第27話 不意打ち
夏真っ盛りなこの季節。
セミの鳴き声は、かなりうるさく感じるようになってきていた。
「ぅぅ……」
そんなセミの大合唱のおかげで、目覚まし時計を用意する必要もなく、僕は目を覚ますことができた。
「ん?」
いつものように上半身を起き上がらせる僕は、なんとなく違和感を感じた。
(別に、変なところはない……よね)
今いるのは紛れもなく僕の部屋だ。
部屋の明るさから、夜とかではない。
寒さを感じているというわけでもない。
(じゃあ、一体この違和感は……)
何なんだろうといまだに寝ぼけている状態で考えこもうとしたとき
「んぅ……」
「………」
その違和感の正体に気が付くことができた。
(いや、まさかだよな……)
僕は、今感じた違和感の正体が、勘違いであることを祈りながら、僕の隣に目をやる。
「スー……スー」
「そのまさかだった!?」
そこにいたのは
幸せそうに寝息を立てて眠っている日菜の姿だった。
別に彼女が寝ているのがおかしいというわけではない。
問題なのは、僕の部屋の……しかも同じベッドで寝ているということだ。
(僕、昨日は一人で寝たよね?)
昨日のことを思い返しても、誰かと一緒に寝ているということはありえない。
だとするなら……
「ん……はれ? 一君。おはよ~」
僕の混乱していた時の声で、目を覚ました日菜は目をこすりながらゆっくりと上半身を起き上がらせる。
「うん、おはよう……じゃなくてっ」
「もー、うるさいよ。一君」
いつもの癖で朝の挨拶を仕掛けた僕は、この状況のおかしさに気づいて思わずツッコミを入れる。
「いやいやいや、どうして日菜がここで寝てるの!?」
「え? だって、まだ一君が寝てるから、起こそうと思って」
どうやら、そのまま一緒に寝てしまったらしい。
寝ているとはいえ、そんなことがあっても起きない自分が、少しだけ心配になってしまったのはここだけの話だ。
「いや、集合時間までまだ1時間30分ぐらいあるんだけど」
「そうだけど……だって、楽しみで仕方がなかったんだもん」
「その気持ちは分かるけどね」
俯いてもじもじしながら言う日菜の気持ちは分からなくもない。
「それに、今日は一君と初めてのデート……何だもん」
「ッ!?」
日菜の上目遣いの言葉は、僕の心をわしづかみにした。
「日菜」
「え? んぅ!?」
気が付けば、僕は彼女の唇と自分の唇を重ね合わせていた。
「ぷはぁ! いきなりすぎるよっ」
「いつものお返しだよ」
唇を離すと、日菜から非難のまなざしで抗議してくるが、僕は軽く流す。
「むぅ、だったら……」
そんな僕に対抗心でも芽生えたのか、頬を膨らませたかと思うと、再び僕にキスをしてくるのであった。
そう、今日は日菜との初デートの日なのだ。
BanG Dream!~隣の天才~ 第5章『夏の思い出は潮の香りと共に』
僕と日菜の間に、一体何があったのか。
そのことを説明するには、少し前にさかのぼる必要がある。
学園は夏休みとなり、僕たちは恋人同士楽しい夏休みを過ごす………はずだった。
実際、僕も日菜とのデートのプランなどをいろいろ練りに練って、楽しい夏休みを過ごせるように準備は整えていた。
それは、日菜も同じようで後から聞いたのだが、僕と一緒に”るるるるんっ♪”とするような体験ができるように計画を立てていたらしい。
だが、僕たちはすっかり失念していた。
夏休みで自由な時間が増えるのと比例して増えるものがあるということを。
「そっか、明日もか」
『うん、そうなんだよ。みんなと一緒にいると、るんっ♪てなるからいいんだけどねー』
約一週間前の夜、僕と日菜はいつものように電話で話をしていた。
内容は、明日のことだ。
『一君は?』
「僕も同じ。明日は雑誌の取材だって」
日菜の問いかけに答える僕の言葉で、察した人もいるかもしれないが、バンドの仕事がすさまじい勢いで増えだしたのだ。
確かに、事務所の方針として学校がある時期は少なめに抑え、その代わり長期休暇に入ったらたくさんライブなどを入れていくというのは聞いていたが、今年は明らかに異常だった。
(仕事があるっていうのはいいことなんだけどね……)
今日はやや中規模のライブがあり、明日は雑誌の取材がある。
さらに明々後日はトークライブなる物に出演することになっている。
(トークライブはバンドと関係が一切ないんだけど)
『なんだか、最近一君色々なテレビに出てるね。この間はクイズ番組だったよね』
「そういえばそうだったね」
日菜の言うとおり、ここ最近僕の仕事は音楽だけではなく、バラエティ番組にも出演のオファーが来るようになった。
(間違いなく、あれだな)
思い当たるのは、前にパスパレと一緒に言った無人島でのロケ。
おそらく、あれが僕の仕事の範囲を広げさせたのかもしれない。
(まあ、それ自体はいいんだけどね)
自分の可能性に、挑戦したいというのは誰にだってある気持ちのはずだ。
だから、僕はそのことに後悔はしていない。
それはともかく、そんな僕と同様にPastel*Palettesもまた、仕事量が増えているらしい。
そんなわけで、デートなど夢のまた夢。
このままだと、デートと言った恋人らしいこと一つすらできずに夏が終わってしまうのではないかと、若干不安になっていたりもする。
『あたしなんて、完全にオフなの来週末ぐらいだし』
「そうなんだ、来週末……ちょっと待って」
何気なく話していたが、引っ掛かりを覚えた僕は、日菜にそう言うとスマホでスケジュール表を確認する。
(やっぱりっ)
僕はそこで光明が見えた。
「来週末、何か予定ある?」
『え? 特に予定はないけど』
「来週末、僕もオフなんだよ」
運のいいことに、一日だけ日菜と休みがかぶる日があったのだ。
「それじゃ……っ!!」
『うん、この日だったらデートができるっ』
夏休み前に日菜と約束していたデートがようやっと実現できる。
しかも、この日を逃せばもう当分は休みの日が合う日が少なくなることになる。
この機を逃すわけにはいかない。
「日菜、どこに行きたい?」
『んー……海っ! 海に行きたい!』
こうして、日菜のリクエストによって、僕たちの初デートは海に決まったのだった。
なぜなにQ&A
皆さんが感じていそうな疑問に、簡単ではありますが、お答えしていこうかなと思います。
Q:なんで、このルートの阿久津は大人しいわけ? 大蔵はどうなってんの?
A:紗夜ルートでは、一樹は阿久津にとってバラされるとやばい爆弾を持っていることを告げております。
そして、そのまま放置をしたため、阿久津は口封じ&報復を実行に移しました。
今回のルートでは、表面上は阿久津の思い通りになっていたり、阿久津たちへに爆弾の存在を知らせた際に、大蔵は社会的に抹殺されている最中のため、阿久津は後ろ盾をなくしております。
よって、このルートでは、阿久津はあっけなく退場ということになりました。