「はい、ストップ。大和さん、今のところだけど、ちょっとパワーが強すぎるから、少しだけ弱めてくれる?」
「分かりましたっ」
「日菜も、あまり先走らないでドラムとベースの音に注意して弾いて」
「はーい!」
編成もなんとか決まり、ついに練習が始まる。
曲は何とか完成し、メンバー全員には音源と楽譜を手渡している。
田中君率いる『Moonlight*pallettes』は、バタバタしていたものの、順調に形になりつつあった。
問題は僕たち『Pastel*glory』のほうだった。
「美竹君、まだ歌詞のほうは決まらない?」
「うん。ひねって入るんだけど、なかなかね」
不安そうに聞いてくる丸山さんに、僕は申し訳なく思いながら応える。
そう、まだ曲が完成していないのだ。
大まかにいえば、曲も歌詞も完成している。
啓介作詞の素晴らしい曲が。
「あたしはこのままでもいいと思うんだけど」
「はい。とてもいい曲ですっ」
実際、日菜に若宮さんたちも、この曲のことを気に入ってくれている。
「……美竹君は、歌詞のほうで引っ掛かっていることがあるんですか?」
「そうだね」
結論を言えば、大和さんの言う通り。
僕は、この曲に違和感を感じていた。
「なんだか、この曲は僕が奏でたい曲のイメージとは違う気がするんだ」
どう違うのかは、自分でもわからない。
歌詞のほうであるとわかったのはいいのだが、それを修正するのに、かなり苦労していた。
何せ、この曲のテーマが、自分にとってあやふやなのだ。
最初のころは、しっかりとしたテーマはあった。
でも、色々と曲を構築していくに連れて、最初のテーマとはどこか違う曲に出来上がっていたのだ。
(こういうのがあるから、音楽って奥が深いんだよね)
「本当に申し訳ないんだけど、もう少しだけ、時間をもらってもいい? 最悪、この歌詞で行くから」
「う、ううん。私たちのことは気にしなくてもいいよ」
「そーそ。ズガガーンって弾いちゃうから」
「私も、ブシドー精神で頑張りますっ」
「ですので、美竹君も頑張ってくださいね」
本当であれば、非難轟々のはずなのに、みんなの反応はとてもやさしくて暖かいものだった。
だからこそ、それに甘えないように、僕は歌詞作りに全力を出すのであった。
それから、さらに日数が経ち、気が付けば夏休みも残りわずかとなっていた。
(うーん、そろそろ決めないとまずいかな)
少なくとも、来月の中旬までには仕上げておかないと、練習のほうが間に合わなくなる。
まともに影響を受けるのはボーカルの丸山さんなのだ。
ただでさえ本番に弱い彼女に、高負荷をかけるわけにはいかない。
「でも、中々浮かばないんだよな」
しっくりとくる言葉を考えていても、浮かんでは消え、浮かんでは消えの繰り返しだった。
「……ポテトでも食べて気分転換でもするか」
ちょうどファーストフード店が目の前に見えてきたので、中に入ることにした。
店内は、いたって普通のファーストフード店だった。
「いらっしゃいませー……って、美竹君!?」
「……何をやってるの? 丸山さん」
お店の制服に身を包んだ丸山さんが、レジで接客をしているのを除けば。
「アルバイトだよ。最近は出られていなかったんだけどね」
そう言って苦笑する丸山さんの後ろには、花音さんの姿もあった。
どうやら、二人でバイトをしているらしい。
「じゃあ、ポテトのMサイズと烏龍茶を頼んでもいい?」
あまり話し込んで他の客に迷惑をかけるのは彼女にとってよろしくないので、手早く注文を済ませる。
「はい、畏まりました。ポテトMサイズと烏龍茶をお願いしまーす」
「か、畏まりましたっ。ふ、ふぇぇ~」
後ろにいる花音さんに声をかけると、たどたどしい返事ではあったものの、頼んだメニューを用意していく。
(なんだかいつもより”ふぇぇ”が多いような気がするんだけど……)
表情も硬いし大丈夫なのだろうか?
「もしかして、作詞をしに来たの?」
受け降り口のほうで、頼んだ品が出てくるまで待っていた僕に、ちょうど客足が途切れたのか丸山さんが話しかけてくる。
「まあ、そんなところ。たまにはこういうところでやったほうが、いい言葉が思いつくかもしれないし」
確証はないが、それでもやってみる価値はある。
「お、お待たせしましたっ。ポテトMサイズと烏龍茶です」
「ありがとう。バイト頑張って」
「う、うん」
「美竹君も、作詞頑張ってね」
注文した品を受け取り、適当な席に腰かけた僕は、ポテトをつまみながら、作詞を始めた。
(花音さん、まだちょっとぎこちないかな)
この前花音さんから告白をされ、それを断っているのだから、当然と言えばそうなのだが、きっともう少し時間が過ぎれば、またいつものようになれるかもしれない。
解決を時に委ねるくらいしか、僕にはできることはないのだから。
(あ、今ひらめいた)
そんな時、僕の頭の中に、一筋の光のようなものが差し込んできたような気がした。
(この曲は……ラブソングにしよう)
ひらめいたとは言っても、テーマぐらいなものだが、それでも大きな進歩だ。
「ん?」
その時、僕の視界にあるチラシが入ってきた。
「納涼祭?」
それは、この時期に行われている花火大会で、出店などもあったりと、この夏最後の大きな催しらしい。
(明後日か……そういえば、明後日は夜は予定がないって言ってたっけ)
気になった僕は、携帯で日菜さんの携帯に電話をかける。
『もしもし、一君? どうしたの』
「日菜、明後日の夜って予定あったっけ?」
『ううん。全然ないよー』
今日はつくづくラッキーデーだ。
こうまで幸運が重なっていくんだから。
「もしよければ、明後日お祭りがあるみたいだから、一緒に行かない?」
そんな僕の言葉に、日菜は
『お祭り!? やったー!! 行く行く!』
即答でOKを出してくるのであった。
こうして、僕と日菜は今年最後の夏の思い出として、お祭りに行くことになるのであった。