BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

252 / 302
第14話 濡れ衣

「おはよう」

 

次の日、教室に入るとそれまでの喧騒がうそのように無くなる。

 

「ねえ、あの噂ってまじ?」

「マジらしいよ。やばくね?」

 

それどころか、こちらに視線を向けては何やらぼそぼそと言っている者もいる。

 

「待ちたまえ」

 

特に興味もないので、無視して自分の席に向かおうとすると、それを遮ってくるものがいた。

 

(こいつって)

 

そのベリーショートの髪型の男子学生には見覚えがあった。

名前は阿久津(あくつ) (ただし)

言動などで、評判はあまりよくない。

 

「貴様、俺様の日菜によくもけがを負わせてくれたな」

「………」

 

なんだかいろいろとツッコミどころ満載のことを言っているが正直、相手にするのも面倒なので、無視をすることにした。

 

「男の癖に逃げるかよ! はっ! さすが女子を階段から突き落とすという姑息なことをする奴だなっ」

『2年A組の美竹 一樹君。至急職員室まで来てください。繰り返します――――』

 

阿久津の煽るような言葉を待っていたかのように、僕を呼び出す放送が流れ出す。

 

「ぶはははっ。これでお前は終わりだっ!」

 

そんな阿久津の下品な笑い声を受けながら、僕は荷物だけ席において職員室に行くのであった。

途中、リサさんと目が合った僕は、軽く頷いておいた。

 

 

 

 

 

「――――ということで、彼の行ったことは非常に悪質であると思います」

 

職員室に呼び出された僕は、全教師の前に立たされて尋問を受けていた。

僕の横で熱弁をふるっているのは、先日僕のことを犯人扱いしてきた教師だ。

今行われているのは、生徒指導会議という名の裁判のようなものだ。

簡単に言ってしまえば、度を越した騒動を起こした生徒の処分を決めるための会議ということだ。

もちろん、被疑者(あえてこの言い方にしてる)にも弁明の機会が与えられている。

 

「美竹君、何か言いたいことはあるかね?」

 

教頭が、僕に意見を求めてくる。

 

「はい。今回の一件は、私は完全に無実です。彼女が突き落とされたときクラスメイトや後輩と一緒に屋上で話をしていました。話を聞いていただければすぐにわかると思います。何でしたら、その学生の名前を今言いますけど」

 

僕はそれにはっきりと応えると、自分の身の潔白を説明する。

 

「教頭! 彼は、その学生にうその証言をするように脅迫していますっ! 大体、今回の一件の動機も十分ある。君たちが痴話げんかをしている証言は十分あるんだ。そのもつれでやったんだ」

「それはすべてデタラメです」

 

とはいえ、職員室にいる教師たちの反応は半々で、完全に僕が犯人であると決めつけている者もいれば、ちゃんと調べるべきだと考えている人もいる。

尤も、後者側の教師たちは前者側の教師たちの顔色を窺っているので、あまり強くは主張できずにいるようだけど。

つまり、どう抗っても僕にとって分が悪い。

そして、教師たちから提案されたのは主に二つの処分だった。

一つは無期の停学処分。

そしてもう一つが、警察に通報をしての退学処分だった。

処分の検討が行われているとき、一人の教師が声を上げた。

 

「一つだけ言わせてください。彼は確かに、罪を犯しました。ですが、まだ若い。彼にやり直すチャンスを与えてやってはくれませんか?」

 

セリフだけ見れば、とてもいいことを言っているが、これを言ってるのは先ほどまで僕を犯人扱いしてきた顧問の先生なのだ。

しかも、言い方がどこかわざとらしく、気持ち悪ささえも感じてしまう。

 

「さすが、―――先生だ。懐が深い」

 

職員室内からもぼそぼそとこの教師を称賛する声が聞こえてくる。

 

(この教師、完全に自分に酔ってるな)

 

おそらくは、良い教師という自分に酔っているのだろう、教師たちの声に口元が緩んでいた。

それは、気持ち悪いことこの上なかった。

そして、この日出された処分は

 

「美竹一樹君を、退学処分とします。なお、今後のことを踏まえて警察へは通報は致しません」

 

――――――警察へは通報しないうえでの、退学処分だった。

 

 

 

 

 

あの後、問答無用と言わんばかりに学園から追い出された僕は、自宅にまっすぐ帰ってきた。

 

「おかえり一樹。ちょっと来なさい」

「はい」

 

家の中に入ると、まるで待っていたと言わんばかりに、義父さんはそういうとリビングのほうに向かっていく。

僕は荷物を玄関に置いて義父さんの後に続いてリビングに入る。

 

「座りなさい」

「はい」

 

リビングに入った僕に、義父さんはソファーに座るよう促してきたので、僕は静かに腰かける。

それに続いて、義父さんもソファーに腰かけた。

 

「先ほど、学園から連絡があったんだが……本当なのか?」

「退学になったのは本当。でも、それ以外については違う。僕は潔白だよ」

 

義父さんの心の中まで見ているのではないかと思えるような鋭い視線を受けながらも、僕は潔白を主張する。

 

「………とりあえず、部屋に行ってなさい。明日以降は華道のほうに専念してもらう」

「わかった……迷惑かけてごめん」

 

僕の言葉に、義父さんは何も言わなかった。

でも、なんとなくだがわかるのだ。

義父さんは僕のことを信じてくれているということが。

そのことを嬉しく思いながら、僕は自室に向かうのであった。

 

 

 

 

 

(完全にしてやられたな)

 

自室に戻った僕は、自分の迂闊さを悔やんでいた。

今回の一件は、前に屋上で反日菜グループの連中が言っていたのと同じ内容だ。

それを知っていて回避することができなかったのは、非常に痛い。

しかもタイミングも最悪だった。

理由は分からないが、僕と日菜さんの間でぎくしゃくしていた。

それが犯行の動機にされてしまったのだ。

 

(あいつらの誰かがやったのは間違いない)

 

あの時笑っていた女子学生は反日菜グループの主要メンバーだ。

可能性は非常に高い。

 

(とはいえ、証拠もない以上、僕の潔白を証明するには……)

 

そして、僕は今後の方針が決まった。

 

「となれば、行動あるのみ……かな」

 

そして、僕は自らの汚名を返上すべく、行動を始めることを心の中で誓うのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。