「ん………」
窓思わしき場所から差し込む陽の光と、小鳥のさえずりに僕は自然と目が覚めた。
(癖って恐ろしいものだな)
枕元に置いていた時計で、今の時間を確認すると、いつも学園に行く日に起きる時間だったのを見て、僕は心の中でつぶやく\。
「すぅ……すぅ……」
そして、ふと視線を横に移すと、静かに寝息を立てている日菜さんの姿があった。
(こうして見てみると、やっぱり日菜さんってかわいいんだな)
本人が聞いたら、どんな反応をするのかわからないようなことを心の中でつぶやく僕も、日菜さんに負けず劣らず大物なのかもしれない。
「んぅ……あ、一君だぁ」
「おはよう、日菜さん」
目が覚めたのか、まだ寝ぼけた様子で僕の体にしがみつく日菜さんに、僕は朝の挨拶をする。
「うん。おはよー」
寝起きだからか、やや間の抜けた返事が返ってきたが、日菜さんは完全に起きたようで僕にしがみつくのをやめると
「ん……」
唇を重ねてきた。
「えへへ……おはようのキス、しちゃった♪」
「日菜さん――「むぅ……」―――な、何?」
ふにゃっとした表情を浮かべる日菜さんに声をかけると、一転していきなりむっとした表情で唸られた。
「どうして、あたしのことを”日菜さん”って呼ぶの?」
「え?」
「あたしたち……恋人なんだから、”日菜”って呼んでくれなきゃ、嫌」
どうやら、呼び方のほうで不満があったようで、頬を膨らませながら言う日菜さんがかわいく見えるのは、きっと彼女のことを好きになってしまったからなのかもしれない。
「そ、それじゃ……日菜って呼ぶね」
「うん♪」
それでも彼女の笑みが一番かわいいと思う僕は、きっと周りから見れば馬鹿に見えるのかもしれないなと思う、一時だった。
「今日はありがとうございました」
「また泊りに来てね」
その後、朝食を頂いた僕は、おばさんたちにお世話になったお礼を言いつつ、氷川家を後にした。
日菜は離れ離れになるのを嫌そうだったけど、学校があるので一緒にいるわけにもいかないため、あきらめたようだった。
(さて、それじゃ、こちらも動きますか)
自宅へ向かいながら、僕は早速行動を開始するのであった。
家に着くと、義父さんたちから小言(主に、直前になって外泊を決めたことに対するものだけど)を受け、妹の蘭を見送りつつ僕は自室に戻った。
ちなみに蘭は顔を赤くして恥ずかしがっていたというのを付け加えさせてもらいたい。
(さて……最初はどこから手を付けるか)
そして、自室に戻った僕は、反撃への行動を始めるべく、計画を練り直した。
今回の一件は単純に言ってしまえば二つの事案だ。
一つは、日菜を階段から突き落とした連中の処置。
そして、もう一つがこの一件の罪を僕にかぶせた人物の処置だ。
前者は”反日菜グループの主要メンバー”ぐらいしか絞り込めない。
決定的な証拠もないので、ピンポイントでどうにかすることは非常に難しい。
もしかしたら、しっかりと腰を据えて調べれば手掛かりの一つぐらいは見つかるのかもしれないが、現時点でそこに避ける時間はあまりない。
下手に調べれば連中の耳にも入って動き出される可能性だってある。
ゆえに、主要メンバーどもをつぶしていく方向でかじを切ることにした。
後者については、既にターゲットは絞り込めている。
僕に罪を着せた人物……それは、最初に駆け付け、僕を犯罪者と罵ったあの教師……
(グループを叩いても、教師のほうを叩かないとまずいか)
先に反日菜グループをつぶしてしまうと、報復を受ける可能性がある。
可能性をつぶすにも、グループ全員を一斉に潰していく必要があるのだが、さすがにいきなりはやりすぎだと思うところもある。
なので、一番合理的なのは僕という名の抑止力を以て、報復を防ぐというものだ。
いわば、僕の存在が反日菜グループにとって最大の牽制となるようにするのだ。
これに関しては、簡単にできそうだ。
(とすると、まずは辻先生から潰すか)
必然的に、辻先生から手を付けることにした。
僕は電話を手にするとマツさんに電話をかける。
『兄貴、どうしたんすか?』
「すみません、この間お願いした教師の件ですが、手筈通りにお願いします」
僕の簡単なお願いに、マツさんは”了解しやしたっ”と頼もしい言葉と共に電話を切った。
実は、すでにどういう風に攻めるかはマツさんと話し合いを済ませているのだ。
なので、本当に電話一本ですぐに実行に移せるようになっている。
(後は、待つだけかな)
これ以上僕のすることは何もない。
すべてはマツさん達の手で状況が変わっていくので、そんなに疲れることはない。
(出来れば、夏休み前には片を付けたいな)
夏休みまであと5日。
鬱陶しいことは早々に終わらせ、この夏休みを迎えたい。
(それに日菜と結ばれて初めての夏休みなんだから、いっぱい思い出を作りたいな)
惚気てるのかと言われれば、その通りだ。
よく、恋人ができると世界が変わるというがその通りかもしれない。
「そうだ。デートプランとか練っておこうかな」
華道の時間までまだ少しだけあった僕は、この夏の日菜とのデートプランを練るべくネットサーフィンを始めることにした。
(せっかくだから、るるるるんっ♪ってするようなデートにしたいな)
自分で言っておいてなんだが、僕にはるんっ♪はあまり似合わないような気がする。
そんなこんなで、今日一日を過ごしていくのであった。
電話一本で計画実行というのは何気に恐ろしいなと思ったりする今日この頃です。