マツさんに電話でお願いをした次の日。
事態は一気に動き出した。
「一樹、学園から電話よ」
「今行く」
朝、蘭が学園に行ってしばらくした頃、学園から電話がかかってきたことを義母さんが部屋にいる僕に知らせに来たのだ。
今や僕には関係のないはずの学園からの連絡。
その内容に思い当たる点があった僕は、返事をすると足早に電話があるリビングのほうに向かう。
リビングに行くと、僕は保留中であろう電話の受話器を耳に当てて保留を解除した。
「はい、お電話変りました」
『美竹君、申し訳ないのですが、お聞きしたいことがございますので、今からこちらに来れますか?』
「ええ、大丈夫です。ではすぐに向かいます」
予想通り、学園側からの呼び出しだったので、僕は二つ返事で応じると電話を切った。
「ごめん、ちょっと学園に行ってくる」
「……気を付けてね」
義母さんは、それ以上何も言うことはなく制服に着替えに自室に向かう僕を見送ってくれた。
「どうぞ」
「失礼します」
学園につくと、まるで待っていましたと言わんばかりにいたのは、担任の先生と風紀指導部の先生だった。
風紀指導部の先生は、過去にテストのカンニング疑惑の際に、一方的に犯人扱いしてきた人物だ。
そして、今回の一件も僕が犯人だと決めつけた側の教師だ。
ちなみに、担任の先生は慎重派のほうだったりする。
そんな二人に、連れてこられた場所は応接室のようで、落ち着いた雰囲気の部屋だった。
そこにいたのは、前に入学式で話をしていた学園長だった。
今回の一件のことを考えれば、学園長が同席するのは当然なので、それほど驚かなかった。
むしろ思い通りに事が進んでいることのほうに驚いていたぐらいだ。
学園長から、腰かけるように言われた僕は学園長たち三人の向かい側の席に腰かける。
「さて、話しというのはこの間の美竹君が女子学生を階段から突き落としたという一件ですが、簡潔に言いますと調査の結果、君が犯人ではないということが判明しました」
「失礼ですが、調査とはどのような?」
「目撃した学生達に聞き取り調査を行いまして、美竹君がその時刻屋上にいたという証言を得ることができました」
僕の疑問に答える学園長に、僕はなんとなくその学生が誰なのかが分かったが、三人にはお礼を言っておこうと思い頭の片隅に追いやる。
「それで……退学になった僕にそのお話をされる理由は?」
「今回の一件が冤罪であると判明したので、先日の美竹君への処分を撤回とすることになりました」
そう言いながら学園長が風紀指導部の教師に目配せすると、僕に一枚の用紙を手渡してきた。
そこには、今回の一件の経緯や僕の処分を取り消す旨が書かれていた。
「あの、僕のことを犯人だと主張されていた辻先生は、ここには来られないんですか? 辻先生もこの場にいたほうが、いいような気もするんですけど」
「それは………」
僕が辻先生の名前を出した途端、学園長たちはお互いに目を合わせながら言葉を詰まらせる。
(なるほど)
それだけで、僕は何が起こっているのかの見当がついた。
「無理そうでしたら大丈夫です」
とりあえず、これ以上ツッコむのもあれなので、引き下がることにした。
「復学の件ですが、一つだけお願いしたいことがあるのですが?」
「……言ってみなさい」
「今回の一件について、私の名誉の回復を行っていただきたいんです。具体的には全校集会で今回の一件を説明していただきたい」
復学するにしても、普通に戻ったのでは、色々と問題が生ずる可能性がある。
なので全校集会で、僕が無実であったことを先生たちに言ってもらえれば、それで僕の失われた名誉を回復させることができるのだ。
「おい、美竹。あまり調子に乗るな。もとはと言えば、お前が――――」
「私が何ですか? 私の日ごろの素行に問題でもありましたか? 風紀指導をされたことはありましたか? それらを考えたうえで言えるのでしたら、どうぞその続きをおっしゃってください」
「………っく」
風紀指導部の先生の言葉を遮って言い切ると、こちらを睨みつけながら口を閉ざした。
反論など、できるはずがない。
僕の想像通りだとすると、今羽丘ではすさまじいことが起こっているはずだ。
教師は神様ではない。
横暴が過ぎればどうなるかを知るいい機会だと思うし、そうなっても自業自得なので特に何とも思わなかった。
「もし、この条件を呑んでいただけないのでしたら、このことを教育委員会に―――」
「分かりました。責任もって全校集会で説明いたします」
僕が言いきるよりも前に学園長先生は僕の提示した条件を呑んでくれた。
よほど”教育委員会”が恐ろしいらしい。
おかげで、何が起こったのかの確信を得ることができたけど。
(やっぱり、飛んだか)
どんなふうになったのか、その仔細は分からないが、先生たちの様子を見れば盛大に吹っ飛んだというのは見て取れる。
「ありがとうございます。復学はいつからですか?」
それはともかくとして、僕は必要なことなので先生に尋ねる。
「明日からです。いつも通り登校してください。成績のほうは今回の一件を考慮して適切に処置しますね」
(成績か……あまり期待はできないけど……ま、いいか)
進学する際に、仮に内申点を下げられていたとしても、テストのほうで挽回するだけなのでさほど気にもしなかった。
そんなわけで、僕の退学処分は取り消され、明日から晴れて羽丘の生徒としての生活に戻ることになるのであった。
まずは退学処分が取り消されました。
ついz先生の末路については、次回あたりで触れて行こうと思います。