そして迎えた昼休み。
「日菜、悪いけど先に屋上で待っててくれる? すぐに行くから」
「……? うん、わかった」
僕の頼みに、日菜は首を傾げながらも頷きながら返事をすると、すたすたと教室を後にしていく。
それを見送りつつ、僕は教室内を見渡して、目的の人物を探すと、まだ教室内残っているので、その人物のもとに近づいた。
「薫さん」
「おや、誰かと思えば美竹君ではないか。どうしたのかね?」
まず声をかけたのは薫さんだった。
芝居がかった動きは相変わらずな彼女の様子に苦笑しながら、僕は用件を手短に話す。
「ちょっと話があるから、今から屋上に来てほしいんだ」
「………どうやら、まじめな話のようだね。分かったよ、君には前の文化祭での恩があるからね。では、先に言っているとしよう」
僕の表情から、何かを感じ取ったのか、真剣な面持ちで頼みを聞いてくれた薫さんは、屋上に向かうべく教室を去って行った。
「リサさんもいいかな? ひまりさんと一緒に」
「え、ひまりも? 別にいいけど……ちゃんと説明してよ」
渋々といった様子ではあったけど、頼みを聞いてくれたリサさんはひまりさんに連絡を取るためか、携帯を得にしながら教室を後にしていく。
「田中君」
「屋上、行ってるぞ」
さすがに僕のやり取りを見ていれば、何を言おうとしているのかがわかるらしく、僕が何かを言うよりも先に田中君は教室を出て行った。
(僕も行くか)
そして僕も教室を後にすると、屋上へと向かうのであった。
僕が屋上に着いたころには、呼び出した人たち全員がすでに待っていた。
「皆、いきなりこんなところに呼び出してごめん」
「別に構わないけど一体、どういうつもり?」
なぜかこの場にいる妹の蘭の疑問が僕に投げかけられた。
蘭のそばにはつぐやモカさんたちの姿もあり、彼女たちの足元には昼食と思われるお弁当箱があるので、おそらくここで昼食を食べていたところに僕たちが来たのだろう。
「簡単に言うと、日菜をいじめたやつを懲らしめる」
『………』
単刀直入に言った僕の言葉に、全員が固まった。
「日菜先輩が……ちゃんと、説明して」
「わかった」
蘭やつぐには今回の一件は説明していなかったので、当然の反応だった。
僕は、これまでの経緯をわかりやすく説明していった。
嫉妬という醜い感情が集まって作られた反日菜グループのこと。
そのグループのメンバーが日菜を階段から突き落としたことなど。
「え?」
話の途中で、当時のことを思い出したのか、日菜の表情が若干曇ったのを見逃さなかった僕は、彼女の手を取りながら説明を続けた。
それで、彼女の恐怖心が和らげるかはわからないが、それでも彼氏として……男として放っておくことができなかった。
「と、言うわけなんだ」
そして、僕はすべての話を終えた。
「で、懲らしめるってどうするつもりなの?」
「反日菜グループの主要メンバーの数名を呼び出して謝罪させる」
「……それで、俺たちをここに集めた理由は何だ?」
おそらく、田中君は僕のやろうとしていることに気づいたはずだ。
僕が謝罪だけで許すつもりはないということを。
それでも何も言わないのは、黙認しているのか、それとも何らかの考えがあってのことなのか。
「メンバー……三人なんだけど、そいつらを呼び出す手紙を書いてほしいんだ」
僕の立てた計画は、いたってシンプルだ。
三人が絶対にそこに行きたくなるような人物の名前で書かれた呼び出しす手紙で、教室に集めてそこでけりをつけるというものだ。
「薫さんには二人分の呼び出す手紙を書いてほしい」
「なるほど……それでは心を込めて呼び出しの詩を綴らせてもらうよ」
「リサさんには、一人分の手紙をお願い」
案外乗り気な薫さんは一応置いとくとして、僕はリサさんにもお願いした。
「アタシでいいの? 変に警戒されたりとかしないかな? ちょっと責任重大すぎるよ」
「大丈夫だと思う。そいつは阿久津ってやつで、まあ……言わずもがなだけど『リサたんは俺の嫁』とかのたまってるらしいから」
「うへぇ……」
僕の口から出たターゲットの名前と言動を言っただけで、リサさんは気持ち悪そうな表情でリアクションをとった。
まあ、それが普通の反応なんだ。
「だから、リサさんの名前の手紙を見て、行かないはずがない。それに、リサさんみたいなかわいい人からの手紙だったら、男子はみんなそこに行くはずだしね」
「っ!?!?」
なんだか、リサさんが息をのんだかと思うと、顔を赤らめる。
「どうしたのリサさん―――って、いたたたっ」
そんな彼女の様子に心配した僕が声をかけようとすると、横にいた日菜に思いっきり手の甲をつねられた。
「いきなり何するの!?」
「べっつにー。一君はあたしじゃなくてリサちーのほうがかわいいって思ってるんだー」
頬を膨らませて、ジト目でこちらを睨みつけながら言う日菜の姿を見た僕は
「もしかして、やきもち?」
と、口にしてしまった。
「つーん!」
そして、それは図星だったようで日菜はこちらから顔をあからさまにそむけた。
「えっと、今のは一般論だから。僕の主観の話ではないから。それに、僕が日菜のことを好きな気持ちは紛れもない真実だよ」
「……本当?」
「うん、本当」
「………じゃあ、許してあげる」
我ながらなんとも臭い言葉だと思うが、それでも何とか日菜の機嫌を取り戻すことができた。
(恋人がいるんだし、不用意な発言は慎もう)
僕はこの時、心の中で誓った。
「……ねえ、何この茶番?」
「………ヒューヒュー、アツアツですな~」
「ふふ……儚い」
「あ、あはは」
尤も、屋上にいる蘭達からの冷たい(もしくは呆れたような)視線を受けている時点で手遅れなような気がするけど。
「そ、それで私はどうすれば……」
「えっと……ひまりさんと田中君には立会人になってほしい」
混沌とした空気になりつつある中、ひまりさんがやや強引に話題を変えてきたので、僕はそれに乗っかる形で答える。
「「立会人?」」
「奴らのことだから、またあることないこと騒ぎ出す可能性がある。その時に、どちらの言い分が正しいのかを証明する第三者が必要になる。田中君には仲裁の役割もあるけどね」
これは日菜が階段から突き落とされた一件で実感したことだ。
証人がいたほうがこちらとしては心強い。
「それじゃ、決行は明後日ということで、みんなお願い」
こうして、最後の仕上げである作戦の決行が決まるのであった。
次回、いよいよ決着がつきます。