リリイベからしばらく経った、2月の上旬のある日。
既に活動停止処分は執行され、僕たちMoonlight Gloryは完全に活動停止状態となっていた。
そんな中、またいつものように蘭とリビングでニュースを見ていた。
『続いては、エンタメです』
いつものように淡々と進んでいくニュース。
そう思っていた。
『まずはこちらです。Moonlight Gloryの活動停止処分の一件で新展開です。先ほど、”Purely Promotion”社長の岡田氏が会見を開きました』
「兄さん」
「うん」
蘭の言葉に頷きながら、僕はニュースに集中する。
テレビ画面には、どこかの会場と思われる場所で会見に応じる社長の姿があった。
『今回の一連の報道により、迷惑をおかけしたすべての皆様や応援していただいているファンの皆様に浮かくお詫びを申し上げます。今回の一連の報道はすべてが事実であり、一連の事件を引き起こした人物達13名を本日付で懲戒免職とし、また私自身も半年間50%の減給とすることといたしました』
どうやら、会見自体は前に開いていたようで、ダイジェスト版のように編集がされていた。
それでも、これが何を意味するのかは十分に理解できる。
「ねえ、兄さん」
「うん。どうやら向こうも筋を通したみたい」
蘭の言わんとすることを察した僕は、そう相槌を打ちながら、携帯でゴーサインを出すのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
同日、夜。
一樹たちが所属する事務所の社長室。
「どういうことですか!!」
そこからは罵声が漏れ聞えていた。
騒いでいるのは新田を筆頭にした倉田派のメンバーだ。
「どうもこうも、その通りだ」
「なぜ、我々が解雇されるんですかっ!!」
何食わぬ顔で社長椅子に腰かけながら答える社長に、新田は再び声を荒げる。
騒動の原因は、社長が彼らに出した懲戒免職解雇の処分だった。
それに対して不服である彼らが、一斉に社長のもとに直談判しに来たのだ。
「なぜ? 貴方方が議題を出し、可決させた”Moonlight Gloryの活動停止処分”によって我が事務所は大きなダメージを被りました。それに対しての責任をお取りいただくという理由では不服と?」
「そ、それは……彼らがすべて悪いんです! 社長、考え直してください! 我々は事務所のためを――」
「それによって、現状両グループともに非常に危うい状態であることは理解されて? 片方は活動停止に、もう片方はオファーが大幅に減っているんだがね」
身勝手な言い分を口にする新田と、それに対して真っ向から反論する社長。
まさに両者ともに、一歩も引かない膠着状態。
そんな状況を打ち破ったのは、ノック音だった。
「どうぞ」
「失礼します。お取込み中でしたか」
社長の声を受けて社長室に足を踏み入れたのは、飯田だ。
「何だね、君はっ」
「もうし遅れました。私弁護士の飯田と申します」
そう言いながら自分の名刺をその場にいた者たちに配っていく。
「弁護士だぁ? はっ、俺たちの弁護をするってことか」
「いいえ。私はMoonlight Gloryのギター、一樹さんの代理としてこちらに来ました」
自分たちの弁護をしてもらえると思った新田が笑みを浮かべるも、飯田は即答で否定すると、手にしていた黒川のかばんを床に置き、中から二通の封筒を取り出した。
「こちらは内容証明です。どうぞ」
「………損害賠償請求!?」
封筒を受け取った新田が中身を確認すると、そこには損害賠償請求の訴えを起こす旨が記された紙に、新田が驚きに満ちた声を上げる。
「請求額は……いッせんまん!?」
「私には五千万か。どういうことかね?」
請求額の多さに開いた口が塞がらない新田をしり目に、社長は冷静に飯田のほうを見ながら問いかける。
「ご説明します。今回、依頼人はお宅で働くスタッフの故意……または過失により、暴漢に襲われミュージシャンにとっては相棒でもある楽器を破壊される被害にあわれました。なおかつ、バンドへの理不尽な処分に対して、依頼人は心身ともに深く傷つかれた。これらのことから、額を割り出させていただきました」
「こ、こんな額は不当だ!!」
「ですから、裁判を行うのですよ」
目を血走らせて声を荒げる新田に対して、飯田は笑みを浮かべながら返した。
そんな半田に、新田の顔は一気に青ざめた。
「ですが、依頼人も鬼ではありません。ある条件さえ呑んでいただけるのであれば、この訴えを退ける意思があると伝言を頂いております」
「な、なんだ!? 処分の撤回か?! いや、何でもいい。どんな条件でも呑む!」
新田の言葉を聞いた飯田は一瞬口角を上げる。
「では……新田さん含め、あなた方が本事務所をお辞めいただくこと。それが依頼人の提示した和解案です」
「はぁっ!? ふざけるな! そんなバカげた条件あるか」
新田の罵声に、その場にいた幹部も同調して声を上げる。
「それが、馬鹿げているのか否かはあなた方が決めることではありません。それほど依頼人は傷つき、そしてお怒りであるというご理解をお願い申し上げます。あと、申し遅れましたが条件を呑んでいただけるのであればこの場にいる皆様の退職金のほうも、こちらで出させていただく用意があるという伝言も依頼人からいただいておりますので」
飯田のその言葉に、全員がどよめいた。
「っく……だからと言って、こんな条件……」
(だけど、呑まなければ莫大な賠償金が……)
実際には、請求額通りの支払い義務が生じるわけではないが、それでも金額は大きい。
しかも、支払うことが確定すれば、飯田という人物は是が非でも賠償金を払わせようとするに違いない。
懲戒解雇になれば、退職金をもらえる可能性は限りなく0になる。
それを払ってもらえるうえに訴えを退かれるのであれば、これ以上いい話はない。
「………わかりました。呑みます」
そう思った新田は、飯田が提示した和解案を承諾した。
それを聞いた飯田は、デスクに置かれた数十通の、『退職届』と記された封筒を手にすると
「では、こちらが退職届です。どうぞ」
と言いながら全員に配って行く。
配られた人は全員、渋々ではあるもののそれにサインをしていくと、社長のもとに提出する。
「確かに、全員書かれましたね。念のために申し上げますが、今後何があってもこの処分について、不服等はされませんね?」
倉田派の人物たちが提出した退職届に手を置きながらのはんだの問いかけに、新田たちは頷いて答える。
「それでは、皆様の退職届の提出を確認いたしましたので、こちらの訴えは退かせていただきます」
そう言いながら、飯田は内容証明の入った封筒をビリビリと破いた。
……
「は? …………いや、そっちじゃなくて、俺のを取り下げろよ!」
飯田の行動に、口を開けて固まっていた新田だったが、すぐに正気を取り戻すと、飯田を問い詰める。
「おや、何か勘違いされていませんか? 私は別に新田さんの訴えを退けるとは、申し上げておりませんが?」
「はぁぁ!?」
とぼけた様子で口を開く飯田に、新田が目を細め、口を大きく開けるという間抜けな表情を浮かべる。
「私は確かに”訴えを退ける”とは申し上げましたが、新田さんのとは一言も口にしていないと、記憶しているのですが? そもそも、事務所側への訴えは依頼人にとっては本心ではありません。ですので、もし事務所側で厳罰に処すのであれば、こちらに対する訴えは不要であるという依頼人のご判断です」
(なるほど……暴れるというのはこういうことか)
社長はこの時、一樹の言っていた”暴れる”の意味をようやく理解できた。
確かに、これは暴れている。
というよりも、大暴れと言ったほうが妥当だろう。
「ふざけるなぁぁぁっ!!! そんなの、だまし討ちじゃねえか! てめえ汚ねえぞ!!」
「人聞きの悪いことを。本当に汚いのは、ご自分の責任を弱い立場の依頼人たちに擦り付ける、あなた方のほうではないでしょうか?」
新田の怒鳴り声に、飯田は小ばかにした様子で笑いながら言い切ると、置いていた鞄を手にして社長室の出入り口に向かい、ドアを開けた。
「あ、退職金のほうですが、お約束通り、要求金額から相殺という形でお支払いさせていただきますので。では」
最後にそれだけを言って、飯田は社長室を後にするのであった。
ということで、新田たち倉田派の末路となります。
そして、ついに次回で最終話となります。
新作で、読みたいバンドは、どれでしょうか?
-
Poppin'Party
-
Pastel*Palettes
-
Roselia
-
After glow
-
ハロー、ハッピーワールド