そして、ドリフェスで大爆死をするというのはいつものことだったり(汗)
翌日、いつものように制服を身に纏い、日菜との待ち合わせ場所に向かう。
(あ、いた)
そこには、落ち着きなくきょろきょろとあたりを見渡している日菜の姿があった。
啓介たちの姿は見えないが、おそらく少しすれば来るだろう。
そう思いながら彼女のもとに歩み寄っていくと、日菜と目が合った。
「一君っ!」
「っと」
次の瞬間には素早い速さで僕のほうに駆け寄ってくると、腕を絡めだす。
「おはよう、日菜」
「うん、おはよう、一君♪」
見るからにご機嫌な彼女はスキップしそうな勢いで、僕の腕を振って応える。
「後は、啓介たちか」
「あ、皆は来ないよ」
「え? どうして」
この場にいない啓介たちを待とうとした僕に、日菜はさらりと驚きのことを口にしてくる。
「今朝ね、あたしのところにメールがあって用があるからしばらく二人で行ってほしいんだって」
「………」
日菜のメールという単語に、僕はスマホを取り出すと、確かにメールが一通来ていた。
差出人は啓介で、件名は『俺って格好いいだろ?』となっていた。
なんとなく見たくなくなったが、見ないのもあれなので、メールの本文を読んでみる。
『仲良くしろよっ』
本文は一言だけ書かれていた。
(啓介、ありがとう)
これが、みんなの心遣いだということが分かり、僕は心の中でみんなにお礼を言う。
(ん? なんかまだ続きがあるっぽい)
そんな感動的な気持ちを吹き飛ばしたのは、本文にまだ続きがあることに気づいたからだ。
僕は、下のほうにスクロールさせていくと
『チックショー!!!』
と、大きな字で書いてあった。
(啓介……お前というやつは)
本人としては、努力したつもりだろうけど、その努力をもう少し別のほうに活かしてほしい。
「……? どうしたの一君」
心の中で大きなため息をついている僕を不審に思ったのか、日菜が顔を覗き込ませながら聞いてくる。
「いや、何でもない。それじゃ、行こうか」
「うん♪」
メールを見せずに、話を変えるように促すと日菜は上機嫌に頷く。
そして、僕たちは羽丘に向かうのであった。
「日菜、学校とか人目のある場所では腕を組んだりとかは禁止ね」
「えー! ひどいよっ、一君」
その道中、ふと思い出したように提案した僕に、日菜から抗議の言葉が返ってくる。
「いや、さすがに人前でやるのはまず過ぎるから。お互い、変なことに巻き込まれたくないでしょ?」
「むー……わかったよ」
日菜としてはあまり納得できることではなかったのだろうが、僕の言わんとすることを察してくれたのか最後は渋々と頷いてくれた。
日菜はともかく、僕は教師陣に目を付けられた可能性が高い。
あまり、羽目を外せばこちらの足が掬われかねない。
(日菜には申し訳ないが、ここは慎重に行動してもらうようにしよう)
この時、埋め合わせのことを言わなかったのは、それをすると大変なことになるというのが身にしみてわかっていたからだったりする。
「おっはよー! リサちー!」
「あ、おはようヒナ。なんだかご機嫌じゃん」
羽丘の教室に入ると、日菜はいつも以上に元気な挨拶を近くにいたリサさんにし始めた。
「えへへ~、実はねえ」
顔を赤くしながらリサさんと会話をするのをしり目に、僕は教室内を見渡す。
相も変わらず、こちらをチラチラ見ては何かを話すクラスメイトの姿があったが、僕にはどうでもよかった。
なぜなら
「お、一樹。復学おめでとう」
「田中君、おはよう。そしてありがとう」
僕のことをよく知る友人がいる。
それに
「え、ヒナと一樹君付き合うことにしたの!?」
「うん、そうなんだ~。えへへー」
僕にはかけがえのない愛する人がいるのだから。
(……いや、待てよ)
「ちょっと、日菜さんや。何を言ってくれてますか?!」
「え?」
首をきょとんとさせている日菜に一瞬ドキッとするが、とりあえずそれは置いといた。
「流石に交際してるのを話すのはまずいからやめて」
「うー、自慢したいのに」
彼女は自分の立場が分かってるのかが、いささか不安になってきた。
「えーっと、日菜ッて恋愛OKなの? ほら、パスパレとか」
「あー……多分NGだったかも」
僕の言わんとすることを察したのか、リサさんの問いかけに日菜は顎に手を当てて考えると、答えを口にした。
僕が一番危惧してるのはパスパレへの影響だ。
彼女たちはアイドルバンド。
つまり、バンドであるのと同時に、アイドルでもあるのだ。
アイドルと言えば、恋愛は御法度が当たり前。
つまり、僕たちは交際しているのを隠す必要があるのだ。
(まあ、スキンシップが激しいのは何とかなるように手は打っておいたけど)
それも、どこまで通じるかわからない以上、人目がある場所でのそういった行動は避けるべきなのは、言うまでもない。
「そういうわけだから、むやみやたらに付き合っていることは言わないで。リサさんも悪いけど、今聞いたのは内密に」
「オッケー。誰にも言わないから安心して。それと、おめでとう、二人とも☆」
リサさんからの祝福の言葉を受け取りながら、僕たちはチャイムが鳴ったのもあって席についた。
そして、いつも通りの学園生活がまた始まった。
それは同時に、僕の反日菜グループへの処置の準備の始まりでもあった。
(とりあえず、昼休みに準備に取り掛かりますか)
僕は、教室に入ってきた先生の話を聞きながら、今後の予定を組むのであった。
アイドルとの恋愛でついて回るのが、恋愛NGという壁です。
他の作品でもこれは分かれており、恋愛OKにしているのもあればNGの設定にしているところもあります。
私としては、OKにしておいたほうが面倒ではないのですが、それはそれで『ご都合主義だ』といった意見が出てきてしまうのが痛いところ。
とはいえ、NGにしてもツッコミが出てしまうのですが(汗)
尤も、その設定をうまく使えばどちらも名作になるというのは言うまでもありませんが。