BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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日曜の台風は大丈夫でしたでしょうか?

私のほうでは会社内が外から吹き付ける雨水で少し浸水しました。
けが人はなかったのでよかったですが、いろいろと怖い夜を過ごしました。


それはともかくとして、第24話をどうぞ。


第24話 相談

「名前聞くの、忘れちゃったな」

 

羽沢珈琲店で、慌ただしく出て言った一樹の背中を見送っていた少女……つぐみは、ぽつりとつぶやいた。

彼女にしてみれば、どこにでもいるような客だったが、妙に記憶に残っていたのだ。

 

「あ、そうか。似てるんだ」

 

ふと、自分の幼馴染の一人とよく似ていることに気が付いたつぐみは、この後来る幼馴染たちにその話をしようと心の中で決めると、来店客を告げるベルが鳴る。

 

「あ、蘭ちゃんにみんな」

「どーもー」

 

訪れたのは彼女の幼馴染である美竹 (らん)と、ピンク色の短めの紙の少女、上原(うえはら) ひまりと、赤い髪の少女宇田川(うだがわ) (ともえ)と、銀色の髪の少女、青葉(あおば) モカの4人だった。

 

「ごめんね、相談にのってもらって」

「ううん。気にしないで。私もあと少しで交代だから、みんな席について待っててね」

 

ぱたぱたと駆けて行くつぐみを見ながら

 

「とりあえず座ろっか」

「そうだね」

「さんせーい」

 

巴の提案に頷いて、蘭達は手頃なテーブル席に腰かける。

 

「注文は決まった?」

「つぐ―、何かおすすめない―?」

 

メニュー表と睨めっこしていたひまりは、注文を聞きに来たつぐみにおすすめを尋ねる。

 

「ケーキセットがおすすめだよ」

「へー、コーヒーとケーキがセットになってるんだ」

 

それは一樹が頼んだものと同じメニューだった。

 

「うん。お客さんからおいしいってお墨付きもらったからおすすめだよ」

 

(でも、これを食べたらまた太るかも。でも食べてみたいし。うぅー)

 

ひまりが心の中で葛藤していると、そこに救いの手を差し伸べるものがいた。

「それいいな。アタシはそれにしようかな」

「うぅ……じゃあ、私もケーキセット!」

 

巴がつぶやくと、ひまりは目を輝かせながら注文した。

 

「ケーキセットが一つ。他の皆は?」

 

つぐみは他のメンバーにも注文の品を聞くが

 

「アタシは紅茶で」

「私も」

「あたしも―」

 

巴たちは、全員同じメニューを頼む。

 

「えっと……それじゃ、ケーキセットが1つと、紅茶が4つだね」

「なんで、違うのを頼むの?!」

 

苦笑しながら彼女たちのもとから離れるつぐみをしり目に、ひまりは首をかしげる。

 

「いやー、何となく―」

「よく考えたら、今日は甘いものを食べたい気分じゃなかったしな」

 

小悪魔のような表情を浮かべるモカに続いて、巴が答える。

 

「絶対に何か企んでるっ」

「そんなことないぞー。二人もだろ?」

 

巴の問いかけに、二人とも頷く。

 

「そーだよ。ひーちゃんの体重がまた増えちゃうなんて、思っていませーん」

「今言ったよ!? さらっと本音を言ったねっ!」

 

モカの言葉に、ひまりが慌てた様子でツッコムと、それを見ていた蘭と巴が笑い出す。

 

「えっと、ケーキセットが1つと、紅茶が4つです」

 

そのタイミングで、ひまりたちのもとに持ってこられたのは、注文していた料理だった。

気まずそうに料理を置いていくと、つぐみは苦笑しながら再びその場を後にする。

 

「うー」

「食べないの?」

 

恨めしそうにうなりながらケーキを見ているひまりに、蘭は無表情で声をかけた。

 

「あんなこと言われた後で食べずらいよっ」

「大丈夫。太ったらやせればいいんだよー」

「それ、全然気休めにもなってないからな」

 

モカの励ましに、巴が突っ込むがそれを無視するように、モカは料理に手を付ける。

 

「さーさー、一口食べてみるのじゃー。幸せが待っとるっぞ―」

「うぅっ、ええい! もうやけだー! ぱくっ」

 

食べるのをためらっていたひまりだったが、モカの誘惑に我慢ができずケーキを一口、口に入れた。

 

「んー、おいし~」

「結局食べるんだ」

「にやり」

 

ためらっていた先ほどまでのそれは何だったのかと心の中でツッコム蘭の言葉に、モカは一瞬ではあるが意味ありげな笑みを浮かべた。

それから少しして、手伝いを終えたつぐみが、蘭達に合流する

 

「待たせて、ごめんね」

「大丈夫」

「ああ。全然待ってないぞ」

「モカちゃんも―、大丈夫だよー」

「うん。私も」

 

待たせたことを謝るつぐみに、蘭と巴にモカとひまりの順でそう返した。

 

「みんな、ありがとう」

 

そんな彼女たちに、つぐみはお礼の言葉を口にすると、全員は笑みを浮かべてそれにこたえる。

 

「ところで、相談って何?」

「ああそうだな。あたしもそれを聞きたかったんだ」

 

そしてひと段落着いたところで、ひまりが本題を切り出すと、それに巴も続く。

この日、全員が集まったのは、蘭が相談をしたいことがあると言ったからなのだ。

 

「それは……」

「何かあったのか?」

 

言うのを躊躇う蘭の様子に、巴達は事の重大性に気づき表情を引き締める。

 

「実は――――」

 

 

★ ★ ★

 

 

(確かこの辺なんだけど)

 

羽沢珈琲店を後にして走ること数十分。

乱れた息を整えながら、周囲を見渡す。

先ほどの電話で聞いた特徴が正しければ、このあたりにいるはずだ。

 

「奥寺君!」

「あ、松原さん!」

 

あたりを見回す僕に気づいたのか、とてとてと駆け寄ってくるのは、僕の相談相手でもある、松原さんだった。

 

「ごめんね、道に迷っちゃって」

「いや、それを言うならこっちこそ相談に乗ってもらうんだから」

 

申し訳なさげに謝る松原さんを見ていると、こちらまで申し訳なくなってくる。

 

「さて、それじゃここからどこか喫茶店にでも行こうと思うんだけど……」

 

流石に商店街まで戻るのは少し気が引ける。

時間もそうだけど、僕の勘が告げている。

あそこに戻ると厄介なことになるって。

 

「申し訳ないけど、あそこの喫茶店でもいいかな?」

「うん。大丈夫だよ」

 

もしかしたら、あそこに行きたかったのかもしれないが、またの機会にしてもらうことにした。

 

「それじゃ、行こうか」

「うんっ」

 

こうして、僕たちは喫茶店へと向かって歩き出す。

 

「って、松原さん、そっちは逆だよ!」

「ふぇえ!?」

 

(……本当に大丈夫かな?)

 

色々と不安になりながら、今度こそ喫茶店に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喫茶店に入り、テーブル席に案内された僕たちは、それぞれが注文をする。

 

「それで、奥寺君。相談って何かな?」

「実は、本題に入る前に言っておかないといけないことがあるんだ」

 

僕は、彼女にまだ話していないことがあるのを思い出した。

 

「去年色々あって、親戚の家に引き取られたんだ。だから苗字も”奥寺”じゃなくて”美竹”になったんだ」

「そう……だったんだね。ちゃんと名前を呼ばないくてごめんね」

 

悲しげな表情で謝る松原さんに、僕は気にしないでと返した。

言っていないこっちが悪いのだから、当然と言えばそうなるが。

 

「それで、この話につながるんだけど、引き取られたはいいんだけど、なんだか距離感……壁のようなものを感じるんだ」

「距離感?」

 

僕の口にした言葉に、松原さんは首をかしげる。

 

(もう少し具体的に言わないと)

 

とはいえ、僕ですら言葉にできるほどわかっているわけではない。

感覚的な話になってしまうので、どうしても抽象的な表現しか思い浮かばないのだ。

 

「例えば、どんな時に感じるの?」

「そうだな……」

 

そんな僕に助け舟を出すように聞いてくれた松原さんに感謝しつつ、僕はその時のことを思い起こしてみる。

 

「父さんたちが、どこかよそよそしく声をかけてきたり、義理だけど妹のほうは無言で睨んできたりするし」

 

僕の思い込みが激しいだけかもしれないが、彼女は内心で早く家から出ていけとでも思っているのかもしれない。

……本当にそうだったら、僕は本気で家を出ていくつもりだけど

 

「うーん。私はたぶん奥寺……じゃなくて美竹君がまだ戸惑っているような気がするの」

「戸惑う?」

 

松原さんの分析に、今度は僕が首をかしげる番だった。

 

「確かにいきなり養子になれって言われたから少し戸惑ったけど、それも苗字が変わる前にはなくなってたけど」

 

それは断言できる。

中学の卒業式を終え、家を引っ越すとき、僕の中で戸惑いやためらいは全て吹っ切れている。

だから、あるはずがないのだ。

 

「私の個人的な考えなんだけど、美竹君はちゃんと戸惑う気持ちを無くしたと思うの。でも、心の中ではまだ割り切れてないんだと思うんだ」

「それってつまり、まだ僕の心の中では自分のことを”奥寺”だと言っている状態ってこと?」

 

僕の疑問に、松原さんはたぶんと言いながら頷く。

 

(……)

 

自分のことなのに、いくら考えても答えが出てこない。

でも、ありえないとも思えなかったのが、もしかしたら松原さんの指摘が当たっている証拠なのかもしれない。

 

(ここから先は自分で考えないとだめか)

 

いくらなんでも、松原さんに答えまで導き出させるのは申し訳なさすぎる。

答えを導くヒントをもらえただけでも、非常にありがたいことなのだ。

 

「ありがとう。なんとなくわかったような気がするよ」

「良かった。やっと私、おく……美竹君の力になれたんだね」

「いや、松原さんにはいつも感謝してるんだから」

 

松原さんの存在が今までどれほど僕の助けになったか。

というより、松原さんがいなかったら、知り合いは中井さんしかいなくなってるし。

 

「そんな、感謝なんて」

「いや、本当だよ。今日もありがとう」

「当然だよ。だって、美竹君は――き――――とだもん」

 

お礼を言うと、松原さんは顔を赤くして顔を下に向けると小さな声で何かを呟く。

小さすぎて全然聞き取れなかったけど、聞き返さないほうがいいような気がした。

 

「松原さん?」

「と、友達だから。友達が悲しそうな顔をしているのは見ていて悲しいもん」

 

慌てたように言う松原さんに内心で首を傾げつつお礼を言うと、持ってこられた飲み物を飲み干す。

 

「っと、そろそろ出ようか」

「え……あ、うん」

 

用事も終わったし、これ以上松原さんに付き合ってもらうわけにはいかないと思ったのでお開きにしようとしたのだが、一瞬残念そうな表情を浮かべたような気がした。

もしかして……

 

(いやいや、自意識過剰だし。下手すると犯罪一歩手前だ)

 

脳裏をよぎる考えを、僕はありえないと振り払った。

何事も考えすぎはよくない。

 

「えっと、お金は……あ」

「相談に乗ってもらったんだから、このくらいはお礼させて」

 

自分の頼んだ飲み物の代金を確認しようとテーブルに置かれた明細を摂ろうとした彼女を遮るように、僕が明細を取った。

 

「……うん。それじゃ、お言葉に甘えるね」

「ちょっとだけ待ってて」

 

僕はレジのほうで手早く精算を済ませ、松原さんとともに喫茶店を後にする。

その後、いろいろと心配なため、いつもの場所まで送っていった僕は、帰路に就くことにした。

 

(松原さんの助言を無駄にしないためにも、ちゃんと考えをまとめなくちゃ)

 

そう心の中で決意しながら。




最近原作キャラの呼称リストなるものを載せているサイトを見つけて、それを参考に書いていたりします。

あれがなければ、今頃はツッコミの嵐になっていたと思うので、意外に重宝しています。

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