「ねえ、一君。リリイベって知ってる?」
「唐突に何?」
放課後、帰り支度を済ませて席を立つ僕に向けて疑問を投げかけてきた日菜さんに、僕は首を傾げながら聞き返した。
「あのね、今週末にねパスパレでそのリリイベってやつがあるんだけど、あたし全然わからなくって」
「リリイベ……確か、握手会とかそういったことをするって聞いたことがあるけど……パスパレって、一般の人たちとの接触は避けるんじゃなかった?」
「スタッフの人があたし達への見方が変わってきたって言ってたよ」
確かに、ここ最近パスパレに対する批判的なコメントはみられなくなっているような気がする。
あるのは感想だったり、指摘やアドバイスの類くらいだろう。
(最初のころはどうなるかひやひやしたな)
パスパレが結成し、そのデビューライブは事務所の意向により、口パクアテフリを行ったがそれが観客にばれ、一時期騒がれていた。
様々な意見が飛び交ってはいたが、それでも今の彼女たちがあるのは、ひとえにPastel*Palettesの全員の地道な努力の賜物だろう。
(願わくば、何事もなければいいんだけど)
これまあ事務所側の意向で、Pastel*Palettesが僕たちの姉妹(兄妹?)バンドにされてしまっている関係上、彼女たちの失敗や成功が僕たちのほうにまで影響を及ぼすことは十分あり得るのだ。
最初はどうしてだと思ってはいたが、最近ではその考え方は変わりつつある。
(変ったのか……それとも変えられたのか)
「まあ、当日を楽しみにしてなよ。意外と面白いかもしれないよ」
「うーん……一君がそういうんだったら楽しみにしておこうっと」
とはいえ、心配なのかと言われれば心配だ。
(今週末か……ちょっと、行ってみるか)
僕は日菜さんのことが心配になり、リリイベに行くためにパスパレのリリイベについて調べ始めるのであった。
『みなさーん! 今日はPastel*Palettesのリリースイベントに来てくれてありがとうございまーす!』
週末の某所にて、丸山さんの元気な声が響き渡る。
今日は、彼女たちのリリイベの日なのだ。
『本日は、新曲についてのお話などをいろいろ話していきたいと思います。よろしくお願いします』
まずは、彼女たちの紹介から始まった。
『氷川さんは、もともとプロを目指していたわけではないんですね』
『うん、そうだよー。あたしはおねーちゃんがギターをやっていたからギターを始めて、何となく面白そうだからパスパレのオーディションに応募したの! そしたら受かったんだ』
(何度聞いても、すごいよな)
普通”面白そうだから”という理由でオーディションを受けようとは思わないのだが、そこもまた彼女らしいと言える。
『ヒナさんは何でもすぐにできちゃうすごい人なんですよ!』
『えへへ、まーね。だから最初は彩ちゃんが練習しても,全然できないのかがわからなかったんだ。まあ、今もなんだけどね』
若宮さんの言葉を受けての日菜さんの言葉に、会場中にどよめきが走る。
『おぉっと!? これは早速の爆弾発言……!?』
「日菜ちゃんって、思ってた以上にやばいね。というか、事務所的に今の発言って良いわけ?」
ふと近くから、観客の言葉が聞こえるが、日菜さんは悪気があって言ってるわけでもなければ、そういうことを気にもしていない。
そして、そんな彼女の言葉に、名指しされた丸山さんも怒った様子もなく、いつも通りの和やかなムードのままだった。
とはいえ、見ていてひやひやするのは間違いないけど。
そう、引き締めていた気持ちを緩めた時だった。
『あ、ねーねー! いま目があったそこの人! なんで? 今日は何で来たの?!』
「え!? えーっと……」
いきなり日菜さんがこちらに向かって疑問を投げかけてきたのだ。
『ひ、日菜ちゃん! それはこの後のお渡し会で聞くことだからっ』
日菜さんに声をかけられた人は、困惑した様子で口をパクパクさせていると、丸山さんに制止されて、なんとか落ち着いた。
(こわ……日菜さんこわ)
僕はと言えばあまり生きた心地はしなかった。
(どうして、ピンポイントで僕の隣の人に声をかけるかな……)
その理由は、僕のいる観客席の横の人だったからだ。
日菜さんのことが心配になった僕は、リリイベに一般の客として参加していたのだ。
……主に、日菜さんが暴走しないかどうかという意味でだけど。
そんな僕の服装は、いつもであれば絶対に着ないであろう派手なジャケットに黒のサングラス、そして野球帽をかぶるという変装をしている。
普通に行って、日菜さんに見つかれば最後、思いっきり名前を呼ばれて周囲から注目されかねないと思ってのことだったが、それが幸いしたようだ。
尤も、この変装をしているときに見抜かれればダメージはさらに倍増になるリスクはあるけど。
(それにしても、隣の人髪すごいな)
先ほど日菜さんに声をかけられた不運(ある意味幸運なのかも)な観客を見た僕は、思わず心の中で感嘆の声を上げる。
パステルカラーのツインテールというその姿は、遠くから見ても目立つこと間違いない。
そんなこんなで、トークショーは無事に終わり、いよいよお渡し会が始まるのであった。
この章では、イベントストーリーをもとに話が進んでいます。
ちょいちょいとオリジナルが入ると思いますので、楽しんでいただければ幸いです。
次回はおそらく日曜になると思います。