BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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この章より三人称視点で基本的に話は進んでいきます。
一部は違いますが……


第7章『夢の終わり』
第36話 予兆


9月。

夏休みを終えた学生たちは、再び始まるいつもの日常に、ため息を漏らすものが多くなる時期だ。

 

「はぁ………」

 

それは、日菜もまた同じことで、深いため息をついていた。

 

「ひーな! ため息なんかついてどうしちゃったの?」

「あ、リサちー」

 

そんな彼女に、笑みを浮かべながら話しかけるリサに、日菜は軽く笑みを浮かべる。

 

「彼氏がいるのにため息つくなんて、倦怠期? ちょっと早いんじゃないのって、お姉さん少し心配だぞ☆」

「そういうんじゃないんだけどね………」

「……? 何かあったの?」

 

日菜の珍しく霧の悪い言葉に、ただ事ではない何かを悟ったリサは、表情を引き締めて日菜に問いかける。

 

「実はね、なんだかここ最近、一君がムーって感じで、あたしが聞いても『何でもない』って教えてくれないだ」

「つまり、一樹君が何で悩んでいるっていうのが分からないのが、原因ってこと?」

 

日菜の話を簡単にまとめたリサに、日菜は頷いて答える。

 

(もしかして、反日菜グループだっけ? それがらみなんじゃ)

 

リサの脳裏によぎったのは、数か月前に起こった反日菜グループに関することだった。

あの事件の顛末は、一樹たちによって伝えられており、まだグループのメンバーが残っていることは、リサも知っていた。

だが、身動きが取れないように手は施してあるというのを聞いて、その場は安心していたのだが、もしかしたらそれがらみで厄介なことになっているのかもと、リサは考えていたのだ。

 

「だったらさ、アタシも一緒に聞くから一樹君のところに行ってみよっか」

「……うん。ありがと、リサちー」

 

リサにお礼を言いながら立ち上がった日菜とともに、リサは一樹を探しに廊下に出る。

 

「あ、いたいた。って、誰かと話してるみたい」

 

廊下に出てすぐにリサが見かけたのは、黒髪の男子生徒と何やら話をしている一樹の姿だった。

 

「ヒナ、知ってる?」

「うーん、全然」

 

リサはヒナに聞いてみるが、日菜も軽く考えこんだが、相手が誰なのかがわからない日菜は、首を横に振って応える。

 

「あ、終わったみたい」

 

そんな中、男子学生は一樹に何度も頭を下げながら去って行く。

それを見送った一樹は、教室に戻ろうとしたのか、反対側に体の向きを変える。

 

「あ、見つかった」

「……二人とも、こんなところで何してるの?」

 

柱の陰から隠れるようにしていたリサ達と一樹の目が合い、困惑した表情を浮かべながら近づくと、疑問を投げかける。

 

「あー、実はね―――」

 

いたたまれなくなったリサは先ほど日菜から聞かされた話を一樹にする。

 

「なるほど、そういうことか」

「で、何か悩んでるの? もしよければあたしも力になるよ」

 

話を聞き終えて呟く一樹に、真剣な面持ちで問いかけるリサに、一樹は申し訳なさそうな表情で見ながら頬を掻いた。

 

「実は、最近1年の演劇部の数人から、演技の指導をしてほしいって言われていてね」

「「……へ?」」

 

一樹の口から出た予想外の言葉に、二人は目を瞬かせながら固まった。

 

「断るのも忍びないし、とはいえこう何度も来られるのも申し訳ないしで、ちょっと悩んでたんだよ」

「そ、そうだったんだ……はー、アタシ思わずヒナの一件のことかと思っちゃったよ~」

 

あまりにも予想外なそれに、リサは苦笑しながら張りつめていた気を抜いていく。

 

「ごめんごめん。今日、けりを付けたから、もう大丈夫だよ。リサさん、日菜。心配かけてごめんね」

「ううん、気にしないでいいって。むしろ何もなくて安心だよ。ね、ヒナ?」

「んー……そうだね」

 

(一君、何か隠してる……何を隠してるの?)

 

安心したリサとは真逆に、日菜だけは一樹が何かを隠していることを感じ取っていた。

だが、日菜はそれ以上一樹を問いただすことはしなかった。

日菜は本能的に、それ以上踏み込んではいけないことを悟っていたのだ。

こうして、三人は教室へと戻っていくのであった。

 

 

BanG Dream!~隣の天才~   第7章『夢の終わり』

 

 

ファーストフード店。

いつものようにバイトに勤しむ彩のもとに、一人の客が現れる。

 

「いらっしゃいませー……って、美竹君? また歌詞作り?」

「いや、今日はそういうのじゃないんだ」

 

一樹はバツが悪そうに言いながら、後ろのほうに視線を向ける。

 

「美竹先輩、俺達先に席をとってるっす」

「あー、お願い」

 

一人の短髪で、左目の下にほくろのある青年の言葉に、一樹は苦笑しながら言うと、男子学生と横にいた女子学生の二人は席を取りに向かっていく。

 

「えっと……」

「1年の演劇部の部員でね。何でも僕に演技指導をしてほしいんだって」

「え、どうして美竹君に?」

 

彩は羽丘の演劇部には、演技力が高い薫がいることを知っているだけに、頭の中に疑問で埋め尽くされていった。

 

「前に、ヘルプで文化祭の演劇に出たことがあったんだよ。……まあ、悪役なんだけどね、それを見て感激したんだって」

「そ、そうなんだ。でも、後輩に頼られるのってすごいことだよ」

 

彩の言葉に、一樹は”出来れば音楽関連がいいんだけどね”と苦笑して返す。

 

「っと、注文を言わないとね」

「あ、そ、そうだった」

 

(うー、もう少し気を付けないと)

 

素でバイト中であることを忘れかけていた彩は、自分を戒めながらも一樹から注文を聞いていく。

やがて、注文した料理を受け取った一樹は、二人が行ったであろう席に向かうのであった。

 

「美竹先輩、ありがとうございます」

「私、美竹先輩の教えを、無駄にしないように活かして見せます」

 

男子学生と女子学生の言葉に、苦笑交じりに相槌を打ちながら、一樹は話を始めるのであった。

 

 

 

 

 

同時刻のとある場所にて。

数人の人物が話をしていた。

 

「で、作戦は?」

「まずは、例の場所でこの話をしてもらう」

 

一人の人物、Xの言葉に、その場にいたもう一人の人物、Yは鞄から取り出した一枚の用紙を、Xに手渡す。

 

「………設定は?」

「噂好きな学生……とでもしておこうか」

 

Xの問いに答えるYの言葉に、その人物たちは口元を吊り上げるのであった。


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