あのニュースの翌日、ちょうど学校も休みということもあり、僕は事務所の社長室を訪れていた。
「まずは、目的成就おめでとうございます」
「どうもありがとう」
僕のお祝いの言葉に社長は椅子から立ち上がると、窓際のほうに向かっていき、外の様子を眺めだす。
「社長、一つ聞いてもいいですか?」
社長は、何も返事をしなかったので、僕はそれを承諾と受け取り、前々から感じていた疑問を投げかけることにした。
「今回の一連の報道、あれは内部からのリークではないんですか?」
「……なぜそう思う?」
「特にこれと言った根拠はありません。ただ、タイミング的にかなりいい感じに報道がされていたのが気になっただけです」
脅迫状の件は分からないが、少なくとも僕たちの処分については、内部からのリークである可能性が高いと僕は確信している。
「そして、このリークを行ったのって社長じゃないんですか?」
「………そのような話は置いといて、早く本題に入りなさい。君がそのような話をするだけの目的でここに来たというわけではないだろう?」
社長は答えはしなかったが、確かに僕の本題はこのような一件ではないので、本題に入ることにした。
というより、これ以上下手に突っついてせっかくの”特典”が台無しになってしまうのが嫌だからなのだが。
「では。活動停止処分は解除されるのですか? 前の社長の話からは、この処分は一つの大義名分的な意味合いが強く思えたのですが」
僕が一番聞きたかったのは、それだった。
そもそも、僕たちの活動停止処分は、倉田派を一掃するために彼らに大事にするためにやらせた意味合いが強い。
その目的が成就した今、処分も解除されるのが妥当のはずだ。
(とはいえ、多分……)
「君もわかっているはずだが、解除はしない」
「……ですよね」
僕も薄々わかってはいた。
この一連の騒動は、確かに大事になった。
そう、なり
最初からくすぶり続けていた、僕たちを応援しているファンたちの怒りは、収まるどころかさらに増幅している。
それは現時点でも変わらない。
唯一の幸いは、Pastel*Palettesへ向いていた憎悪は、徐々にではあるが本来向かうべき事務所側に変わって行ったことくらいだろう。
少しだけ時間はかかるが、彼女たちも普通に活動ができるようになる。
だが、僕たちの場合はある意味憎悪の発信源でもある。
そんな僕たちが表に出続けていれば、事務所だけではなく僕たちへの安全も確保できない。
もし、処分が解除されても、僕はおそらく自粛の道を選んでいただろう。
「今回のこの余波がなくなるまでの間、君たちは活動を停止するように。もちろん、君たちにはできる限りの便宜を図ろう。何か望みはあるのか?」
「それでしたら、二つあります」
社長の言葉に、僕はそう答える。
「言ってみなさい」
「まずは活動再開後最初のライブですが、私たちのリクエストを確実に聞き入れていただきたい」
「なるほど。いいだろう、その際は私の名前を使うと良い」
その望みに意味はないが、事務所から提示されたライブがいまいちであった際の保険にすることにした。
「そして、もう一つですが……」
そして僕はもう一つの望みを社長に伝えるのであった。
数時間後、啓介たちに今後のことで話をしたいと伝えて、人気のない寂れた公園に集まってもらった僕は、皆に今後についてを話した。
「はぁ!? どういうことだよそれ!」
「落ち着けって」
それを聞いた田中君が声を荒げるのも仕方がないことだった。
「ちゃんと説明して。どうしていきなりそんなことを」
森本さんに聞かれる形で、僕は説明を始める。
「僕たちって今までこのメンバーでしかライブで演奏したことがなかったでしょ? そのおかげで、いい演奏ができていたというメリットがある一方で、どうしても自分の音楽の視界が狭まっているようにも思えたんだ」
「だからって、”停止期間中は、サポートとして活動を行うだなんて”」
僕がした決断、それは”活動停止期間中は僕たちをサポートミュージシャンとして活動させてほしい”だった。
この願いもあっさりと聞き入れられた。
「Roseliaとの合同ライブで実感したんだよ。僕たちの可能性は無限にあるって言うことが」
あの合同ライブは、そういった意味でも僕たちにとっては非常に大きな意味を与えてくれた。
「だから……活動停止期間を”停止”ではなく”レベルアップ”の期間にするためにも、この選択しかないと思う」
「………私は、いいと思う」
「裕美!?」
沈黙が続く中、最初に口を開いたのは、中井さんだった。
「私も、少し自分の可能性を確かめてみたいなって……そうすれば、もっとうまくなれるかもしれないし」
「だったら、俺もいいかな」
次々とみんなが賛同していき、残すは田中君一人になった。
彼は、同調圧力などお構いなしに一人になっても反対し続けるタイプの人間だ。
もしかしたら、賛同はしえくれないかもしれない
「……レベルアップして戻ってきてやるから、覚悟しとけよ」
それでも、田中君は最後は賛同してくれた。
こうして、僕たちの身の振り方は決まったのだ。
「いよいよ今日からか」
「そうだね」
「色々とあれだが、まあ頑張ろっかね」
あれから一週間が過ぎて、僕たちはついにサポートミュージシャンとして最初の仕事の日になった。
これからしばらくの間、僕たちはばらばらとなっていろいろなバンドで演奏をしていく。
名前も、素性もすべて書き換えた”謎多きミュージシャン”として。
だから、この場にいる啓介たちはサングラスをしたり金髪のカツラをしたりと、変装している。
かくいう僕は、まだ変装はしていないけど。
「じゃ、行こうか」
田中君のその言葉に頷き合った僕は、全員で左手を空中で合わせる。
それは気合を入れる行動の一つでもあった。
それを済ませた啓介たちは、それぞれが別々の方向に歩いていく。
Moonlight Gloryは活動を止めたが、きっとまた同じ場所に戻り、ステージに上がる。
そんな強い決意と共に。
「ん? メールだ……紗夜からだ」
彼らを見送っていると、携帯がメールを受信したことを伝えるように振動したので、差出人を確認すると、相手は紗夜だった。
『サポートギター頑張って。事故とかにあわないように気を付けるのよ』
その本文からは、彼女の気持ちがはっきりと伝わってきた。
「えっと『応援ありがとう。行ってくるよ』……送信」
だから、僕もそれに応えるように気持ちを込めて文章を入力すると、紗夜に返信した。
そして、僕もまた足を進める。
でも、僕は一人ではない。
隣を一緒に歩いてくれる人がいるのだから。
完。
ということで、今回で本作は完結となりました!
投稿を始めて約2年。
色々合いましたが、ここまでこぎつけたのはひとえに皆様の温かい応援のおかげです。
日菜ルートの最終話でも申し上げましたが、改めてここにお礼を申し上げます。
ただ、これで完全に執筆はやめるというわけではありません。
今後のことについてご案内いたします。
まずは、告知していた続編ですが、タイトルが決まりました。
その名も『BanG Dream!~隣を歩む者~』です。
こちらは、投稿開始予定日を、せっかくなので『ガルパにRASが実装された日』とさせていただきます。
そして、同じく告知しておりました新たな物語ですがこちらはまだ書いていくバンドは未定(ほぼ確定状態ではありますが)ですので、フォーマットのみとなりますがタイトルをお知らせします。
『BanG Dream!~○○の物語~』
○○にはそのバンドを象徴できそうな単語が入ります。
そして、これらの新作ですが、今後は『物語シリーズ』と呼称させていただこうと思います。
もしかしたら呼称は変えるかもしれませんが(汗)
投稿開始日は1話目が完成し次第の投稿都内ますので、今しばらくお待ちください。
この両作品ですが続編のほうを”偶数月”に、物語シリーズのほうを”奇数月”に執筆・投稿させていただく予定です。
また、あらすじのほうにそれぞれの作品名を追記の形で明記し、こちらのあとがきの場でリンクのほうを載せますので、こちらのほうもご利用いただけると幸いです。
そして本作ですが、『完結』扱いとします。
今後、本作で投稿などを行う予定はございませんが、もしかしたらネタ系の話を投稿したりするかもしれません。
その際は、続編や物語シリーズのほうで告知のほうをさせていただきます。
以上、長くなりましたが、これからもよろしくお願いします。
追記
新作を公開いたしました。
タイトルは『BanG Dream!~青薔薇との物語~』です。
よろしくお願いします。
新作で、読みたいバンドは、どれでしょうか?
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Poppin'Party
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Pastel*Palettes
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Roselia
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After glow
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ハロー、ハッピーワールド