BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第11話 お渡し会と告白と

『それでは、これよりお渡し会第一部を始めさせていただきます。メンバーのブース前に整列をしてお待ちください』

 

少しばかりの休憩をはさんで、ついにお渡し会が始まった。

 

(さてと、どうするかな……)

 

日菜さんにねぎらいの言葉をかけようと思ってお渡し会に参加することにしたのだが、少しばかり悩んでいた。

 

(日菜さんだけに声をかけて帰るっていうのもな……)

 

さすがに、色々と角が立ちかねない。

そう思った僕は、結局全員のところに言って労いの言葉をかけることにしたのだが、いざ始まるとなると順番のほうで今度は悩むことになった。

 

(ここは適当に、ボーカルである丸山さんからにするか)

 

そんな軽いノリで、僕は丸山さんのブース前に並ぶことにした。

ちなみに、既に変装は解いており

ジャケットは派手ではないのに着替えておいた。

 

「次の方、どうぞ」

 

それから数分ほどして、ようやく僕の番になった。

 

「あれ、美竹君!? どうしてここに?」

「ちょっと日菜さんが暴走するんじゃないかと思って様子を見に来たんだけど……まあ、大丈夫そうで安心したよ」

 

僕の姿を見て驚く丸山さんに、僕は簡潔にここに来た理由を説明した。

 

「うん。日菜ちゃんとっても楽しそうだったよ。ちょっと、ひやひやしたけど……」

「あ、あはは……」

 

苦笑いを浮かべながらの丸山さんの言葉に、僕もまた苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「それじゃ、リリイベ頑張って」

「うん。応援ありがとね」

 

あまり長い時間をかけるのも他の人に迷惑だと思った僕は、早々に応援の言葉を言って満面の笑みを浮かべる丸山さんの視線を受けながら、彼女のブースを離れるのであった。

 

 

 

 

 

その後、若宮さんや大和さんに声をかけつつ、ついに日菜さんの番になった。

 

(うわ……声がここまで聞こえるよ)

 

かなりテンションが高いのか、日菜さんの声は少し離れている場所にまで聞こえてきていた。

……まあ、何を言っているのかまでは分からないけど。

 

(僕の時、大丈夫かな?)

 

日菜さんのことだから、友人が訪れてテンションが上がらないわけがない。

彼女が暴走しないことを祈りつつ僕は、自分の番を待っていた。

 

「次の方、どうぞ」

 

それからしばらくして、ついに僕の番となり彼女の前に歩み寄る。

 

「あ、一君っ。どうしてきたの?」

「日菜さんが色々と心配だったからね」

 

あえて”色々”の部分を強調したのは深い意味はない。

 

「それで、リリイベの感想はどう?」

「うん、あたしじゃない人たちと話をするのってとっても楽しいよっ! でも、なんだかもやってするんだよね」

 

そう言って顎に手を当てて考え込む仕草をする日菜さんだが、なんとなくそのモヤモヤの原因がわかるような気がした。

 

「そうか。そのモヤモヤがどうしてかわかるといいね」

「うん」

 

きっと日菜さんなら、僕が言わなくても自分で気づくことができる。

根拠はないけど、そんな風に確信していた僕はあえてそれを言うことはしなかった。

 

「それじゃ僕は帰るよ。様子を見に来ただけだしね」

「あ、うん。来てくれてありがとねー」

 

これ以上長話をすれば、来てくれた他の人に迷惑をかけることになる。

それに話そうと思えば嫌と言うほど話ができるのだから、あまり時間を割くべきではないという理由で、僕は早々に話を切り上げるとその場を後にするのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

お渡し会の前半(?)が終わって休憩時間になったあたしたちは控室でみんなと話をしていた。

話の内容は、お渡し会の感想で、みんなが感想を言い合っている。

 

「日菜ちゃんはどうかしら?」

「あのね――――」

 

千聖ちゃんから話を振られたあたしは、一君に言ったのと同じような内容の感想を話していた。

いつも通りのあたしたちの会話。

 

「でも、美竹君が来ていたのはびっくりしました」

 

麻弥ちゃんのその言葉が出るまでは

 

「美竹くん、お渡し会の時に私のところに来て頑張れって言ってくれたんだ」

「美竹君って、淡々としているようで優しいところがありますよね」

「はいっ。カズキさんはブシの中にブシです」

 

みんなの口から出てくる一君の話。

いつもだったら、あたしも一緒に混ざって話をするのにこの時だけはどうしてかそれができなかった。

 

(なんだろう……この変な感じ)

 

理由を考えようとすればするほど、あたしの中のもやもやはどんどん大きくなって行くような気がした。

 

「日菜ちゃん?」

「え? な、何?」

 

そんな不思議な感覚に戸惑っていると、いきなり彩ちゃんに名前を呼ばれたあたしは、慌てて彩ちゃんのほうに顔を向ける。

 

「大丈夫? なんだか、思いつめたような感じだったけど」

「疲れてるのでしたら、少し休まれたほうが」

「あー……大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけだから」

 

あたしはみんなに心配をかけまいと明るい口調で答えた。

そんなあたしの様子に、皆はそれ以上何も言うことはなく、あたしたちはまた話を始める。

気づけば、先ほどのもやもやは全く気にならなくなっていた。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「さてと、いつものように羽沢珈琲店にでも行きますか」

 

駅前に戻ってきていた僕は、休日のルーティンでもある羽沢珈琲店に向かおうと足を進める。

時間的に少し遅いが、まだのんびりと過ごせるだろう。

 

「な? 一緒に遊びに行こうぜ」

「……ナンパか」

 

そんな時、ふと聞えてきた声のほうを見ると、そこには二人組の金髪の男たちの姿があった。

どうやら女性をナンパしているようだ。

僕は別に英雄でも何でもないので、トラブルに首を突っ込むような真似はあまりしたくない。

なので、僕はそれを無視して目的の場所に向かおうとした。

 

「あ、あの……」

「ん?」

 

よく聞いた人物の声が聞こえるまでは。

僕は足を止めると、もう一度ナンパ野郎どものほうを注意深く見る。

 

(って、花音さん!?)

 

最初はぱっと見だったため、二人の男性に隠れていたので気づかなかったが、よく見ればそこにいたのは花音さんだった。

いくら首を突っ込まないとはいえ、知り合いが巻き込まれているのであれば話は別だ。

 

「花音さん!」

「ふぇ?」

「あ?」

 

そこで僕は、やや大きな声で彼女の名前を呼びながら彼女のもとに駆け付けた。

 

「遅れてごめん。どうやら待たせちゃったみたいだね」

「え? えーっと……」

 

いきなりの展開についていけないのか、あたふたと周囲に視線を巡らせる花音さんをしり目に僕は、彼女に話しかけていた男たちのほうを見る。

 

「すみません、彼女に何か用ですか?」

「用ですか? じゃねーよ! この子は俺たちと遊びに行くんだよ。外野は引っ込んでな」

 

(うわー、これは面倒になりそうだな)

 

なんとなくこの後の展開が読めてしまった。

相手が逆上して暴力に打って出るというベタな展開を。

 

「いえいえ。自分はこの子の彼氏なので。申し訳ないのですが、なにとぞお引き取りを」

「ふ、ふぇぇぇ!?」

 

しょうがないので、花音さんの恋人という設定を新たに設けたところ、後ろから困惑の混じった声が聞こえてきた。

 

(花音さんにはあとで謝ろう)

 

「はぁ? ふざけ――――ん?」

 

ついに、相手が暴力をふるうかと思った時、男の動きが止まった。

 

「なあ、お前ってもしかして一樹か?」

「一樹って、あのムングロの!?」

 

一人の男性が、僕の正体に気づいたのかもう一人の男性と話し始める。

 

「俺たち、ファンなんだよ! サインサインを!」

「あ、俺にもサインしてくれよ!」

「い、いいですよ」

 

二人の気迫に押されながらも、僕は男に渡されたペンでサインを書いていく。

一人はハンカチに、もう一人は手のひらに。

それに満足したのか、二人のナンパたちは気分良くその場を後にしていった。

 

「彼女と楽しめよ!」

 

そんな言葉を残して。

 

(なんか誤解したままだけど……ま、いっか)

 

もうこれ以上関わり合いになりたくないし、何を言ってもそんなに僕には影響もないので、放っておくことにした。

 

「大丈夫? 花音さん」

「う、うん。大丈夫」

 

ひと段落着いたところで、花音さんのほうを見ると、どこか頬を赤くしながら、花音さんは答えてくれた。

 

「勝手に彼女にしてごめんね。あの二人を追い払うのにうってつけだと思ったんだ」

「う、ううん。気にしなくても平気だよ。それに―――から」

 

そういってぎこちなくはあるけど笑みを浮かべた花音さんの反応から、怒ってはいなさそうだと思い、僕はほっと胸をなでおろす。

なんだか最後のほうが聞き取れなかったけど。

 

「それで、どうしてここに?」

「う、うん。喫茶店に行こうかなって歩いていたら……」

「道に迷って、ここに来たんだね」

 

彼女の言葉を継いで言うと、恥ずかしいのか花音さんは顔を真っ赤にして俯きながら頷いた。

どうやら、いつもの迷子になってしまったようだ。

 

「僕、これから羽沢珈琲店に行くんだけど、もしよければ一緒に行く?」

「うん。一樹君、ありがとね」

 

花音さんにお礼を言われながら、僕たちは羽沢珈琲店に向かうのであった。

 

 

 

 

 

周囲が薄暗くなる時間帯、僕たちは羽沢珈琲店を後にして彼女を自宅に送っていくことにした。

そうでもしないとまた迷子になりそうだから。

 

「今日は本当にありがとね」

「お礼なんていいよ」

 

花音さんとは中井さんたちの次に付き合いが長い、ある意味幼馴染と言っても過言ではない存在だと思っている。

その人のためならば、できる限り力になりたいというのが僕の本心だ。

 

「一樹君はね、わあたしが何か困ったときに、いつもいつも助けてくれててるんだよ?」

「そうかな?」

 

自分ではあまり自覚がないんだけど、と肩をすくめて答える。

 

「うん。だからね、私……っ」

「え?」

 

その時、僕は一瞬時間が止まったような……そんな感覚に陥った。

僕の唇に触れた柔らかい感触によって。

 

「花音……さん?」

 

そのことの意味が理解できるよりも早く、花音さんに告げられたその言葉の意味が、告白であると理解するのに、さらなる時間を要した。

 

「私、一樹君のことが好きですっ……付き合ってくださいっ」

 

そして、混乱の極みにいる状態で、花音さんは顔を赤くして僕にそう告げるのであった。

 

 

第2章、完。




”これ誰ルート?”と思われるかもしれませんが、間違いなく日菜ルートですのでご安心ください。

ようやく次章から恋愛要素が出てきます。
ということで次章予告を。

――

花音からの告白。
それは一樹に大きな動揺を与え、日菜との関係にも変化が出始める。
そんな二人に、魔の手が迫ろうとしていた。

次回、第3章『Change』

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