BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第8話 振り返って

それから数日後の放課後。

 

「一君、ほら行くよ~」

「そうですよ。ここまで来たんですからっ」

 

この日、僕は日菜さんと大和さんの二人に拉致されていた。

 

「今日は、パスパレのみんなで、この間言った無人島の特番を見る日だから、一緒に見ようって言ったじゃんっ」

 

そう、前日にこの間言った無人島での様子が特番としてテレビで放送されたのだ。

元々丸山さん達からは、放送翌日に放送内容を見て、反省会などを行うので僕も来るようにと伝えられていたのだが、僕はそれには行かないつもりでいた。

 

「だからいいって。特番だったら家で見るからっ」

「そう言って絶対に見ないつもりだよねっ」

 

(だから、地味に鋭いよっ)

 

何が悲しくて黒歴史を生み出したそれを見なければいけないんだ。

だから、絶対に見ないと決めていたのも、日菜さんにはお見通しだったようで、放課後になるや否や日菜さんと大和さんの二人がかりで強制的に事務所まで連れてこられることになったのだ。

 

「皆―! 一君を連れてきたよ~!」

「ヒナさん! マヤさん! カズキさん! お待ちしてました!」

 

日菜さんに引きずられるようにして事務所内の一室に入ると、そこにはすでにスタンバイ状態の丸山さんたちの姿があった。

ご丁寧にお茶菓子まで用意してある徹底ぶりだ。

 

「その様子だと、やっぱり逃げようとしてたみたいだけど、まさかこの状況でも逃げるつもりかしら?」

「……もう諦めました」

 

白鷺さんから含みのある笑みで問いかけられるが、事務所に入った時点ですでに逃げることはあきらめていた。

どう考えても逃げれないと悟ったからだけど。

 

「それじゃ、みんな揃ったから、特番を流すね」

 

録画しておいたのか、番組のデータが入ったディスクをセットすると、再生を開始する。

やがて壁に取り付けられていた大型モニターに、その特番が映し出されるのであった。

 

 

 

 

 

『パスパレの新曲、発売が決まりました~~! やったぁぁぁ! みんな、楽しみにしててねぇぇ~~~!』

『こうして無事にすべてのミッションをクリアしたパスパレのみんなは、新曲を発売できるようになるのであった』

 

丸山さんの山頂での絶叫告知に続いて流れたナレーションで、番組は終わっていた。

 

「すっごく、面白かった~」

「マヤさんの活躍が、ちゃんと放送されてましたね」

 

特番の余韻に浸りながら感想を言い合う皆だが、こちらはそのような気持ちになれなかった。

 

(うん、これは恥ずかしい)

 

僕の醜態が包み隠さずしっかりと放送されているだけに恥ずかしさは倍増だ。

この恥ずかしさが分からない人は、ぜひとも昔自分が出ている学芸会などを記録した映像を見てほしい。

おそらく僕のこの気持ちがわかるはずだ。

 

「あ、そうだ! みんなのことどう書かれているのか、ちょっと調べてみるね」

 

そんな僕の心境など知る由もないエゴサの鬼でもある丸山さんは、この番組の感想を調べ始めた。

 

(それ絶対に傷口をえぐるやつだから!)

 

そんなことなど言えるはずもなく、次々に丸山さんの口から出てくる感想の数々。

 

「ねーねー、一君のことはなんて書いてあるの?」

「えっとね……」

 

どうして、日菜さんは僕の急所をダイレクトに攻撃してくるのだろう。

悪気がない上に、おそらくこの中で勝手に傷ついてるのは僕だけのはずなので、言ってもどうしようもないけど。

 

「あった。えっと『一樹って、何でもできるイメージが強かったから以外だった』と『班分けするときのわがままに思わず笑っちゃった』があるね」

「……僕ってそんな風に見られてたんだ」

 

狙っているつもりはなかったけど、もしかしたらライブなどでの演奏で、そういうイメージが根付いていたのかもしれない。

 

「あたしも面白かったなー。一君が自爆するところとか」

「自業自得だけど、狙っていたわけじゃないからね」

 

大和さんたちが食材集めをしているときの小屋での出来事は、どういうわけかカットされていたことだけが唯一の救いだった。

あそこは絶対に世の中に出回ってほしくない。

 

「あ、それと『日菜ちゃんをお姫様抱っこしてる姿を見て、嫉妬の炎が燃え滾った』っていうのもあったね」

「あー……」

 

あの時は無我夢中で分からなかったけど、放送された番組では僕はしっかりと日菜さんをお姫様抱っこしていた。

 

「あの時の美竹君は本当に躊躇なくやってましたね」

「必死だったんだから仕方ないでしょ。日菜さん、本当にごめんね」

 

あの時は適切な対処だったとは思うけど、それでもやられた本人からすれば、下手をすれば訴えられてもおかしくはない。

 

「ううん。全然気にしてないからへーきだよ! それに、ちょっと嬉しかったし

「え? 何か言った?」

 

なんだか最後のほうに小声で言っていたような気がするので、僕は日菜さんに何と言ったのか聞いてみる。

 

「な、何にも言ってないよ!」

「そ、そう?」

 

それにしては、なんだか顔が赤いような気もするけど

 

「そ、そうだ! 彩ちゃんについてはなんて書いてあるの?!」

 

だが日菜さんが話題を変えたため、僕はそれ以上考えることはなかった。

 

(なんだかんだ言って、無人島に行ってよかったのかな?)

 

パスパレのみんなの一面を知ることもできたし、今後のことも考えれば、まあいいきっかけだったのかもしれない。

願わくば、もう二度と黒歴史を生み出差ないようにしたいばかりだ。

 

 

 

ちなみに、これは余談だが

 

「裏切り者には死を~、裏切り者には死を~」

「………啓介うるさい」

 

僕は、某嫉妬レンジャー隊長からの恨めしそうな目での謎の呪文が、しばらくの間送られ続けることになるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

第1章、完




これにて、本章は完結です。
何気に、小さい頃の自分の映像を見るのは恥ずかしいなと思っていたりします。

というわけで、次章予告を。


日菜と一樹が部活動をしている中、Pastel*Palettesにリリイベの仕事が入る。
彼女たちにとって初めてのリリイベの日を迎えるのだが……

次回、第2章『理解者』

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