『氷川日菜を預かった。無事に解放してほしければ、今から言う場所へ一時間以内に、一人で来い。他の人間を連れてくれば、人質の命はない』
僕が日菜からの電話に出ると、言いたいことを一方的に伝えて電話は切られた。
(どういうことだ? これは……)
電話が切られてもなお、僕は混乱していた。
色々な可能性が考えられる。
一つは狂言。
何らかの目的で、このようなことを仕組んでいるという可能性。
次が、反日菜グループの報復。
反日菜グループは、僕の手で壊滅させることに成功した。
だが、もし僕の把握していないメンバーがいれば、報復の可能性も十分考えらえる。
そして最後が、第三勢力による可能性。
いずれにせよ、判断を下すのに情報が少なすぎる。
声は何らかの機械で変えられていて、相手が男かどうかもわからない。
(どうするか……は、考えるまでもないか)
僕の中では、すでに結論は出ていた。
僕の結論は、”上等”だった。
どのようなことだろうと、乗りこむつもりだ。
「一樹君、どうしたの?」
「ごめん、ちょっと用事ができたから行けなくなった」
いつまでたっても戻ってこない僕を不審に思ったのか、様子を見に来た花音さんに、一緒に行けないことを伝える。
「………ねえ、一樹君は日菜ちゃんのこと――」
「……好きだよ」
花音さんのそれは、答えを知っていたうえでの確認にも思えた。
だからこそ、僕も正直に自分の本心を答えた。
「そっか……皆には私から説明しておくから、行って」
一瞬見せた暗い表情の真意は、きっと僕にはわかることができないほど、色々な感情が込められているのだと思う。
でも、最終的には花音さんは僕の背中を押してくれた。
「パレード、日菜ちゃん
僕は花音さんに頷いて答えると、相手から指定された場所に向かって走り出すのであった。
後ろのほうで聞える『ふぇぇぇ』という花音さんの声を聴きながら。
「ここか」
時間にしておよそ40分。
指定された場所にたどり着いた僕は、その場所にある物を息を整えながら見る。
そこは何かの工場だったと思わえる場所だった。
コンクリート製のその建物は1階建てだが、やや大きい印象を受ける。
(人の気配は……ないか)
注意深く敷地内を見渡すが、人の姿はおろか気配もない。
(ということは、やはりあの建物の中か)
僕は不意打ちを防ぐべく、周囲を警戒しながらも敷地内に足を踏み入れると建物に向かって足を進める。
心臓がこれでもかというほどに強く脈打つのを感じながらも、僕は建物の入り口まで近づくと、開いているドアから中の様子をうかがう。
(誰もいない)
見える範囲ではあるが、人の気配が感じられない。
僕は恐る恐る中に足を踏みいれる。
工場内には様々な工具などが置かれており、稼働していた時の様子が伺い知ることができる。
中はかなり広く、死角もかなり多そうだ。
『待っていた。約束通りよく来た』
「……っ」
中の様子を確認している僕に、どこからともなく声がかけられる。
慌ててあたりを見渡すが、やはり人の姿はどこにもない。
声も、先ほどの電話と同じく、何かの機械で変えられているので、性別もわからない。
「日菜はどこにいる?」
『氷川日菜は、私の横にいる』
「約束通り一人で来た。彼女を解放しろ」
僕は、犯人に彼女の解放を要求する。
相手の姿は依然として見えない。
『彼女は私の要求を呑めば解放しよう』
「何?」
『お前の目の前の台に置いてある物を確認しろ』
(やはり、犯人はこの場にいるのか)
どうやってかは知らないが、どこかで僕の動きを見ているようだ。
そうでなければ、”目の前”等とは言えないはずなのだ。
だが、やはり人の姿が見えないことから、僕からは見えない場所か、何らかの方法で僕の様子を見ているのだろうと考えながらも、僕は言われた通り台の前に移動するとそこに置かれたものを見る。
(斧?)
それは、何の変哲もない大きなのこぎりだった。
『その斧で、お前の右手を切り落とせ』
「なッ!?」
犯人からの要求に、僕は思わず声を上げる。
犯人が要求した内容は、もはや自害しろと言ってるも等しいことだ。
『切り落としたのを確認したら、氷川日菜を解放する。ちなみに、制限時間は5分だ。1秒でも過ぎれば氷川日菜の命はない』
さらに、犯人から出されたタイムリミットの存在が、僕の思考を妨害してくる。
どこからともなく聞こえる、カウントも焦りを生み出すのに十分だった。
(腕を切り落とせば、間違いなく僕はただでは済まないな)
もしかしたら、助かるのかもしれないが可能性は限りなくゼロに近い。
とはいえ、日菜の身に危害が加えられることは避けたい。
(どうする? 何か、打開の策は……)
僕は、視線を動かして辺りを見渡すが、この状況を打開できるような策は見つからない。
そもそも、相手の姿が見えない時点でどうしようもないのだ。
要するに僕は、詰んでいるのだ。
『残り1分30秒』
そして、どんどんと迫るタイムリミット。
(こうなったらっ)
僕はそこで、覚悟を決めた。
僕の出した答えは、日菜を助けること。
例え僕自身がどうなろうとも、だ。
斧の取っ手部分を手にした僕は、それをゆっくりと持ち上げる。
僕は自信の右手を台の上に置くと斧の刃の部分を右手の真上に、動かした。
(行くぞ……)
僕は一度深呼吸をすると、目を閉じる。
「一君っ!!!」
そして、左手にある斧を思いっきり右手に向けて振り下ろそうとした瞬間、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。
早速のご協力ありがとうございます。
アンケートの期限ですが、『本作が完結した日の23:59分まで』とさせていただきます。
そして、さらに皆様にお知らせがございます。
本作の最終話があんまりだというご指摘があり、それに対して対応を検討させていただくと明言させていただきましたが、この度その対応が決まりましたので、お知らせいたします。
日菜ルートが終了し次第、本作の最終話から、続編の最初の話までの期間の物語を、本作にて執筆させていただきます。
章名は『Episode.0』です。
なぜ、Moonlight Gloryが活動停止処分になったのかを中心に物語は進んでいきます。
おそらくですが、こちらの話が終わったのとほぼ同じタイミングで続編の投稿が始まると思います。
楽しみにしていただければ幸いです。
それでは、また次回お会いしましょう
新作で、読みたいバンドは、どれでしょうか?
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ハロー、ハッピーワールド