BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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今回より、新しい章に入ります。



2章『黄金週間のとある日』
第26話 黄金の休日


ゴールデンウイークというのを知っているか?

そんなことを聞けばたちまち”馬鹿にするな”と怒られること間違いがない質問だ。

簡単に言ってしまえば4月末から5月にかけての休みが多い期間のことを言う。

テレビを見れば○○連休という単語をよく耳にする。

だが、僕にはそんなものは関係なかった。

いや、休みらしい休みがなかったというのが正しい。

今ここに記すのはその大型連休の出来事である。

 

 

Bang Dream!~隣の天才~   第2章『黄金週間のとある日』

 

 

「起立、礼」

 

日直の号令とともに、挨拶をする。

そして教室中を包み込む喧騒は、明日から訪れる連休に思いをはせているのだろう。

 

(かといって、こっちはそんなに関係ないんだけど)

 

この連休は意外にも用事があるのだ。

 

(明日は蘭に付き合って……明後日は華道の集まりで……)

 

思い当たるのだけでも、予定が目白押しだ。

おまけに連休とあってか各教科から課題も出されている。

これは遊ぶどころの騒ぎではない。

 

「あ、一君!」

「何、日菜さん」

 

そんな僕にいつものように元気な様子で日菜さんが話しかける。

 

「RAINってやってる?」

「それなら一応やってるけど」

 

『RAIN』とはチャットでやり取りができるアプリで、登録さえすれば複数人とチャットをしたり、通話をしたりすることができる便利なアプリだ。

今年に入って啓介たちの勧めもあり使うようになったが、あまり使っていないのが現実だ。

メール派の人がいたりするのが一番の要因だが、これからは使用頻度を高めてみようかとも思っている。

それはともかくとして、日菜さんの問いかけに答えると、自分のスマホを取り出し笑顔で口を開く

 

「あたしとID交換しよ!」

「……別にいいよ。これがID」

 

なんだか面倒なことになりそうな予感はしたが、断る理由もないので承諾するとスマホに僕のID番号が記された画面を出してそれを日菜さんに手渡した。

 

「はい。ありがとう。それじゃ……っと!」

 

僕にスマホを返した日菜さんが自分のスマホを操作すると、RAINのアプリに『日菜★さんからフレンド申請がありました。承諾しますか?』というメッセージが表示された。

この”フレンド登録”というのが、チャットをするのに必要なものらしく、フレンド登録していないとメッセージを送ることができないらしいのだ。

僕は承諾の文字をタップすると、チャット画面が開いた。

それから間もなく追加された一文は『ありがとー! これからもよろしくねー!』という一文。

 

「いや、目の前にいるんだから直接言えばいいのに」

「むー。一君、女心が分かってないなー」

 

頬を膨らませながら言う彼女だが、最後のほうで”ま、あたしも男心とかわからないけど”とつぶやく。

 

(それを言ったらだめじゃない?)

 

そんなことを口にすればまた色々と言われそうなので心の中に留めておいた。

 

「それじゃ、あたしは帰るね。ばいばーい」

「ああ、また」

 

元気いっぱいに教室を後にする日菜さんを見送る僕は、あることに気が付いた。

 

(そういえば、メッセージを送るときはTPOを考えるように言うのを忘れてた。)

 

少し不安だったが、まあ変わった人ではあるけどさすがに常識的に考えてれば、それほど問題にはならないだろうと思い(思い込んでいるといったほうが正しいかもしれない)、僕も帰り支度を進める。

 

「啓介、僕は帰るけど」

「俺は補習だから先に帰ってくれ」

 

(まだやってたんだ)

 

この間数学で行われた抜き打ちテストで見事に沈んだ啓介は、補習授業を受ける羽目になっていた。

 

(あれ確か一週間で終わるはずだったんだけどね)

 

他の人はみんな終わっているらしいけど、啓介だけは継続されている。

噂では、啓介は数学教師に直談判したらしい。

それが教師の逆鱗に触れて罰として補習授業が延長されたらしい。

一体どんなことを言ったのかが気になるが、下手に触れると藪蛇になりかねないので、触れないことにした。

そして、僕は自宅に戻るのであった。

 

 

 

 

 

「できました」

「どれどれ……ふむ」

 

夜、夕食を終えた僕は華道の集まりに向けて、花を活けていた。

この集まりの日に、義父さんから僕が家元の後継者であることが門弟と呼ばれる人たちに告げられるのだ。

要するに、家元の後継者候補である僕の初お披露目会というわけだ。

そして、重要なのがこの日に門弟たちの目の前で花を活けるということだ。

これは、実力を披露することで、僕の地位をより強固なものにさせるというのが義父さんの狙いらしい。

今そのための練習を行っているのだ。

これで合格をもらえば、集まりでは大丈夫であるということになるのだが……。

 

「よくやった、合格だ」

「ありがとうございます」

 

一発で父さんから合格をもらうことができた。

 

「すごいじゃないか。毎回一発でインパクトのある作品に仕上げ、しかも活ける時間も短い……これは天才としか言いようがない」

 

(天才……)

 

自分でもあまり意識したことがなかったが、ふと最近考えることがある。

今まで自分は音楽の才能だけが優れていると思っていた。

それは、音楽しかやる機会がなかったからに他ならないのだが、それが養子縁組をしたことで他の才能も見いだされるというのは、何とも皮肉なものだった。

 

(結局、僕って音楽から離れられないんだよね)

 

現に、生け花のテーマを決めるときに、作曲の時と同じ形でやっていたりするのがいい例だ。

他の人はどういう風に考えて活けているのかに興味はあるけど、聞く気はない。

聞いたとところで理解できないのが分かっているからだ。

 

「明日からは休みになるが、あまり羽目を外さなように」

「わかってる。心配しなくても大丈夫」

 

義父さんの念を押すように言ってくる注意に、僕はそう返す。

 

「さて、今日はここまでだ。お風呂に入って寝なさい」

「そうする」

 

まだ蘭が返ってきてはいないので、先にお風呂に入ることにした。

 

(そういえば、蘭っていつも遅くまで何をしてるんだろう?)

 

毎日でもないが返ってくるのが少し遅い日がある。

義父さんが『あいつには家元の後継者だという自覚があるのか』と愚痴をこぼしているのも、何度か見たことがある。

 

(なんだか嵐の予感がするな)

 

現実になってほしくないが、ふとつぶやきながら、僕はお風呂に入るのであった。

 

 

 

 

 

「ふぅ。さっぱりした」

 

お風呂から上がり、自室に戻った僕はベッドの上に飛び込むように横になる。

それだけで眠気が一気に襲い掛かり始めてきた。

 

(そんなに疲れてはいないんだけど)

 

そうぼやきながら時計を見ると、まだ8時だった。

明日が休みであれば、寝るにはまだ早いが無理して起きてるほどでもないので寝ることにした。

 

「あ、スマホ電池切れしてる」

 

寝る直前に気づいただけでもラッキーだと思い、僕は充電器にスマホをつなげるとそのまま明かりを消してベッドに入る。

 

(おやすみ)

 

僕はそっと目を閉じて眠りつく。

外のほうで誰かが言い争うような声がするが、もう一歩も動けそうになかった。

だが、この時僕は大きなミスを犯していた。

スマホの電源を一度入れておくべきだったのだ。

そうすれば、あんな出来事は起こらなかったのだから。


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