内容はシリアス一色ですが、どうぞ、お楽しみください。
Ep:1
海外ライブツアーを終え日本に戻った僕たち。
ライブの評価はどこも上々で、成功間違いなしだった。
とはいえ、その代償は大きく、僕はこれまでどんな時も共にステージを共にしていた相棒でもあるギターを失ってしまった。
それでも、直せば何とかなる。
僕はそう信じていたのだ。
「一樹さん……残念ですが」
「そうですか」
申し訳なさそうに口を開く相原さんの言葉で、僕は何もかもを察してしまった。
(これで、何回目だろう)
年末年始と、相原さんが懸命に様々な楽器の修理業者をあたってくれているが、そのどこの業者もギターの状態を知って同じ回答を出している。
『修復不可』という残酷な結果を。
BanG Dream!~隣の天才~ Episode.0『隣を歩むまで』
初めて知ったのだが僕のギターは、市販されているような楽器ではなく、オーダーメイドで作られた逸品らしい。
故に、修復しようにも必要なパーツで合うのがないため、できないらしい。
もちろん、修理を強行することもできるが、その場合元の音は失われる。
それがすべての業者から修理不可をもらった要因だった。
「それじゃ、私はこれで。お疲れ様です」
「あ、はい。お疲れさまでした」
今でも、壊れたギターは僕のもとにある。
新しいギターを買えばいいのかもしれないが、僕はこのギターがいいのだ。
(だって、このギターは僕が最初に手にしたものなんだから)
ギターに振り回されて、心を折りかけたことも数えきれないほどあった。
それでも、このギターを思うように音を奏でられるようになった時の喜びは、そのすべての苦痛を吹き飛ばすほどの物だったことも覚えている。
(だから、絶対にあきらめない!)
この時僕は燃えていた。
★ ★ ★ ★ ★ ★
日の光が入らないからか、薄暗いその場所にいたのは、一人の人物だった。
「それは本当か?」
電話で話しているであろうその人物は、電話先の言葉を受けて驚きをあらわにする。
「よぉし、その物こっちに回しな。失ったギターの命……この俺が蘇らせてやらぁ!」
軽快に言い切ったその人物……男性の口元は、微笑んでいるようにも見えた。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「で、ダメだったと」
学園も始まり、いつも通りの日常が戻ってきた中、僕は田中君たちに事の経緯を説明していた。
「それで、僕個人で探してみようとおもんだ」
「探すといったって、事務所で調べても駄目だったんなら、結果は変わらないんじゃねえか?」
確かに、田中君の言うとおりだ。
現に相原さんが聞いてくれた業者は、どこも名のしれた場所で、腕がいいと評判のところばかりだ。
そのすべてがだめだったのだから、ほかの業者をあたったところで、結果は見えている。
それよりは、新しい楽器を買ってリスタートを切ったほうがよほどいい。
田中君の主張は分かるし、理解もしている。
それでも
「できることすべてやってみたい。例え無駄だったとしても」
「一樹………わかった。こうなったら俺も力貸してやる!」
僕の気持ちを汲み取ってくれた田中君の心強い言葉に、僕は感謝の気持ちを伝えた。
そんな時だった。
「あれ、電話だ」
僕のもとに一本の電話がかかってきた。
相手は中井さん。
「もしもし」
『あ、一樹君!? 実はね、今―――』
慌てた様子で用件を話す中井さんの言葉に僕は一つの希望の光を見出した。
放課後、紗夜は委員会のほうでやることがあるので、返るのが少し遅くなるらしく、時間に余裕ができたのである場所に向かうことにした。
そこは、最寄駅から路面電車に揺られること数分の場所にある一点のお店だった。
(ここが、その修理業者か)
朝、中井さんから伝えられたのは、僕のギターの修理を引き受けてもいいという連絡があったという内容だった。
中井さんはおじさんからそのことを伝えられたらしく、色々とわからない点が多いのだが、とりあえず行ってみるだけ行ってみようということで、訪れることにしたのだ。
そのお店の名前は『木漏れ日工房』だった。
「すみません」
木製のドアを開けると、チリンチリンとドアに取り付けてあるベルが心地よい音を奏でる。
そこは、少々薄暗い物の中々に渋みを感じさせる雰囲気のいいお店だった。
「いらっしゃい。待ってたぞ」
僕の声に反応して、一人の男性がカウンターから姿を現す。
その男性はまるで熊をほうふつとさせるオーラを放っており、田中君の父親とためを張れるような気がした。
「早速だが、ギターを見させてもらえるかい?」
「あ、はい」
僕は促されるまま持ってきていたギターケースを店主に手渡す。
受け取った店主は、足早にカウンターに移動するとギターケースからギターを取り出して状態を確認し始めた。
そこから、どれくらいの時間が経ったのか……僕にとってはかなり長い時間が経過したようにも思えたが、確認を終えた店主が、静かに口を開く。
「これなら、修理できますな」
「え……本当ですか!?」
店主の言葉に、僕は思わず前のめりになって問いただしてしまった。
「まあまあ、落ち着きなさい」
そんな僕に、店主は諭すように宥める。
「す、すみません」
「いやいや。よほどこのギターが大切なんだろうな。君と、このギターを見ていれば伝わってくる」
慌てていた自分が恥ずかしかったが、店主の柔らかな口調は、その恥ずかしさを和らげてくれるように思えた。
「修理はできるのだが、少しだけ時間がかかる。複雑に折れているからねぇ。少し調整もしないといけないし」
「ちなみに、どのくらいですか?」
店主の言葉に僕は不安を感じながら店主に尋ねる。
もし年単位だったらどうしようかという不安を感じながら。
「早くて半年……最悪でも1年程度かね」
(よ、良かった)
僕が想像していたのよりも、期間は短かったので、ほっと胸を撫で下ろす。
「どうするかね? 君さえよければ、引き受けるが」
店主が問いかけてくる。
だが、その問いかけの答えなど、最初から決まっていた。
「お願いします!」
「任せなっ」
その時の店主の笑みはとても心強く、根拠もないのに絶対に大丈夫だと確信させるのに十分だった。
こうして、何とか再始動の道筋は建てられた。
当面の間、ギターは予備用の白いギターを使えば十分活動は可能。
(来月あたりから活動を再開させていくか)
多少のトラブルはあったが、長い目で見れば軽い物。
(頑張ろう!)
僕は心機一転、今後に向けてやる気をみなぎらせていた。
あの一件が起こるまでは。
新作で、読みたいバンドは、どれでしょうか?
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Poppin'Party
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Pastel*Palettes
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Roselia
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After glow
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ハロー、ハッピーワールド