普通のCDよりも割高でしたが、それの倍の価値がある内容でした。
そして、続編でもある次回作の方向性が、大体決まったという話だったりします。
あれから数日後のこの日、羽丘の全校生徒が講堂に集まっていた。
その理由は、夏休み前の全校集会があるからだ。
「―――――えー、よい夏休みを過ごしてください。以上です」
ちょうど終わった10分にもわたる学園長の長話を終え、講堂内に喧騒が戻り始める。
(どうして”長”の役職が付く人って、みんな話が長くなるんだろ)
ただ長いだけで意味のない話を、立ったまま聞き続けるのはかなり苦痛だ。
……いや、座ってればいいというものではないけど。
いつもなら退屈な時間だったが、今回は違う。
なぜなら、僕には日菜がいるからだ。
(日菜が言っていたのを意識して聞いてみると、確かに同じ話を繰り返したり飛んだりしてる)
日菜曰く『学園長の話って変なところで飛んだり繰り返したりするから面白いよねー』だそうだ。
『静かに! これから風紀指導部の岸田先生から、お話があります』
(お、ちゃんと約束は守るようだね)
岸田先生の反応から、反故にするのかと思っていたが、流石に約束はちゃんと守ってくれるようだ。
『えー、ここ最近、問題を起こした生徒について噂があるようだが、それはすべて出鱈目だ。生徒諸君は品位ある行動をするように。以上』
それだけ言って岸田先生は壇上から降りて行った。
講堂中に困惑に満ちたどよめきが起こる中、全校集会は終わった。
「一樹! あれでいいのかよ!」
教室に戻る際中、田中君たちが僕のところに来ると声を荒げた。
田中君や啓介たちは、僕が教師たちに要求したことを知っている。
それ故の言葉だ。
「よくわからないけど、アタシもあれはちょっとひどいと思うよ」
そして、田中君の言葉を肯定するように、僕の要求を知らないリサさんも口を開く。
「いいというわけではないけど……というか、問題ありまくりだけど」
確かに、表面上は僕との約束を守っているようにも見えるが、壇上に上がる時や話している様子から、嫌々感がビシビシと伝わってきていた。
その上のあの内容だ。
あれは謝罪でも何でもない、ただのアリバイ作りの言葉でしかない。
「ねえ、僕って優しすぎると思う?」
そこで、僕はそんな質問をみんなにしてみることにした。
その答えは一致していた。
『思う』
という内容で。
「うーん。それじゃ、サクッと筋は通してもらおっかな」
僕はそういうと、スマホを取り出すとマツさんにメールを送る。
内容はこれまた単純で『例の教師の件、お願いします』という内容だけだ。
「一樹……今何をした?」
「ん? ちゃんと生徒の見本になってくださいっていうメールを送っただけ」
僕のその一連の行動を見ていた田中君の問いに、僕は笑みを浮かべながら応える。
そんな僕の言葉に、みんなは何とも言えない表情を浮かべていた。
「明日から夏休みだね」
「そうだな」
夏休み前のHRも終えた僕たちは、ついに本格的な夏休みに突入することになった。
HRの前はいろいろとごたごたがあった。
クラスの人数が減ったのだから、それは当然ともいえる。
あの後、阿久津は警察に逮捕されたようで、テレビで大々的に報じられることになった。
尤も、実名ではなかったけど。
もちろん、学園は退学処分となった。
ごたごたしたのは、彼の机を移動させたりする必要があったからだが、終わってしまえばあっという間だった気がする。
ちなみに、あの場にいたもう一人の女子学生は自主退学したようだ。
(まあ、両親の仕事がなくなったらそうなるよね)
その女子学生にとっての爆弾は、父親がやっていた横領に関するものだった。
本当に、どうやって調べているのかと時々不思議に思うのだが、聞いたところで教えてはくれなさそうだし、変なことに巻き込まれないとも限らないので、何も聞かないことにしているのだが。
父親は会社をクビになったため、羽丘に通うのが経済的に難しくなった。
一応、羽丘には特待生という制度がある。
学費などでかなり優遇される制度だが、これを利用するにはそれ相応の学力が必要になる。
やれ『成績がいいから』やら、『何でもできるから』といった理由で結成されている反日菜グループの主要メンバーであることから、この制度の適用範囲外であるのは言うまでもない。
よって、自主退学ということになったのではないかと踏んでいる。
ちなみに、現在は女子学生の母親の実家がある青森のほうに引っ越していったらしい。
「一君、また目がピタッとなってるよ」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事」
ちょっと前のことを振り返っていると、頬を膨らませながら日菜が指摘してきた。
去年までは、日菜が何を言っているのかがさっぱりだったが、ここ最近では何を言いたいのかがなんとなくわかるようになってきていた。
(きっと、これからもっとわかるんだろうな)
日菜と一緒にいることになるのだから、それは当然のことだ。
(でも、それもそれでいいか)
日菜に振り回されても、最終的にはいい思い出になっているのだ。
ましてや今は僕の恋人。
最悪な思い出になるはずがない。
「ねえ、日菜」
「何? 一君」
僕は隣を歩く彼女に、その言葉を告げる。
「今年の夏休み、いっぱい楽しい思い出を作ろうね」
それは、僕にとっての決意表明でもあり、彼女との約束という意味合いを込めたものだ。
そして、僕のそんな思いが分かったのか、日菜は
「うん。あたしも、一君と一緒にるるるるんっ♪な思い出を作りたいっ」
と、満面の笑みを浮かべて返してくるのであった。
ちなみに、岸田先生が羽丘の教師の職をクビになるのだが、それを知るのはかなり先のことであった。
第4章、完
今回で本章は完結です。
次回は砂糖要素マシマシの話になる予定です。
では、次回予告をば。
―――
夏休みを迎えた一樹たちは、この機会に思い出作りとして、デートを計画するのだが……
次回、第5章『夏の思い出は潮の香りと共に』