BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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今回で、本章は終わります。



第38話 夢の終わり

「うん。いい天気だ」

 

デート当日。

窓から差し込む暖かい日の光に、僕はすっきりとした気持ちになる。

 

(………)

 

この後のことを考えると、少しだけ気持ちが沈んでいきそうになる。

 

(いやいや。今日は精一杯楽しもう。だって、デート……何だから)

 

僕は自分に言い聞かせる湯に心の中でつぶやきながら、自室を後にする。

 

「一樹、朝ご飯は本当にいいの?」

「うん。一緒に食べてくるから大丈夫だよ」

 

義母さんには、朝食はいらないと伝えておいたのだが、心配性の義母さんが、出かけようとする僕を止めてもう一度聞いてきたので、安心させるように頷きながら答えた。

 

「日菜さんとデートなのよね?」

「うん」

「今度、家に連れてきなさい。義母さんが腕によりをかけてもてなすから」

 

頬を人差し指で書きながら頷く僕に腕まくりをする義母さんは、さながらどこかの戦士の姿をほうふつとさせる。

 

「うん、機会があったら誘ってみるよ。それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい~」

 

こうして義母さんに見送られて、僕は集合場所である駅前に向かうのであった。

 

 

 

 

 

(約束の15分前か)

 

駅前に到着した僕は、恋人である日菜が来るのを静かに待っていた。

 

(なんだか、昔を思い出すな)

 

今日行こうとしている場所は、去年日菜と一緒に言った遊園地だ。

あの時は、友人として言ったが、今回は恋人としていくというのは、なんとも感慨深いものを感じる。

 

(確か、去年はこのくらいの時間で来たんだっけ)

 

「っ!?」

 

そう思っていた矢先、僕の視界は一気に真っ暗に染まった。

人間というのはとっさには声が出ず、固まってしまうようだ。

 

「だーれだ♪」

「……ベタなんだろうけど、心臓に悪いよ。日菜」

 

僕の言葉に満足したのか、一気に視界に明かりが戻ったので、後ろを振り返ると

 

「にひひ~、これやってみたかったんだよね~♪」

 

そこには、満足げにくすくすと笑う日菜の姿があった。

その表情はとても無邪気で、見ているこちらもつられて笑ってしまいそうになるほどだった。

 

「ふぇ!?」

 

そんな彼女のことを、僕は携帯のカメラに収めていた。

 

「何でいきなり撮るのっ?」

「なんだか今の日菜の姿がかわいくて撮っておきたくなったんだ」

 

いきなり写真を撮られたことに、軽く頬を膨らませながら聞いてくる日菜に、僕は素直に答えると日菜は顔を赤らめる。

 

「まあ、いいけどね」

「それじゃ、そろそろ行こうか」

 

話しが一区切りついたところで、僕は日菜に手を差し伸べると、その手を日菜は握り返してくる。

こうして、僕たちの遊園地デートは幕を開けた。

 

 

 

 

 

「はあ~、やっぱりジェットコースターってるんっ♪ ってするね~」

「僕はあまり乗りたくないかなー」

 

遊園地に来てさっそく乗ったのは、日菜リクエストのジェットコースターだった。

苦手ではないが、さすがに初っ端はきつすぎる。

 

(あれ……でも、この流れって)

 

ふと、僕の脳裏に去年の絶叫系アトラクションツアーがよぎった。

 

「それじゃ、次はあそこに行ってみよー!」

「やっぱり、そうなるのね~~~!」

 

こうして僕は、去年同様に絶叫系のアトラクションを、いくつもはしごさせられることになった。

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ~」

「だ、大丈夫? 一君」

 

しばらくして、僕は木陰のベンチで日菜に看病されていた。

さすがに絶叫系のアトラクションを二桁も乗るのはきつすぎた。

 

「なんで、数が増えてるんだ」

 

去年の倍にまで増えたアトラクション数に、僕は恨み言が止まらなかった。

そんなに人類はスリルを求めているのか?

 

(とはいえ、いつまでもダウンしているわけにはいかないね)

 

時間は有限なのだ。

楽しい時間は本当にあっという間に過ぎる物なのだから。

 

「よし。次はもう少し平和なアトラクションを回るか」

 

僕はそう思って起き上がると、日菜に声をかけた。

 

「……うんッ」

 

こうして僕は、日菜といろいろなアトラクションを楽しんだ。

 

「次はこれ」

「これって、記念写真撮影のやつだよ?」

「デートに来た記念にだよ」

 

僕が訪れたアトラクション(でもないけど)に、困惑しつつも、記念撮影用の装置がある場所に入り、日菜はカメラに写るように僕と並ぶように立った。

 

『撮影まで、3,2,1』

「んっ」

 

機械的なアナウンスでカウントダウンが始まる中、日菜は不意打ちでほっぺにキスをしてきた。

 

「へ!?」

 

そして、そのまま焚かれるフラッシュは、撮影されたことを意味していた。

 

「ちょっと、不意打ちにキスは―――」

『この写真でよろしければ、”はい”を。取り直す場合は”いいえ”を押してください』

「はい、っと」

 

僕の抗議の声を遮るように流れる無機質な声に、日菜はこれまた素早く”はい”を選択したため、ほっぺにキスをする日菜と、そのことに驚く僕というツーショット写真が残されることになった。

 

「日菜、さすがにやりすぎ」

「えー? これも立派な思い出じゃん♪」

「はぁ……」

 

日菜の笑みを見ていると、怒る気力がなくなるから不思議だ。

そんなわけで、楽しい時間はあっという間に過ぎて、時間的にも乗れるアトラクションは次が最後になりそうだった。

 

「最後に、あれに乗ろうか」

「観覧車かー。うん、いいね~。なんだかるんっ♪ ってしそう」

 

最後に選んだのは、定番中の定番である、観覧車だった。

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

観覧車に乗ってからと言うものの、隣に座る日菜は口を開くことはなかった。

流石に、不安になってくるが、それでも僕は彼女が口を開くのを静かに待った。

 

「ありがとね、一君」

「ん?」

 

ようやく開いたと思ったら、その言葉はお礼の言葉だった。

 

「一君、あたしに元気がないのを心配して、今日のデートに誘ったんだよね?」

「………別にそれだけじゃないよ」

 

確かに元気のない日菜が心配だったからというのもあるけど、本当の理由はそれだけじゃない。

 

「優しいね、一君」

「……好きな人なんだから、当然でしょ」

「あたし、今までちょっと色々と悩んでたんだけど、でももう悩むのはやめるね」

 

その言葉が、一体何のことなのかはわからなかったが、僕は日菜のその決意に満ちた表情と、その後ろに見える夕焼けの空模様に、また写真に収めるのであった。

 

 

 

 

 

「はぁ、楽しかった~。ね、一君」

「そうだね」

 

遊園地を青にした僕たちが、集合場所である駅前に戻った時には、すでにあたりは薄暗くなり始めていた。

 

(また、遊園地に行こうかな)

 

今度は絶叫系は抜きにしていくのもありかもしれない。

 

 

 

でも、そんな僕の気持ちが、かなうことはなかった。

 

 

 

「お、お前……もしかして」

「へ?」

 

 

 

そこに現れた、一人の金髪の男の登場によって

 

 

「やっぱりっ! 奥寺じゃねえかよ! 久しぶりだなおいっ」

「………え」

 

突然のことに、日菜の目は大きく見開かれる。

 

「お、可愛いじゃん。奥寺の彼女? ちょっとちょっと、紹介してくれ―――――って、わあったよ。そんな目で見なくてもお邪魔虫は退散するって。じゃあな」

 

その男は、そう言い捨てると、駅のほうに歩いて行った。

 

「……帰ろうか、日菜」

 

それを確認してから、僕は日菜に声をかける。

 

「………」

 

日菜から返事はなかった。

 

「ねえ、ほんとなの?」

 

代わりに返ってきたのは、まるで縋るかのような弱々しい声だった。

 

「一君が……奥寺って」

「………もしそうだったら? 名前が何だっていうんだ? 名前が何であろうと、僕は僕だ」

「ッ!」

 

ついにこの時が来たかと思いつつも答える僕のその言葉に、日菜は僕から遠ざかるように後ずさる。

その表情にあるのは絶望に満ちたような感情だった。

 

「あたしを……騙してたんだ」

「日菜?」

 

そんな彼女の表情から、徐々に別の感情が現れつつあった。

それはきっと、”怒り”だ。

 

「やっぱり、サイテ―だ………」

「ち、ちょっと……いきなりどうしたんだよ?」

 

彼女の様子の変化に戸惑う僕をしり目に、日菜から返ってきたのは

 

「話しかけないで」

 

冷たい言葉だった。

そして、日菜は冷たいまなざしを向けたまま、こう言い放った。

 

 

「あたし達、別れよ」

 

その言葉は、先ほどまで聞こえていた喧騒を一瞬で遠ざけるほど、僕の体に重くのしかかってきた。

僕に別れを告げて去って行く彼女の背中を、僕は言葉も出ずにただただ呆然と見送ることしかできなかった。

こうして、僕と日菜との夢の時間は終わった。

 

 

第7章、完




この展開を予想できた読者の方はいらっしゃったのでしょうか?
そんな疑問を抱くほどの急展開です。

そして、色々なところに伏線が散りばめられていたという……
それでは、次章予告を。

―――

一樹と日菜が別れ、決定的な歪みが生じる。
その歪みは徐々に大きくなり、やがて崩壊の道へと歩み始めようとしていた。
事態の解決のために、彼らが動き始めるのだが……

次回、第8章『From dreams to reality』
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