第30話 合同ライブの提案
夏休みもいよいよ折り返しとなる、8月の中旬。
僕は、事務所の会議室を訪れていた。
「失礼します」
「あれ、美竹君に裕美ちゃん?」
中に入ると、すでに来ていた丸山さん達が僕たちを見て驚きの声をあげる。
「こんにちは、彩ちゃん」
そんな丸山さんに、親しく笑みを浮かべながら挨拶をする中井さんを見て、彼女が成長しているんだなということを改めて実感していたりする。
「一君っ! むぎゅ」
「っと!?」
僕に向かって突進してくる日菜の射線上から離れたことで、僕の後ろにいた森本さんに受けとめられる形になった。
「何で避けるのっ」
「仕事だから」
幸いにも、ここにいるのは僕と日菜の関係を知っている人たちだけなのでまだいいが、スタッフは知らないので、いたらかなり面倒なことにもなりかねない。
……今はスタッフ全員どこかに行っているようでいないけど。
「とりあえず、座ろうか」
啓介に促される形で、僕たちはPastel*Palettesのメンバーの座る席から机を挟んだ向かい側の席に腰かけていこうとしたところで、いまだに僕の後ろについてきている日菜のほうを見て一言
「わかってると思うけど、日菜の席はあっち。ここは僕たちの席だからね」
と告げた。
こうでもしないと何食わぬ顔で僕の隣に腰かけそうだし。
「ぅぅぅぅ……」
僕の予想が的中したのか、日菜は恨めしそうな目でこちらを見ながら、とぼとぼと元の席に戻って行った。
こうして僕たちは席に着いた。
席順も同じパート同士になるようになっていたのはただの偶然かもしれない。
つまり、僕の向かい側に日菜が座っているということだが。
それから間もなくして、スタッフの人たちが会議室にやってきた。
その中には相原さんの姿もあった。
「皆さん、おはようございます!」
『おはようございます』
「突然ですが、Moonlight Gloryとの合同で、ライブを開催することになりました!」
全員の挨拶を聞いたスタッフは、大きな声で元気にライブの開催を告げた。
「ほんとですか!?」
「わあっ、ムングロの皆さんとライブができるんですねっ」
「いやったぁ!」
「うぅ……なんだか震えがするっす」
合同ライブの開催ということもあって、パスパレのみんなは僕たちが驚くほどに喜びをあらわにした。
「Moonlight Gloryについては、ご紹介しなくてもわかると思いますが、数多くのライブを行い絶大な人気を誇っており、またファンの人数も非常に多いバンドです」
「つまり、私たちはMoonlight Gloryのファンの方々に受け入れてもらえるようにすることが必要ですね」
スタッフの話を受けて白鷺さんがそうまとめた。
(なんだか聞いててむず痒くなる)
どうにも、褒め言葉を並べられると、落ち着かなくなるのは、何ともなりそうになかった。
「今回のこのライブは、実はMoonlight Gloryからの提案なんです」
『えぇ!?』
スタッフの爆弾発言で、丸山さん達の顔が驚きに染まる。
(本当は、違うんだけどね)
そんな彼女たちの反応をしり目に、僕は心の中でそうぼやいた。
BanG Dream!~隣の天才~ 第6章『晴れのち曇り』
それは今から少し前のこと……日菜との初デートを終えた翌日にまで遡る。
事務所で、僕は相原さんに、ある提案を直談判していた。
「合同ライブ……ですか」
「ええ。このライブは私たちの今後のためにも、非常に重要なライブです。ぜひ開催させてください」
それは、ほかのバンドとの合同ライブの提案だった。
これまで、色々なバンドと合同でのライブは開催してはいる。
それはそれで大変貴重な体験をさせてもらい、色々と課題なども確認することもできた。
だが、今回のそれは、今までの物とは大きく異なるものだった。
「ゲストバンドとしてRoseliaを迎える……ですか」
「はい。このバンドが私たちが合同でライブを行うのにふさわしいと、私は考えています」
相原さんが難色を示したのが、一緒にライブを開く相手のバンドのことだった。
「一樹さん、こう言ってしまうのはあれですが、我々にも事務所としての立場があります」
「……どういうことですか?」
「我々の事務所には兄妹バンドとして認識されている『Pastel*Palettes』が所属しております。そちらを差し置いてというのは……」
申し訳なさげに言っているものの、言いたいことはそれだった。
問題になっているのは、公式で兄妹バンドとして認定されている『Pastel*Palettes』を差し置いて、よそのバンドに出演のオファーをすることだった。
僕としては、勝手にそういうことにされてしまっているという認識のため、納得のいくものではなかった。
パスパレにオファーをするように進言する相原さん……スタッフと、Roseliaにオファーを出すという僕とで、対立が生まれてしまったのだ。
結局その日は僕の仕事の予定が迫っていたということもあって、後日話し合いを行うことになった。
それから何度も話し合いを続けても、平行線のままズルズルと時だけが過ぎてしまい、気が付けばもうすでに大筋の案を二バンドでまとめていなければいけない時期に差し掛かりつつあった。
僕の中にも少しだけ焦りだした頃、相原さんの出した折衷案が、状況を一変させる。
「では、こうしましょう。一度Pastel*Palettesさんに、開催可能かどうかの打診をいたします。それで先方が難しいという返事を出した場合は、一樹さんのご希望されるバンドへの打診を行います。これが、私たちにできる譲歩です」
「……分かりました」
スケジュール的にももうあまりゆとりもなかったため、僕はその案を呑むこととなった。
こうして、相原さんによってパスパレのスタッフに合同ライブの打診が行われたのであった。
察しの良い人は気づいていそうな気がしますが、章の名前がちょっとあれです。