残すところあと2話……あっという間でしたが、今から楽しみで仕方ありません。
それでは、本篇をどうぞ
「黒幕は、一樹だ」
「………はい?」
聡志の口から出たその人物の名前に、最初に反応したのは紗夜だった。
「た、田中君。冗談は辞めてよ~」
「そ、そうですよ。そんなことをすれば美竹君自身がつらい思いをするはずですよ。そんなことは普通しませんって」
彩と麻弥は苦笑しながら聡志の言葉を否定する。
「それに、美竹君はあだ名のことは知っていたのよね? なら、あなたの出した条件には当てはまらないのでは?」
さらに、千聖が聡志の言葉の矛盾点をついてくる。
「だから言ったはずだ。一樹は、そのあだ名を嫌っていた。もしかしたら、その理由かもしくは別の思惑があって、あえて使わなかったのだとすればどうだ?」
「それはそうだけど……でも、目的は何なの?」
「そのカギを握ってるのは、白鷺……お前だ」
彩の問いに答えた聡志の言葉に、その場にいた全員が千聖のほうへと顔を向ける。
「私?」
「白鷺さん。夏休みが終わる前に、一樹を呼び出してるよな? あれは一体どう説明するんだ?」
「あ、あれは……SNSで日菜ちゃんと美竹君が写っている写真が掲載されていたのよ。それで、私は美竹君に慎重に行動するように釘を刺しただけよ。なにも変なことは言ってないわ」
聡志や啓介から投げかけられる疑問に、その時のことを話す千聖の言葉に嘘偽りはない。
それが分かった二人は、それ以上問いかけることはなかった。
「もし、一樹がそう解釈せずに”別れなさい”という風に解釈したとしたら……辻褄は合うはずだ」
「デートが終わった後でのそれも、あだ名を使うよりも名字を使ったほうが相手に伝わりやすい……そういうことですね」
聡志の言葉を引き継ぐ形で紗夜がまとめる。
だが、そこで異論を唱える者がいた。
「でも、それなら直接本人に言ったほうが早いと思うんですが……どうしてこのように回りくどいことを?」
「ダイレクトに言えば、氷川妹は理由を聞いてくる。下手な理由を言っても、本人が納得する保証はない。かといって変なことを言えば、Pastel*Palettesにも影響が及ぶことになる」
「一樹は前々から、パスパレは爆弾のようなものだと言っていた。パスパレがごたごたして自分たちへダメージが及ぶのを恐れたのかもしれない」
麻弥の疑問に答える聡志の言葉に続いて、啓介が口を開く。
それは、一樹が最初のころに言っていた彼女たちに対する感想でもあった。
「随分な言われようね」
「で、でもあの頃はそう言われても仕方がなかったから……ね」
啓介の口にした一樹の言葉に、千聖や彩たちは何とも言えない表情を浮かべるしかなかった。
「じゃあ、あたしを脅していつも通りに接しろって言ったのは?」
「脅してっていうのは穏やかな言葉じゃないが、今は置いとくとして……おそらくだが、別れた後の寂しさから出たものじゃねえか?」
聡志の言葉に、重苦しい雰囲気に包まれる。
「とりあえず、氷川妹は一樹と話をしなければ始まらない。なに、一樹はきっと答えてくれるはずだ。後のメンバーは……啓介、例の物を」
「ああ」
聡志に促らされて、カバンから取り出したのは、一枚の紙だった。
それを彩のほうに差し出す。
「これって……歌詞!?」
「一樹のかばんに入ってたのを、持ってきた。一樹はライブをあきらめていない。むしろ、ライブを成功させようとしている。だから俺たちにできるのは」
「美竹君が戻ってきた時のために、練習をする……だね」
こうして、各々の方針は決まった。
彩や麻弥たちはライブの曲の練習を。
日菜は一樹との関係の修復をするという方向で。
そうと決まれば、すべては早かった。
この場にいる者の誰一人として、早々に決着がつく。
そう思って疑わなかった。
だが……
「日菜ちゃん、今日は?」
「……」
三日ほど経ったこの日、レッスンスタジオに練習のために集まっていた日菜たちだったが、その表情はあまり芳しくなかった。
「一樹の奴、明らかに氷川妹を避けてるぞ」
「聡志ッ」
はっきりと口にする聡志に、明美が咎める。
そう、ここ数日ほど何度も一樹に話しかけようとした日菜だったが、そのどれもが失敗に終わっている。
『ごめん、今忙しいから後にして』
ある時は、ノートと睨めっこをしながらそう言われ。
『かずく――『ごめん、電話だ』――ぅ』
またある時は電話でどこかに行ってしまい。
等々、一樹と話をする機会がなかなかできないのだ。
「おい、松原はどうなってるんだ?」
「ダメ。話を聞こうとするんだけどはぐらかされちゃって」
裕美のほうに話を振って花音との話し合いの結果を聞くが、こちらもあまり芳しくはなかった。
「どう考えても、松原の存在がこの状況を混沌とさせていやがる。一体何が起こってるんだ?」
「……一君は」
謎を解き明かしても、複雑になってしまったこの状況にいら立ちを隠せない聡志に、日菜は静かに口を開く。
「もしかしたら、一君はあたしのことなんて嫌いになっちゃって、花音ちゃんのことが好きになっちゃったのかもしれない」
(確かに、花音ちゃん一樹君のことが好きだって言ってたけど……)
友人であるはずの裕美たちですら花音のことが分からなくなってしまっていた。
だが
「それはない」
ただ一人、聡志だけは違った。
「一樹は、好きでもないやつのことを守ろうとはしない」
聡志は、自信満々に断言したのだ。
「それって、どういうことかしら?」
「一樹は、反日菜グループの残党を根絶やしにした。それが、俺たちがこの真相を明らかにするきっかけにもなったんだ」
反日菜グループの主要メンバーでもある香苗の暗躍を、一樹が察知したことによって、彼女たちは一掃されたのだ。
そのことが、聡志が一樹は日菜のことを好きであるということの証拠だと信じて疑わなかったのだ。
「でも……もう私何を信じていいのか分かんないよっ」
「日菜ちゃん……」
だがそんな強い確信も、日菜の前では皆無に等しかった。
この時日菜は、何を信じればいいのかが、全く分からなくなってしまったのだ。
そんな日菜を、彩たちはただ見ていることしかできなかった。
「よし。だったら、試してみようじゃないか!」
啓介が声を上げるまでは。
「一樹が、誰のことが好きなのかっていうのをさっ!」
そして、作戦が練り始められるのであった。
誤字報告をしていただけることがうれしい反面、申し訳ない気持ちもあったりします。
気を付けても減らない誤字ですが、いつか誤字の発生率が0になるようにしていきたいと思います。
さて、次回から『真相編』に入りますが、もしかしたら次の投稿は日曜日になりそうです。
一か月ほど続いた毎日投稿も、終わる時はあっけないなと思う今日この頃です。