ストーリーはすべて開放はできているものの称号をもらうのに程遠い状態。
いい加減『新人マスター』以外の称号にしたいなーと思ってみたり。
それはともかく、第29話になります。
連休三日目。
天気は快晴で、何一つ問題など見当たらない良い日だ。
暑くもなく寒くもないのがこの季節のいいところである。
そんな日に、僕は待ち合わせ場所である駅前の広場で松原さんが来るのを待っていた。
(財布も持ったしスマホも持った。これだけで十分)
スマホさえあれば迷子になった際の救助も容易にできる。
「奥……美竹君!」
「おはよう、松原さん」
少し待つかと思ったけど、それほど待たずして松原さんが駆け寄ってくる。
(いい加減、僕の名前に慣れてほしいんだけど)
時おり旧姓で呼ぶ時があり、呼ばれると複雑な気持ちになるので、あまり呼んでほしくなかったりもする。
「ごめんね、待った?」
「いや。ついさっき来たところだから」
変に申し訳なく思われてもあれなので、僕は今来たというが、本当は数分ほど待っていたりする。
まあ、どの位の時間までがついさっきにあたるのかなんて細かいことを気にする人でなければ、さほど問題はない。
「そ、それでね。私の格好……どうかな?」
顔を赤くする彼女は俯きながら僕のほうをチラチラ見てくる。
松原さんの服装はピンク色のシャツに青色のスカートという物だった。
「別に変じゃないけど」
「あう……よかった」
なんだか今残念そうな声を出したような気がする。
(もしかして、聞きたいのはそれじゃなくて、別のことか?)
「あと、とても似合っててかわいいよ」
付け加えるように言ってみたが、やはり余計だったかなと心配していると
「かわっ!? ~~~っ」
これが漫画とかであれば、”ポン”っという効果音と頭から湯気のようなものが出ていそうな勢いで、松原さんは顔を赤くしていた。
「もしかして、何か失礼なことを言ったかな?」
「う、ううん。そうじゃないよ。あの、ありがとね。美竹君も、恰好いいよ」
最後のほうはかなり小さな声だったけど、辛うじて聞き取れた僕は、ありがとうと返した。
(今更だけど、これってまるでカップルのデートを始める前にやり取りだな)
駅前の広場ということもあって、周囲では待ち合わせをする人たちが多くいる。
その中にはむろん、カップルの姿もあるが、その人たちもまた僕たちがしたような会話のやり取りをしている。
(ま、あまり考えないようにしとくか)
僕に気でもあるんじゃないかと思うのは、さすがに自惚れすぎだ。
そう結論付けた僕は、話題を変えることにした。
「そういえば、もう一人は?」
「千聖ちゃんだったら――「花音!」――あ、来たみたい」
松原さんの言葉を遮るようにこちらに駆け寄ってきたのは、かわいらしい帽子にサングラスをつけた少女だった。
「ごめんなさい、待ったかしら?」
「ううん。今来たところだよ」
本当に二人は友達なんだなと今のやり取りだけでわかるほど、仲がよさそうな感じだった。
それはもう、僕の入り込む場所がないくらい。
「それで、この人が?」
「うん。お……美竹君だよ」
「美竹 一樹です。よろしくお願いします」
”チサト”と呼ばれた少女が話を振ってきたので、僕は自分の名前を口にする。
(この人、周りに気を配れてる)
自然な動作で僕に話を振るのは僕も見習いたいほど自然なものだった。
「ふふ。私は白鷺 千聖と言います。よろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
人当たりのいい笑みで名前を言う白鷺さんはこちらに手を差し出す。
その意図を組んで、僕も手を出すと握手を交わした。
(すごく緊張する)
そういえば、中井さんや森本さん以外の異性と握手を交わすなんてことは、なかったような気がする。
……抱きつかれたことはあったけど。
「あの、一つだけ聞いていいですか?」
「構いませんよ」
とりあえず、お許しを得た僕は、気になることを聞いてみる。
「どうして帽子とサングラスを? なんだかテレビに出てくるお忍びの芸能人みたいで気になってたんです」
白鷺さんの姿は、前にワイドショーで記者の人に追い回されていた芸能人の人の姿を彷彿とさせる格好だ。
そんな疑問を投げかけた僕に、白鷺さんは無言だったが、何となく驚いているような感じがした。
「えっと、もしかしてまだ気づいていないのかしら?」
「へ?」
「あのね、千聖ちゃんはね”まるで”じゃなくて本当に芸能人なんだよ。元子役のって言えばいいのかな?」
首をかしげている僕に説明をしてくれる松原さんだが、そう言われれば、そんな名前を聞いたような気がする。
「なるほど、それは失礼。あまりそういったことに詳しくないので」
「いいえ、構わないわよ」
怒られると思ったのだが、普通の態度が少し意外だった。
芸能人ともなれば、みんなが知っていてもおかしくはない。
もちろん、一概にそうだとは言えないけれどそれでも、自分のことを知らないと言われれば傷ついたり怒ったりしそうだと思っていたのだが、どうもそうではないようだ。
「それじゃ、そろそろ移動しません? このままだと日が暮れますよ?」
「そうね。それじゃ、行きましょう」
(やっぱり、警戒されてるか)
「それで、今日はどこに? 離れた場所にある喫茶店っていうのは松原さんから聞いてるんだけど」
何とかして、警戒を解かないといけないなと思いつつ、今日集まった目的である喫茶店の場所を聞く。
「ここから三駅も隣の駅前にできたそうよ」
(”も”って……)
たった三駅しか離れていないのに、大げさではとも思うが、白鷺さんの顔は緊張によるものか、少しこわばっているようにも見える。
とりあえず、その場所の駅への行き方をスマホで調べる。
「えっと、今から5分後に出る各駅停車の電車に乗ればいいみたい」
「各駅停車……行きましょう、美竹さん、花音」
「うん。千聖ちゃん」
あまり時間もないため、僕たちは速足で駅のほうに向かって歩き出す。
「「松原さん(花音)、そっちは反対だ(よ)」」
「ふぇぇ!?」
(本当に大丈夫か?)
反対の方向に歩きだす松原さんを見ていると、少しだけ不安に思ってしまう。
こうして、僕たちの喫茶店巡りの旅が始まるのであった。
ということで、まだまだこの話は続きます