言われてるね」

 

相原さんに言われた事例を、そのままリサさんに話すと、リサさんは”うわぁ”と言いながらかなり引いていた。

僕も、相原さんから注意を受けるまでは、そういった言葉は全く知らなかったが、過去にはやらかしに携帯電話を盗まれたりしたなどといった事件が起こっているのも確かだ。

 

「Moonlight Gloryにも、そういう人っているの?」

「いるっちゃいるが、僕の場合は”やらかし”に該当するかはわからないけど、分かりやすくするために言ってるだけだから」

 

流石に、そういうことをされれば僕はたまったもんじゃない。

僕はまだ返事を書いていないファンレターが入っている袋の中から、一通の封筒を手にすると中の便せんを取り出してそれをリサさんに手渡す。

 

「えっと……『一樹の私服は、鼠色じゃなくて、黒に統一するべき……ライブの時に前に出るの禁止』……なにこれ?」

「それが、”やらかし”からの手紙」

 

軽く内容を呼んだリサさんが困惑した様子で聞いてくるので、僕は簡潔に答えた。

 

「相手は”ミセス”と名乗っているけどね。この人が一番厄介な”やらかし”かな。こんな感じの手紙を毎日送りつけてくる」

「うはぁ……」

 

リサさんでも引くくらいなのかだから、相当凄まじいのだろう。

僕の感覚がくるってるのかとも思ってはいたが、これで一安心だ。

……いや、安心はできないけど。

 

「このミセスなる人物がらみで冷や汗をかいたのはパスパレが結成されたときかな」

「パスパレって……確か最初のライブで……」

 

リサさんはそこから先は言葉を濁したが、僕はリサさんが言おうとしたことを頷いて答えた。

デビューライブでのアテフリアテレコが発覚した一件だ。

今では、なんだかんだ言って昔のことだと軽く言えるようになったが、当時は本当にやばかった。

 

「やらかしから一斉にPastel*Palettesに対する誹謗中傷や物騒な言葉が書かれた手紙が送りつけられた時は、さすがにひやひやしたもんだよ」

 

口調こそは軽いが、当時はいろいろな意味でひやひやしていた。

そんな中でもひときわ群を抜いてすごかったのが、このミセスという人物だけど。

 

『Pastel*Palettesを一生呪ってやる』

 

そのような恐ろしい手紙を、一気に数百通も送り付けて来たときは、怒りうんぬんよりも恐怖しか感じなかった。

 

「あれ……それじゃ、紗夜は?」

「だから僕はかなりピリピリしていたんだよ。紗夜の身に危害が及ぶんじゃないかと思って」

 

ふと、思いついたリサさんの言葉に頷きながら僕はため息を漏らした。

阿久津たちの虚言で、僕が暴行事件の犯人にさせられた際に、その流れ弾で紗夜との交際が報道されてしまったのだ。

あの時は阿久津たちに加えて、やらかしまでもが敵に回るのではないかと思って、ひやひやしていたが、特に動きなどもなくほっと胸をなでおろしたのは記憶に新しい。

 

「何でも”日菜様の姉だったら許してやる”らしいよ」

「やる……なんだ」

 

リサさんの言わんとすることは分かる。

僕だって同じ気持ちだ。

もし本人がこの場にいたら、”余計なお世話だ”と怒鳴りつけているところだ。

ちなみに、どうして日菜さんの姉ならという書き方なのかというと、やらかし……というよりミセスが日菜さんのファンだったりするからだとか。

 

「一応言っておくけど、これは紗夜には言わないでね? 変に不安にさせたくないから。それにそもそも向こうが何かしてくれば僕が許さないし」

「おぉ、男前~」

 

最後は軽くのろけてはしまったが、それでも僕たちの間に会った重苦しい雰囲気はなくなり、またいつも通りの状態に戻っていた。

そして僕は、休憩時間が終わるまでの間、ファンレターへの返事を書いているのであった。




*本作のやらかしの定義は実在するやらかしの定義と、一部異なっております。

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  • 1:ほかのヒロインとの話
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