色々な意味で恐ろしいです。
この第一部では、オリキャラが中心の話となります。
本作をより楽しんでいただくため、第一部から読まれることが望ましいですが、第二部から読まれても、話の展開についていけなくなることはございません。
よって、オリキャラ中心の話という要素を受け入れられない場合は、第二部よりお読みになられることをお勧めします。
というわけで今回より第一部が始まります。
今回は方向音痴の彼女が登場します。
第3話 日常
「ぅ……」
僕、
いまだにぼーっとしている頭で窓のほうを眺めていると、時計の秒針の動く音が子守歌に聞こえてくる。
「……着替えよ」
そんなくだらないことを切り捨てた僕は、
着替えるのは僕が通う『花咲川学園中等部』の薄い水色を基調とした制服だ。
着替え終えた僕は、教科書などが入った鞄を手に部屋を後にする。
BanG Dream!~隣の天才~ 第一部 1章『雨の降る夜に』
「おはよう」
「あら、今日はちゃんと起きれたのね」
「毎日ちゃんと起きてるって」
からかうような表情の母さん……
僕は別に朝に弱いわけではない。
ただ、音楽のことを考えているとついつい寝るのが遅くなって起きれないだけだ。
しかも、そういうのは月に一回あるかどうかだ。
「父さんは今日も仕事?」
「ええ。今週は帰れそうにないみたい」
父さんはどこかの会社で働くサラリーマンらしい。
らしいというのも、実際のところあまりよく知らないのだ。
とはいえ、父さんは家にいる日が非常に少ない。
一週間留守にするなど当たり前、下手すると月単位で帰ってこれないこともあるほどだ。
さみしい気もするが、父さんのおかげで今の生活ができているのだから、そこはわがままは言えない。
「その代わり、今年の夏休みに、家族旅行の休みがとれたみたいだから楽しみにしてなさい」
「うん。楽しみにしてるよ」
奥寺家では毎年夏休みには、どこかに旅行に行くのが恒例行事となっている。
父さんなりのいつも家にいないことのお詫びなのかもしれない。
(去年は北海道だったっけ。チーズケーキおいしかったな)
「さ、早く食べないと遅れるわよ」
「あ、うん。いただきます」
母さんにせかされるように、僕は両手を合わせると、朝食をとるのであった。
「おはよう!」
「おっす」
「おはよう」
「おはよう、一樹君」
「おう」
僕のあいさつに、啓介、森本さん、中井さん、田中君の順で返事をしてくる。
家を出て少し歩いた先にあるT字路が僕たちの集合場所だ。
僕たちは同じ学園に通っているわけではないので、その分岐点までを一緒に歩く。
僕と同じ場所に通うのは中井さんだけで、それ以外のメンバーは『羽丘学園中等部』に通っている。
「それにしても、まるで夢のようだった」
「まだ言ってんのか、明美」
「あれから一週間以上は経ってるよ?」
僕たちは初挑戦でありながら『FUTURE WORLD FES.』のステージで演奏をした。
それはまさに奇跡のようなものだった。
あれから僕たちの身の回りで変わったことは起こっていない。
それもそのはずだ。
名前も素性もすべてを隠しているのだ。
僕の正体を知る人はそれぞれの両親くらいだ。
そのことに不満はない。
何事も平和が一番だ。
「でも、あれからオファーが大量に来ているらしいじゃん?」
「まあね。全部父さんたちが対応してくれているけど」
変わったことといえば、色々なステージへの演奏依頼だったりテレビへの出演だったり、さらには芸能事務所からの勧誘もあったとか。
(本当に素性を隠していてよかったよ)
そうでなければ今のような生活は到底出来えなかった。
そういう意味では父さんたちに感謝してもしきれない。
「それよりも、僕たちのバンドのことは絶対に他言無用の約束は守ってね」
「もちろんさ」
僕のお願いに森本さんをはじめ、全員が頷く。
これは、僕たちがバンドを結成したときに交わしたもので、どんなことが起こってもそれを破ったりしたこともされたこともないものだ。
だからこそ、みんなを心の底から信じることができるのかもしれない。
「それよりも、皆! もう3年になるのに全然彼女ができないのはなぜだっ!」
『……』
とりあえずこの話題はこれで終わりといわんばかりの啓介からのその質問に、僕たちはまたかとため息を漏らす。
「女子と男子の比率が9:1なのに、この結果はおかしいって」
さて、軽く説明しておくと僕たちが通っているそれぞれの学園は、元々女子高だった。
だが、近年の少子高齢化に伴う生徒数の減少のためにやむなく(かは知らないが)共学化となった。
ただ違うのは、花咲川は共学化が中等部までで、高等部に関しては女子高のままだ。
羽丘は共学化となっている。
そのため、僕は今年でどこか別の学園に行く必要があるのだ。
女子はそのままエスカレータ式で同じ学園に通えるが、こればかりはどうしようもない。
(まあ、一応提携校なら、入試が有利になるみたいだし)
今後の進路を考えると、色々と頭が痛い内容でいっぱいだ。
それはともかくとして、共学化したからといって男子が大勢来るのかといえばそうではない。
下心丸出しの人は当然除外されるだろうし、啓介のように入れたとしても、教室内は女子の結束力という最大の力によって支配されており、そう易々と女子にアプローチなどしかけられるはずがない。
『……性格だろ(ね)(かな)』
「熟考した結果がそれかよ! しかもハモってるし!!」
啓介の鋭いツッコミは今日も健在だ。
だが、全員で同じ答えになるというのは、ある意味啓介らしいと言える。
「ちくしょう! いつか見てろよ! この俺と釣り合う、超美少女と恋人になってお前らの前でいちゃついてやるんだからなっ! そして、周囲の羨ましそうな視線を独り占めだ!」
(啓介も、黙っていれば女子の一人や二人、知り合いが増えるんだけどな)
「……俺は時たま、あれとは無関係になりたいと思うことがある」
「私も、恥ずかしいかな」
白昼の道の真ん中で心の叫びをして走り去っていく啓介は、見事に周囲の人からの冷たい視線を独占していた。
「んじゃ、俺たちはここでな。っと一樹、親父から伝言だ。今日は練習日だから遅れずに来いってさ」
「わかった。またね」
田中君からの伝言を受け取った僕は、二人と別れて花学に向かう。
「――――じゃ」
「ふぇぇ―――――ん」
分かれて少ししたところで、誰かの怒鳴り散らす声に交じって僕たちのよく知る人物の声が聞こえてきた気がした。
(というより、あの口癖って。彼女しかいないよな)
「……? どうしたの、一樹君」
考え込んでいる僕に首をかしげながら声をかけてくる中井さんにそこで待っていてもらうようにお願いすると、声の聞えた方角に走っていく。
少し走った先には、案の定見知った人物がいた。
「あ……あの。ごめんなさい」
おろおろと弱々しくまるで小動物を彷彿とさせる水色の髪の少女と
「だぁかぁらぁ! 謝って済めばポリはいらねえの」
「お詫びに俺たちと一緒にランデブーしようぜー」
彼女に対峙するように、なんだかわけのわからない金髪集団がいた。
作業着を着こむそれは、一昔前のヤンキーを彷彿とさせる。
「そこまでっ」
とりあえず、このまま放っておくのはまずいので、強引に男たちと少女の間に割って入る。
「ぁん?」
「ふぇ?」
「なんだぁ? てめぇ」
彼女に向かっていた視線がすべてこちらに集まる。
(怖っ)
近くから見るとすごい迫力だ。
全員の作業着風の上着の胸元には、六角形のエンブレムと共に『花ヤン』という文字が刻印されていた。
「どういう事情か知りませんけど、女子によってたかって怒鳴りつけるのは卑怯ではないですか?」
「んだとてめぇ!」
僕の指摘にリーゼント風の男が声を荒げる。
(慌てるな。あれはただの見掛け騙しだ。手なんか出せるはずない)
いくら昔風のヤンキーの姿をしているからといって本当に暴力をふるうような連中ではないだろう。
「俺が『花咲ヤンキース』の団長だと知っての言葉か! あぁん」
「だったら、なんだっていうんですか?」
「てめぇの骨を5,6本へし折ってやろうじゃねえか」
(やばい奴だった!)
いくら何でもこの状況はまずい。
目の前の男はすでにやる気満々だ。
(こうなったら彼女だけでも)
「おい! サツだ!」
そんな時、どっかから聞えてきたサイレンの音に、花咲ヤンキースのメンバーはざわめき始める。
おそらくこの光景を見た誰かが通報でもしたのだろう。
「っち。おいガキ。てめぇ、名前は?」
「……奥寺 一樹」
「奥寺だな。おめえの面と名前、覚えたからな。今度会ったら覚悟しとけっ」
そう怒鳴り散らすと、彼らはバイクにまたがって爆音を立てながら走り去っていった。
(とりあえず、何とかなった……か)
ただ、名前を言ったのは間違いだったのではと、今更ながらに後悔するが、手遅れだろう。
「で、大丈夫? 松原さん」
とりあえず、当面の危機は去ったので、後ろに隠れていた少女……
「う、うん。ありがとう、奥寺君っ!」
「っとと?!」
よほど怖かったのか、声をかけたとたんに涙を浮かべながら僕に抱きついてくる彼女の背中を、僕は無言で軽くさすりながら落ち着くのを待つ。
(ものすごく、視線が痛いです)
周囲の好奇のまなざしと、抱きつかれたことへの羞恥心と闘いながら。
リーゼントに作業着を着こんだ暴走族って、何気に絶滅危惧種ではないかと思っていたり(苦笑)
そして、ここで少しばかしお礼をば。
まだ駆け出しの状態の本作に評価や、お気に入り登録をしてくださった読者の皆様には感謝してもしきれません。
これからも皆様に楽しんでいただけるような作品してい期待と思いますので、よろしくお願いします。