ということで、第7話です。
「大和さん、丸山さんを! 僕はあのバカを」
「はいっ。任せてくださいっ!」
僕が出したのは、日菜さんを何とかすることだった。
丸山さんを何とかしても、日菜さんが橋を揺らしている限り状況は変わらない。
ならば、揺らしている日菜さんを何とかすれば、丸山さんのほうもなんとかなる。
そう思ってのことだった。
「若宮さん、ちょっと失礼ッ」
僕は、若宮さんの横を半ば強引に通って前に出ると、駆け足で二人のほうに向かう。
「おりゃっ!」
「きゃ!?」
彼女の元まで駆け寄った僕は、間髪入れずに日菜さんの足を払うことで強引に姿勢を崩させると、彼女を両腕で抱えてそのまま橋を渡り切った。
「馬鹿野郎っ」
「ひっ!?」
そして彼女を地面におろして、立ち上がったところを僕は思いっきり怒鳴った。
「ふざけるのも時と場合があるだろっ! 自分が何をしていたかわかってるのかっ! あんたは一歩間違えれば皆にけがをさせるところだったんだぞ!!」
思えば、ここまで思いっきり日菜さんに対して怒鳴ったことはなかったような気がする。
でも、それほどに僕は怒っていた。
彼女の性格は、わかっているし理解はしているつもりだ。
それでも今回のことだけは僕には許せなかったのだ。
「み、美竹君。もう大丈夫だよ。私は大丈夫だから、ね?」
「丸山さん。それにみんなも」
後ろのほうから聞こえてきた声に、振り返ると、みんなはすでに渡り終えていた。
「はぁ……日菜さん。ちゃんと丸山さんに謝って」
「うん……ごめんね、彩ちゃん」
「ううん、私は大丈夫……じゃないけど、もうやらないでね」
一番の被害者である丸山さんがいいのであれば、これ以上僕が言うこともない。
「一君……あの……へ?」
「ちょっと、怒鳴りすぎちゃった。ごめん」
そして、よそよそしい感じの日菜さんの頭を軽くポンポンと叩きながら、謝った。
怒る時に少し感情的になりすぎたからだ。
「あの……二人とも。そろそろ進みましょう」
「……う、うん! そうだね」
微妙な空気になっている僕たちを見かねてか、大和さんが助け舟を出してくれたので、僕はそれに乗ることにしたのだった。
「うわぁ……キレイ」
山を登り切った僕たちが見たのは、一面端で埋め尽くされた場所だった。
「花びらが舞ってすごーい! もうるるるるんっだよ~」
その光景に、みんなも感嘆の声を上げる。
「ふふ。これなら、ここまでの疲れもすべて吹き飛ぶわね」
横で柔らかい笑みを浮かべる白鷺さんの言葉はまさしくその通りだった。
「皆さんお疲れ様です! ここでミッションは終了となります」
「ほ、本当に? やったー!!」
スタッフのその言葉は、みんなに笑みをもたらした。
「マヤさん! やりました! 私たち、無事に生き残れました!!」
「うーん、あたしはもうちょっと冒険したかったな」
喜びをあらわにするみんなとは対照的に、物足りなさそうにしている日菜さんは、ある意味彼女らしい感想だった。
「というより、私たちが達成したミッションは、食材探しにお花畑を探すことに、つり橋を渡ること……ミッションの数が少ないようにも思えるのですが?」
「あ、そういえばそうだ」
白鷺さんに言われて気づいたが、突然付け加えられたミッションを除くと2つしかミッションがない。
いくら何でも少なすぎのような気がする。
「ええ、実はそうなんです」
「え? ということは、本当はもっとたくさんのミッションがあったんですか!?」
頷くスタッフに、丸山さんは驚きながらスタッフに聞く。
「ええ。専門家の方にお話を伺い、色々とミッションを用意していたのですが、大和さんがナチュラルに先回りをされていたので」
「す、すみません。ジブン、基本素人なので全然空気が読めなくて」
「いえ、最初は番組が成り立たなくなるかと思いましたが、大和さんの冷静な判断能力はとても素晴らしかったですよ」
(それで、つり橋のミッションが出たわけか)
やや強引だったミッションの出し方だっただけに、納得がいった。
「うん! 私もそう思う! 麻弥ちゃん、とってもすごかったよ」
「そ、そんなことないですよ」
「そ、その謙虚な言葉……マヤさんは、ブシドー精神の塊ですっ」
皆から称賛の声を送られたことに照れながら言う大和さんに、若宮さんはそういうが、果たして”ブシドー精神”というのが正しいのかどうかは分からなかった。
「うん! 今日の麻弥ちゃんはいつもの麻弥ちゃんよりるんっ♪てしたよ。ね、一君」
「全くだ。おかげで僕まで頼りっきりになっちゃったくらいだから。今日のMVPは文句なしの大和さんだね」
「そ、そうですか? えへへ、バンド以外でも皆さんのお役に立ててうれしいです」
色々とあったが、振り返ってみれば楽しい思い出だ。
「あーっ!!」
そうしんみりとしている中に、丸山さんの叫び声が響きわたる。
「な、なに!?」
「新曲! すべてのミッションをクリアしたら発売されるルールの新曲だよ! これで発売できるんだねっ!」
嬉しそうに声を上げる丸山さんの言葉で、僕は肝心のそれを、今思い出した。
「はい! 約束通り、新曲の発売は決定となりました!」
(良かった)
スタッフのその言葉を皮切りに、歓喜の声を上げる皆を見て、僕もまた心の中でそう呟く。
色々とトラウマっぽい黒歴史が増えたような気がするが、それでも新曲の発売が決まったのであれば、それはそれでいい終わり方だと思う。
終わり良ければ総て良し。
まさにその言葉通りだ。
「ですが」
そう思っていた僕だったが、まだ終わってはいなかったようだ。
「ここで最後のミッションです!」
「えぇ!? そんな話全然聞いてないですよ」
「ええ、今決まりましたので」
(完全に開き直ってる)
悪びれもせずに笑顔でいえるあたり、ある意味すごい人なのかもしれない。
「ミッションは『山頂でCDの告知を叫ぶ』です!」
「CDの……」
「……告知?」
出されたミッションは、これまでのミッションと比べても難易度は低そうだった。
「はい、叫ぶのは一人だけ。遠くまで聞こえるように、ありったけの大きな声でお願いしますね」
ふと、自分が叫んでいる姿を想像してみる。
(………うん。もはや黒歴史というよりもただのトラウマだ)
それが大勢の人の前で演奏をしている人物の感じることなのかとも思うかもしれないが、それとこれとはわけが違う。
もうすでにここまででいくつもの黒歴史を生み出しているのにこれ以上は勘弁してほしい。
「それはもちろん決まってるよ。ねー」
みんなの話は当然、誰が叫ぶのかという内容になっていたが、日菜さんのその言葉を皮切りに、全員が丸山さんのほうに視線を向ける。
……僕もだけど
「って、なんでみんなで私を見てるの!?」
『お願い(します)!』
その視線に気づいた丸山さんの言葉に帰ってきたのは、懇願の言葉だった。
「えぇ~~~! 私~~!?」
こうして、丸山さんが大きな声でCDの告知を叫ぶこととなるのであった。
次回で本章は完結です。