氷川家に泊まって数日が経過した。
あの日……あの夜にかわした誓いは決して破ってはいけない誓いとして、僕は忘れてはいない。
(あの後は大変だったな)
思い出すのは、朝のこと。
日菜は日菜で恥ずかしがって目をそらすし、紗夜は紗夜で何かを察したのか長々とお説教を受けてしまうし。
それでも、最後に祝福の言葉をもらえたのは、幸いだったのかもしれない。
ちなみに、白鷺さんが問題視したSNSの写真だが、実はあれには続きがあり
『でも、一樹と日菜は友人だって言ってたけどなっ』
という、投稿者本人の文章があったのだ。
『テレビの日菜ちゃんとプライベートの日菜ちゃんも同じ感じだし、ああなるのも納得だ』
『うらやましいな、コンチキショウ!』
という返信が続いていた。
これもそれも、少し前に僕たちが出演した『お昼の時間』で僕が口にした内容のおかげだ。
あの時は、日菜の好きなものをおごらされるという悲劇に見舞われたが。
あれは、スキンシップが多い彼女によって、余計なトラブルを避けるべく講じたものだったのだが、意外なところでうまく作用しているようだった。
とはいえ、それも万能ではない。
決定的な場面を目撃されれば、言い逃れはできないのだ。
(だから、気は引き締めないとな)
僕は、自分にそう戒めた。
「それじゃ、彩ちゃん音頭とってー」
「え? 私!? え、えっと……ライブ成功おめでとう! キャンパーイ!」
日菜のふりで行われた丸山さんの温度で、その場にいた人が全員グラスを掲げる。
「あははっ、彩ちゃんまたとちった」
「日菜ちゃんお願いだから、言わないでよ~」
丸山さんについては……もはや言うまい。
今日は、合同ライブ成功を祝してパーティーを開いたのだ。
会場は、羽沢珈琲店が快く協力をしてくれたおかげで抑えることができた。
みんなも、とても楽し気だ。
「って、ちょっと待った!」
「んあ? どうした、一樹」
僕は、反応した田中君にある疑問を口にする。
「花音さんとかならわかるんだ、なんで彼女たちがここに!?」
そういって指示したところにいるのは……
「うわぁ~! つぐのお店の新作ケーキだよっ」
「おー、またひーちゃんは、ダイエットコースですな~」
「あははっ、二人は相変わらずだな~☆ ゆーきな! どれがいい?」
「そうね……それじゃ、私は抹茶ケーキを頂くわ」
そこには、RoseliaのメンバーとAfterglowのメンバーが全員集まっていたのだ。
しかも、それぞれが楽しんでいた。
「いや、仲間外れはかわいそうじゃん? だから呼んだのよ」
「お願いだから勘弁してっ」
さらっと言ってくれる森本さんに、僕は頭を抱える。
「あの、どうして一樹さん、あんな感じなんですか?」
「あー、ここのパーティーの経費はすべてあいつ持ちなんだよ」
僕の様子に気づいたひまりさんの疑問に、田中君が答えるが、まさしくその通りなのだ。
これの経緯は単純なもので、あのライブの後丸山さんに土下座で謝り続ける僕とそんな僕に困惑しながら求めようとする丸山さんという謎の光景が繰り広げられていた。
そんな時、白鷺さんの『だったら、彩ちゃんのお願いを聞くのはどうかしら?』という助言によって、事態は変わって行った。
丸山さんの願いは『みんなでお祝いがしたい』ということだったので、ここを貸し切る費用や食材などの代金をすべて僕が支払うことで今回のパーティーを開いたのだ。
「はは……ここ数日で二桁のお金が無くなったよ」
「えっと……それって、円とかじゃないよね?」
僕のから笑いですべてを察したリサさんの問いに、僕は無言で頷いた。
「ま、まあそんなことは置いといて、今日はパーッと騒ごう! せっかくのパーティーなんだからさっ」
店内の空気が重苦しくなる中、啓介はわざと大きな声を上げて盛り上げようとした。
そのおかげで、少しずつだが重苦しい空気はなくなっていき、楽しげな雰囲気に変わって行った。
(ありがと、啓介)
気遣ってほしいわけでも同情してほしいわけでもなく、僕が一番必要なのはこのパーティーで盛り上がってくれることだ。
(そうじゃないと数十万の出費が無駄になるし)
ちなみに、この数十万の出費の内訳はこうだ。
ライブに向けたレッスン(練習)を無断で休んだ(入院中に関してはカウントしていないらしい)ペナルティーで来月の給料を4割程カット。
事務所の備品でもあるドラムを傷つけたことへの弁償で数十万。
最後がここのパーティ代で約数万円ほど。
ものの見事に無給が確定した瞬間だった。
(まあ、自業自得だから、甘んじて受け入れるしかないけどね)
「一樹君。この紅茶とてもおいしいよ」
そんなことを考えていると、素っと僕の隣に来た花音さんが、紅茶を勧めてくれる。
「か、一君! 紅茶よりもこのケーキとってもるんっ♪ てするから、食べてみて!」
「むー……」
「えっと……二人とも?」
花音さんがいる場所の反対側にやってきた日菜がケーキを進めてきたことで、日菜と花音さんがにらみ合い始めた。
なんだか、火花が散っているような気がするのだが、気のせいだと思いたい。
「日菜ちゃん、最初に声をかけたのは私だよ? 順番は守ろうね」
「それを言うんだったら花音ちゃんだって! あたしは一君の彼女だもん! 何よりも優先されるんだよ!」
「あの、二人とも言い争うのは……って、聞いてないね」
そして、何やら言い争いを始めた二人を止めようと声をかけるが、全く聞こえていないようなので、僕は早々にあきらめた。
(あ、日菜が持ってきてくれたケーキおいしい)
とりあえず、日菜が進めてくれたケーキに舌鼓を打つ。
「そこで現実逃避している幸せ者」
「逃避はしていないよ。ただ、ケーキを食べていただけ」
「それはいいんだけどさ、止めなくていいのか? あれ」
まるで逃げていると言わんばかりの田中君の言葉に、僕は反論するが、当の田中君は僕の後ろ……花音さんたちのほうを指さすとそう聞いてきたので、改めて見ないようにしていた日菜たちのほうに視線を向ける。
「じ、じゃあ! 私は怖い人に囲まれているときに、一樹君に助けてもらったことがあるんだよ!」
「そんなの、私だって、いじめられた時に助けてくれたよ!」
そこで繰り広げられていたのは、理解に苦しむ言い合いだった。
「何あれ?」
「なんだか、どっちがお前の特別なのかっていうらしいけど。付き合ってらんねえや」
心底呆れた口調で言いながらっ田中君はその場を離れて行った。
気持ちはなんとなくわかる。
「じゃあ、私は一君とキスしたことだってあるんだから!」
「そ、それは私もだよ!」
(これ、止めたほうがいいよね)
なんだか、どんどんと恥ずかしいことを暴露され始めているし。
「あぁ、あの花音がどんどん汚されて……」
「うわぁ!? チサトさんしっかりしてください!」
しかも、関係ない場所にまで被害が拡大してるし。
「だったら、私なんてこの間の夜、一君と―――もごぉ!!」
「はいストップ!! 何を言おうとしたかは知らないけど、それ以上はダメっ!!!」
僕にとっては最凶の爆弾発言をしようとした日菜の口を思いっきり塞いだことで、何とか防ぐことができた。
あんなことを暴露されたらもう外を歩けなくなる。
とはいえ、数人程悟ってしまったのか、顔を赤らめて視線をそらされることになったけど。
そんなこんなで、ドタバタしながらもパーティーは続き、無事に終わりを告げるのであった。
「ぷぅ……」
「まだ、膨れてるの?」
「だって、花音ちゃんが……」
パーティ―も終わり後片付けが終わるまで残ってくれていた日菜とともに帰路についているが、先ほどからご機嫌斜めだ。
「大体、日菜は僕の恋人でしょ? それ以上でも以下でもない。花音さんは親友だし」
「それは分かってるけど……」
日菜の気持ちもわからなくはない。
自分の居場所を奪われるというのは、僕の想像をはるかに超えるほどの恐怖でもあるのだから。
「ぁ……えへへ」
だから、僕は日菜と腕を絡める。
外でこのようなことをするのは恥ずかしいが、それでも日菜の笑顔を見ることができるのであれば、そんなものは吹っ飛んでしまうのだ。
「ねえ、一君」
「何?」
僕を読んだ日菜の表情は
「あたし一君のこと」
とても笑顔で
「だーい好き!」
輝いていた。
「うん僕もだよ」
彼女に僕は静かに笑みを浮かべながらそう返す。
日菜と一緒にいる人生は、きっと毎日が騒がしく、振り回されたりするかもしれない。
それでも、きっと……彼女と一緒にいれば楽しい未来を紡いでいける。
僕は彼女の溢れんばかりの笑みを見ながらそう感じるのであった。
完
ということで、今回の話を持ちまして、日菜ルートは完結となりました!
感想を書いてくださった方、評価をしていただいた方、何より本作を読んでいただいた読者の皆様に、お礼を申し上げます。
本作に関する裏話的な内容を活動報告で掲載しておりますので、興味のあるかたや、お時間がある時などに読んでいただけると幸いです。
今後についてですが、次回から前にお伝えいたしました『Episode.0~隣を歩むまで~』が始まります。
この話は、紗夜ルートの後の『最終部』の最終話の続きとなります。
日菜ルートとの互換性はございませんので、ご注意ください。
それでは、本作最後の次章予告をば。
―――
海外ライブをギターの破損と引き換えに成功させた一樹たちは、帰国後も再びステージに立つべく抗い続けていた。
そんな中、彼らのもとにある電話がかかってくる。
次回、Episode.0~隣を歩むまで~
新作で、読みたいバンドは、どれでしょうか?
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Poppin'Party
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Pastel*Palettes
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Roselia
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After glow
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ハロー、ハッピーワールド