「よし、こんなものかな」
あれから数日ほどが経ち、練りに練り続けた計画のほうは、何とか形にすることができた。
「我ながら、なんとも恐ろしい計画を立てたものだ」
その計画は、反日菜グループの主要メンバーと、あの顧問の先生を地獄に送るものだった。
後の問題は、タイミングと日菜さんだ。
『ヒナ、あの日から元気がなくて……なんだか無理をしているような感じなんだよ』
リサさんから伝えられた日菜さんの様子に、僕はどこか不安を感じていた。
「あ、電話だ」
時刻から、ちょうど昼休みだと思われるタイミングで、携帯に電話がかかる。
「リサさんだ」
その相手は、まさかのリサさんだった。
「もしもし」
『あ、もしもし一樹君? いきなりごめんね』
「それはいいけど、何かあった?」
時期が時期なだけに、僕は嫌な予感を隠せないでいた。
『うん、そのことを含めて放課後に話をしたいんだけど、いつものファミレスでいいかな?』
「ファミレスね。分かった。……うん、それじゃ」
リサさんの口調からして、あまりいい話ではないのは察することができた僕は、リサさんから場所と時間を教えてもらい電話を切る。
「………とりあえず、勉強だけでもするか」
手につくかどうかは分からないが、僕は参考書を開くと勉強を始めるのであった。
指定された時間にファミレスに向かうと、すでに来ていたリサさんの姿を見つけた僕は、足早に彼女のいる席に歩み寄る。
「呼び出しちゃってごめんね」
「いや、構わないよ。それにこっちこそなんだか伝書鳩みたいなことをお願いしてごめんね」
彼女の対面の席に腰かけながらリサさんに言う。
僕が退学処分になった日に、リサさんからどういうことかを聞くためにかかってきた電話で、日菜さんの様子を伝えてくれるように頼んでいたのだ。
なんだか嫌な胸騒ぎがしたためのお願いだったが、おかげで日菜さんの様子が僕にもある程度は把握できるようになっていた。
「それなんだけどね、実はヒナいじめられてるみたいなんだよ」
「………」
つらそうな表情で言われたリサさんのその言葉に、僕はどこか冷静な気持ちで聞いていた。
もしかしたら、心の中で想像がついていたからかもしれない。
「この前、ヒナの下駄箱の中にごみとかが詰め込まれている騒ぎがあったんだけど……」
リサさんはそこで一度言葉を区切る。
「部活の後輩の話だと、橙色の髪の女子が、ヒナの下駄箱の前で何かをしているのを見たって」
(あいつか……)
やはり、ここでも反日菜グループの主要メンバーの影がちらつく。
「ヒナ、アタシには『大丈夫』しか言わなくて……でも、だんだん元気がなくなっていって……」
「………」
リサさんの悲しげな表情で紡がれた言葉に、僕は何も言えなかった。
何かを言わなければいけない。
それは分かっている。
でも、それが口にできない。
「……今、日菜さんはどこにいる?」
唯一口にできたのはそんな言葉だった。
「今日は、パスパレの仕事で事務所に集まるって言ってたよ」
「……ごめん。お釣りは取っておいて」
僕はお金を多め机の上に置くと、リサさんの返事を待たずにファミレスを飛び出した。
いてもたってもいられなかった。
彼女がいじめられているという話を聞いて、僕は日菜さんのことが心配になったのだ。
(まだ、間に合うかもしれないっ)
彼女のことだ。
今から急げば事務所前で会うことができる。
それができなくても、事務所内でだってかまわない。
日菜さんと話をすれば、この状況を打破できる。
少なくとも、日菜さんの苦しみを和らげることはできるはず。
僕はそう信じて、ひたすらに走った。
そして……
(いたっ)
事務所まであと少しというところで日菜さんの姿を見つけることができた。
その足取りはどこかふらついていて、危うさを感じさせる。
「日菜さんっ」
「ッ!?」
僕の日菜さんを呼ぶ声が聞えたのか、日菜さんはびくっと足を止めた。
「一……君?」
日菜さんの表情を見た僕は、息をのんだ。
彼女が浮かべているのは、いつも通りの表情。
でも、それはどこかぎこちなく、力なく感じられたのだ。
「日菜さん、いじめられてるんだよね?」
「………」
僕の言葉に、日菜さんは何の反応も示さない。
それでも僕は言葉を続ける。
「日菜さん、不安なことがあるなら僕が聴くから……だから、話してほしい」
「……て」
それが、初めての反応だった。
「もうやめてっ!」
そしてそれは、明確な拒絶だった。
予想外の反応に、僕は驚きを隠せなかった。
「もう、これ以上あたしに関わらないで」
「日菜……さん」
僕はそれ以上何も言えなかった。
なぜなら、彼女の目から零れ落ちるそれを目にしてしまったから。
「これ以上、一君が傷つくの……見たくない」
それは、彼女の心からの叫びだった。
「一君が傷つくんだったら……あたしが」
そこから先はうまく聞き取れなかった。
いや。
もしかしたら、頭がそれを理解することを拒絶しただけかもしれない。
気が付けば、日菜さんは僕の前から逃げるように走り去り、事務所の中に入って行ってしまった。
それを僕はただ見ていることしかできなかった。
少々短いですが、今回はここまでになります。
後二話ほどで本章は完結となります。