一樹たちが海外でのライブツアーに向かって数日が経過した。
「はぁ……」
CiRCLEのカフェテリアでは、席について休憩中の紗夜が一人ため息を漏らしていた。
「……心配?」
そんな紗夜のため息の理由が分かっていたリサの言葉に、紗夜は素直に頷く。
「確か今はニューヨークだっけ?」
「ええ。その後にロンドンですね」
ちゃっかりと一樹たちの現在のライブを行っている国を把握している二人は、自然な感じで話をしていた。
「調べて見たんだけど、中国とフィンランドのライブは大成功だって書いてあるよ。ほら」
そう言って紗夜にスマホ画面を見せると、紗夜はそれに目を通していく。
それはネットニュースの記事で、一樹たちMoonlight Gloryの海外ライブツアーについての記事だった。
その記事曰く、最初の中国でのライブは盛況のうちに終えることができ、それに弾みをつけたように次のフィンランドではカオスティックの曲を織り交ぜたライブを行ったらしい。
ちょうど時期的にクリスマスということもあり、クリスマス風の曲調で会場の照明などの機材をフル活用した演出が非常に高く評価されていた。
記事の最後には、斬新なライブを行う新生バンドの今後に注目したいという内容で締めくくられていた。
「この曲ってどんな奴なんだろう?」
「それは分かりませんが、おそらく後日見せてくれると思うので、それまで待ちましょう」
フィンランドで演奏した曲に興味を持つリサに、紗夜はそう言うと席を立った。
「さあ、休憩は終わりですよ。今井さん」
「はーい☆」
そして、彼女たちは再び練習を再開させるのであった。
同時刻、羽沢珈琲店にて。
「イヴちゃん、何を見てるの?」
「あ、つぐみさん!」
バイトの時間よりも早く来ていたイヴが、楽しそうにスマホを見ているところにつぐみが声をかける。
「アケミさんが送ってくれた映像を見てるんですっ」
「え? これって……Moonlight Gloryの?」
「はい! フィンランドで最後に演奏した曲なんです!」
嬉しそうに話しているイヴにつられるように、スマホ画面を見ると、それは会場全体を映し出した映像が映りだされていた。
「アケミさんは、クリスマスっぽい曲ていてました」
「へぇ、今度私にも見せてもらってもいいかな?」
つぐみの言葉に、イヴは”はい!”と笑みを浮かべて答えるのであった。
夜、氷川家の紗夜の部屋。
いつものように予習復習を終わらせた紗夜は、一人息をついていた。
「はぁ……一樹君、今頃ライブなのよね」
紗夜が見ているスマホには、3時間ほど間に送られてきたメールの文面が表示されていた。
海外にいるため、時差などの関係で電話は難しいため、代わりにメールで話しをしていたりするのだが、やはりこれもあまりうまくいっていない状態だ。
今回は一樹たちのいるイギリスで8時、日本では午後5時ごろに送られてきたメールだ。
内容は、自分たちは元気でいること。
この後すぐにリハーサルをやるので、携帯を見れないということ。
そしてこの日のライブが海外ライブツアー最後だということが綴られていた。
最後は『なるべく早く日本に帰るから、お土産とか期待してて』という文面で締めくくられていた。
「あれ、今日は雨は降らないって予報だったのに」
突然降り出した雨に、紗夜は言い知れぬ不安を感じた。
紗夜は一樹たちのイギリスでのライブの時間を確認しようと、スマホで検索をかける。
「………え?」
検索結果で出てきた、ある掲示板サイトを見た紗夜は、固まった。
『これから忠告を無視したMoonlight Gloryの一樹に、裁きを与える』
それが、サイトに書き込まれていた文面だった。
その書き込みは数十分ほど前の書込みであった。
その後に”は? 意味不明”や”通報通報”という返信が続いている。
(い、いたずら……よね。性質の悪い)
紗夜は、必死に自分に言い聞かせることで落ち着かせる。
「大変だよ! おねーちゃん!」
「日菜、ちゃんとノックして……って、その手に持ってるのは何よ?」
ノックもせずにまるでけり破るように部屋に飛び込んできた日菜に、注意をしようとしたところで、その手に持っている封筒に目が留まった。
「事務所のスタッフの人が落としたんだけどね、Moonlight Glory宛てだしあたしが渡そうって思って。それで中が気になって開けたんだけど」
その封筒は、昼間事務所のスタッフの一人が落とした封筒であった。
「あなた……他人あての手紙を勝手に……しかも読んだりしたら……っ!?」
他人の手紙を勝手に持ってきたばかりか、中身を勝手に読んだ日菜に注意をしようとしたところで、日菜が差し出した便せんを目にした紗夜は、言葉を失った。
そこには『海外公演を中止しろ。さもなくばお前らの命はない』という脅迫文が書かれていたのだ。
「いけないっ……早く一樹さんに伝えないとっ」
先ほど見た掲示板での書き込みのことが頭をよぎった紗夜は、慌てて一樹に連絡を取ろうとするが、電話はいつまでたってもつながることがなかった。
(お願いだからっ……)
そんな紗夜の願いもむなしく、彼女たちにとって最悪な一報が届いたのは、明け方になってからだった。
不穏な空気のまま、次回に続きます。
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