事務所を後にした僕たちは、田中君によって羽沢珈琲店に集合をかけていた。
「それで、一体どうしたのよ? いきなり集合なんて」
「ああ、実は―――」
開いている席に腰かけながらも突然の呼び出しに、困惑した様子で聞いてきた森本さん達に、田中君が先ほどの事務所での出来事を説明した。
「そんな……」
「ひどいっ」
「腐ってる」
話を聞き終えた三人は、その内容に唖然としたり、憤ったりと様々な反応を見せた。
(社長のあれ、言っても大丈夫かな)
かん口令は敷かれているものの、信用できる人には話してもいいという感じの言葉は聞いてる。
「一樹、どうするんだよ?」
「え?」
言うタイミングを計っていると、いきなり僕に話が振られてきた。
「だから、この後の身の振り方だ。俺としてはあそこを辞めていいと思うんだが」
田中君の言葉に、みんなが同じ意見なのか頷く。
「僕はちょっとだけ違うかな」
「どういうことだ?」
「まさか、このままいくつもり?」
信じられないと言わんばかりに怪訝そうな表情で異論を言ってくる皆の気持ちもわかる。
というか、僕自身もあそこに執着する理由はないに等しい。
それでも、僕は現状維持という結論を導いたのだ。
「ちょっとだけ、話を聞いてくれる?」
「ああ、いいぞ。好きなだけ話せ。俺たちの納得のいく説明をな」
田中君の言葉の端々に棘があるのを感じながら、僕はあの時の社長との会話をみんなに話し始めるのであった。
「では、話そう」
社長はそう言って一度言葉を区切ったうえで静かに口を開いた。
「現在、我が事務所には二つの派閥が出ている。一つは、私。そしてもう一つが」
「……倉田派、ですか?」
僕の言葉に、無言で頷きつつも社長は窓から外を見ながら再び口を開く。
「倉田派は我が事務所にとって最大の問題児のようなものでね、マイナスにしかならない」
「それでしたら、普通はそういった人物たちを閑職に追いやったり解雇したりしますよね?」
というより、そうしたほうが手っ取り早い。
危険な人は早々に排除しておいたほうが安心感も違ってくる。
「それができんのだよ。法的な問題でね」
それは社長も同じ考えだったようだが、そのようなことをすれば法に触れてしまうのだろう。
要するに、社長は板挟みのよな感じになっていたのだ。
「それに、倉田派は我が事務所の幹部連中にもいるようで、現時点では幹部の半分が倉田派だ」
倉田派を一種の病巣とするのであれば、これはかなり深い部分まで侵食しているようで、社長の苦悩は想像に難くない。
「もしかして、今日会議に出席していた人って……」
「そう、奴らが倉田派の幹部連中だ」
(ということは、社長の目的って……)
そこで僕は頭の中にある疑問が一気に解けた。
「まさか、社長はこれを利用して倉田派を?」
僕の予想に、社長は無言で頷いて肯定した。
社長の目的は、この一件の責任を取らせて倉田派を一掃するというものだった。
だとするならば、僕たちをここに呼び出した意図もくみ取れる。
要は、僕たちは証人なのだ。
倉田派の幹部全員が僕たちの処分について賛同したという証人が。
(とはいえ、残す問題はそれをどうやって大事にするかだけど……)
この処分で倉田派を一掃するのに値するような問題になるのは、その一件が大事にならない限りは無理だ。
「それでしたら社長。私も一つ大暴れしてもいいでしょうか? 先ほどの新田さんの発言、少々心中穏やかでないものがありますので」
新田のこちらを馬鹿にしたような言葉の数々には、田中君と同じくらい憤りを感じていた。
社長の意図が読めた以上、こちらも思いっきり暴れることは、事務所の意に沿わないとは言い切れない。
「……何をする気かは知らんが、構わない。存分に暴れてくれ」
僕の予想通り、社長からのお墨付きを得られた僕は、社長に一礼すると会議室を後にするのであった。
「―――ということなんだ」
「なるほど、そういう裏があったって言うことか」
「事情は分かった。だが、それに俺たちが付き合う理由はない。今の話で、一樹の判断に俺は納得いかない」
僕の話を聞き終え、それぞれがなるほどと言わんばかりに頷いている中、田中君が辛辣な言葉を口にする。
「僕も同意見。事務所がどうなろうと知ったこっちゃない。僕が社長に協力した理由は二つ。一つは”特典”」
僕も田中君と同じ考えだ。
でも、それを凌駕するほどの、理由が存在するのだ。
「特典?」
「今回、僕たちは”社長のお願い”に協力する格好になる。要するに、僕たちは社長に対して貸しを作ることができたって言うことになる。そしてそれは僕たちの発言力を上げる効果も見込める」
中井さんの言葉に頷きながら、僕はそう説明した。
社長自信がどう感じているかは知らないが、今回の一件は貸しになったのは間違いない。
そうなれば、僕の今後にとっても非常に有利な状況になる
「発言力?」
そんな僕の言葉に引っかかったのか復唱するように口を開いた啓介の言葉を受けて、僕は説明を続けた。
「事務所所属でいる限り、僕たちの意に沿わない仕事をさせられる可能性がある。でも、白鷺さんクラスの発言力を手に入れられれば、そういった事態も回避できるし、”我儘”だってできる」
白鷺さんの発言力、存在感はすさまじい。
それは同じ事務所に所属する僕たちでも何度も思い知らされている。
彼女の意向を事務所のスタッフが無視しきれていないのを見ても明らかだ。
例え、彼女の意見が通らなくても、発言力があることに対してメリットが皆無であるとは言い切れないのだ。
「発言力は、実績などによって上げていけるけど、それだと時間がかかる。今回のこの一件を利用して、一気に僕たちの発言力を高めたい。それが、Moonlight Gloryの道が開けることにもなるから」
「そんなことまで考えていたんだ……一樹らしいわね」
どこか呆れたのか,感心したのか複雑そうな表情で感想を漏らした森本さんに、隣に座っていた中井さんも頷いた。
「で、もう一つの理由は?」
「もう一つは、他の事務所を探すのが面倒だからだけど」
「ヲイヲイ」
二つ目の理由に、みんなが一斉にずっこけた。
「どの事務所が信頼に値するかだなんて、素人の僕たちには選ぶのは難しい。だからと言って個人で活動するというのはあまり効率は良くない」
思い出すのは、湊さんの父親の一件。
あの人も、事務所側の一方的な押し付けによって潰されたミュージシャンだ。
あのようなことに、僕たちもなりかねないのだ。
「もちろん、最悪の場合を想定した計画も立てている。皆には信頼に値しそうな事務所をいくつか見繕っていてほしい。幸い、今世間の僕たちへの印象は非常に同情的だ。所属事務所を移行しても、こちらへのダメージは皆無に等しい」
最後に”ただし、誰にも悟られないようにね”と付け加える。
下手に勘繰られたら、色々と面倒になるのは間違いない。
「わかった。色々と伝をあたってみる」
「ま、最悪そうするんなら、俺も異論はねえな」
僕の説明を聞き終えて、みんなの反応は協力的なものになっていた。
そのことに、僕はお礼をの言葉を口にした。
「ところでさ、社長との話に戻るんだけど」
話がまとまりかけたところで、啓介が軽く手を上げながら声を上げた。
「一樹の言う”暴れる”って何をする気なんだ?」
「ああ、あれか」
実のところ、そのままの通りなのだが、あえて具体的に言うのであれば
「僕たちを侮辱したやつにきっちりと落とし前を付けさせてもらうんだよ。民事でね」
「……ははっ、そりゃいいや」
実は、もうすでにある人物に手配しており、僕の希望を伝えている。
そのうえで、先方からは可能である旨の言葉ももらっている。
後は、こちらのゴーサインあるのみなのだ。
こうして、様々な思惑が蠢く中、僕たちへの処分は確定となった。
これが、想定外の事件を引き起こすきっかけになるとも知らずに。
新作で、読みたいバンドは、どれでしょうか?
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Poppin'Party
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Pastel*Palettes
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Roselia
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After glow
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ハロー、ハッピーワールド