そして、同時に1か月間毎日投稿しているということにもなります。
自分でも毎日投稿できてるのがある意味奇跡だと思っていたり(苦笑)
それでは、第31話をどうぞ!
数時間ほど喫茶店で会話を楽しんでいた僕たちだったが、そろそろ日も暮れるためお開きとなった。
帰宅の途につく前に、僕は手洗い場に行こうと思い二人に声をかける。
「すみません、ちょっとお手洗いに行ってもいいかな?」
「ええ。大丈夫よ」
「うん。私も」
どうやら喫茶店で飲み物を飲みすぎてしまったようだ。
別に切羽詰まってはないが、この後のことを考えるといったほうがいいかもしれない。
僕は快く頷いてくれた二人に感謝をしつつ、手洗い場がある場所にかけて行くのであった。
そして、分かれた場所に戻ると、何やらざわついていた。
「――――しょに、―――ぜ」
「――――お断りいたします」
(って、この声、白鷺さんのだ)
喧噪の中に聞こえてくる白鷺さんの冷たい口調に、僕は嫌な予感を感じ人ごみの中を縫うようにしてさらに近寄っていく。
そして僕が見たのは
「いいから一緒に行こうぜ!」
二人組のチンピラ風の男に絡まれている松原さんたちの姿だった。
「きゃっ!?」
「あなたたち、その手を放しなさいっ」
男の一人が、強引に松原さんの腕をつかみ、もう一人も白鷺さんの腕をつかむ。
「いいじゃねえかよ。連れなんてきっこねえんだしよ」
「そーそー、俺たちと遊ぼうぜ~」
(あー、なるほど。そういうこと)
それだけで僕は事の経緯を理解する。
おそらく、二人で待っているところにこの二人組の男が絡んできたのだろう。
(なんだか、同じシチュエーションを見た気がする)
しかも、そのあとものすごく面倒な目にあうことになったし。
だが、僕には止めないという選択肢はない。
それに
「助けて、美竹君っ」
震えながら助けを求める友人を見捨てるほど、僕は外道ではない。
「はいはいはい、いったん落ち着きましょう」
僕は松原さんと男たちの間に強引に割って入って距離をとらせる。
「美竹君っ」
「美竹君」
とりあえず、怯えている松原さんと白鷺君を背中にかばいつつ男たちと対峙する。
「んだ、てめぇ!」
「痛い目見たくなけりゃ、すっこんでろっ」
(うわー、この人も強烈だな)
案の定男たちがすごんでくるが、僕には全く効かない。
というより、あの人たちよりも上の存在を知っているがために、怯みようがないんだが。
「それはできません。自分は彼女たちの友人なもので。そういうわけですので、お引き取り願えませんか?」
とりあえず、やんわりと立ち去るように言ってみる。
まあ、効果なんてないとは思うけど。
「てめぇ、調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「女の前だからって格好つけてんじゃねえぞ、ガキ!」
「「美竹君っ!」」
僕の胸ぐらをつかんでくる男の行動に、前に出そうになる二人を僕は必死にその場にいるようにジェスチャーを送る。
(さて、どうしたものか)
一発ほど殴らせれば、落ち着いて帰ると思うが、さすがに殴られるのは勘弁願いたかった。
「何余裕ぶっこいてんだぁ!」
そんな僕の様子も癇に障ったらしく、男たちがさらにヒートアップする。
「俺たちはな、『花咲ヤンキース』だぞ!」
だが、一人の男の放った言葉で、ようやく見えなかった落としどころが見つかった。
「今、『花咲ヤンキース』っておっしゃりましたよね?」
「あ? そうだ。ビビっただろ。さっさとそこを―――」
『花咲ヤンキース』という単語に、松原さんが体を震わせる。
去年の春先のことでも思い出したのかもしれない。
「僕の勘違いでなければ『花咲ヤンキース』は解散しませんでしたっけ?」
「あ? ああ。確かに団長が”漢の中の漢を見つけた”と言って解散したが、俺たちは認めねえ。団長の作った『花咲ヤンキース』は永遠に不滅だっ」
漢の言葉で、ようやく二人の正体が分かった。
おそらく、この二人は『花咲ヤンキース』の解散を受け入れられなかったんだろう。
だからこそ、こうしていまだに名乗り続けているのだ。
(なんだか、うらやましいな)
不良グループとはいえ、そこまで思われている団長が、とてもうらやましく思える。
僕もまともな道でそこまでの人間になりたい。
あくまでも、”まともな道で”だが。
(さて、ではさっさと終わらせますか)
これ以上長引かせるわけにもいかないので、僕はとっとと終わらせることにした。
「申し訳ないんですけど、一か所電話をかけてもいいですか? ただの知り合いですのでご安心ください」
「………」
僕の様子に薄気味悪さでも感じたのか、胸倉を掴んでいた男は無言で手を離すと、僕はポケットからスマホを取り出す。
そしてかける相手は
『兄貴っ。兄貴から電話をいただけるとは、この不詳テツ、感激でありますっ』
ものすごく高いテンションでまくしたてる団長だった。
「一つ聞きたいことがあるんですけど。『花咲ヤンキース』で、解散を反対された人っていますか?」
『ええ、何名かはいましたね。そいつが何か……まさか兄貴に何か無礼なことをっ。兄貴、そいつに電話を替わっていただきやしませんか?』
「あの、相手があなたに代わるようにとおっしゃっているので、代わっていただけませんか?」
最後のほうでドスを効かせる団長の声に、なんとなく嫌な予感を感じながら、僕はスマホを押し付けるように手渡した。
「……も、もしもし。……は、はい。そうですが」
手渡された男は、怪訝そうな表情をしつつも団長と電話で話していると、電話口からものすごい罵声が聞こえてきた。
ただ、何と言っているのか、その内容自体は聞えないが、どんどん男の顔が青くなっていってるのは、相手には申し訳ないが面白い光景ではあった。
「し、失礼します」
そして、電話を終えた男の表情は真っ青だった。
「お、おい……てめぇ、いったい何をしやが――「よせっ」――へ?」
その男の様子に再び怒り出す仲間を止めるようにして、僕に頭を下げる。
その光景に、もう一人の男はおろか、僕たちですら固まった。
「あなた様が、あの偉大な兄貴だとは知らず、無礼の数々大変申し訳ない。この俺の命で良ければ差し出しますっ」
「いや、あのそういうのはいいので。ここは私の顔に免じて見逃してはいただけませんか?」
「あ、ありがたいお慈悲感謝します。ささ、お通りください」
とりあえず、目の前に立ちふさがっていた男たちは避けてくれた。
「すみません。失礼します」
そして、僕たちは松原さんたちを連れてその場を立ち去るのであった。
ちなみに、道中で「あなたは何者?」と、少しだけ引いているような感じで聞いてくる白鷺さんに、僕は「色々あって気づいたら兄貴と慕われるようになっていた」と肩をすくめながら答えたのは余談だ。
本当に、いつになったら兄貴と呼ぶのをやめてくれるんだろうと、僕は心の中でため息を吐くのであった。
あの後、何とか集合場所の駅前まで戻ってきたころにはすでに日が暮れ始め、薄暗さが増していた。
(義父さんに帰るのが遅れる連絡を入れておいてよかった)
「それじゃ、またね千聖ちゃん、美竹君」
「ええ。またね」
「気をつけて帰りなよー」
そんな中、僕たちは自宅に帰っていく松原さんを見送る。
(そういえば、松原さんって方向音痴だけど、自宅までの道は迷わないんだな)
それもそれで、変わった方向音痴だけど。
「ちょっといいかしら」
そんなことを考えていると、白鷺さんに声をかけられる。
「何ですか?」
「あなたは、私が芸能人であることを知っても態度が変わらない。普通はよそよそしくなったり気を使ったりするものよ。私はその理由を知りたいの」
それは疑問というよりも、どちらかというと確認のような感じだった。
自分の中では一つの結論は出ているが、それが正しいのかどうかの確認……みたいな感じだろう。
であるならば、僕の答えは一つだ。
「最初は驚きましたけど、でもここにいるのは”芸能人”の白鷺さんではなく、”松原さんの友人”の白鷺さんですから。であるなら、私もそのように接しようと思ったんですけど、気に入らなかったですか?」
よそよそしい態度で松原さんたちの楽しい時間を台無しにするのが嫌なだけだったのだが、もしかしたらそれが間違いだったのではという不安に襲われる。
「いいえ。逆にうれしいくらいよ」
だが、白鷺さんから帰ってきたのは、僕の予想とは違っていた。
「皆、よそよそしくなったり態度を変えたりで花音以外に友人と呼べる人はあまりいないの」
「……」
少しだけ寂しそうに言うその言葉に、僕は何も言えなかった。
それは、僕が何かを言える領域をはるかに超えていたから。
「だから……」
「え?」
突然のことに、僕は反応するのが遅れる。
「私とお友達になってくれないかしら?」
そんな言葉と共に差し出された手に、僕はしばらく呆然と立っていたが、
「僕でよければ、喜んで」
その手を取った。
「ふふ。異性の友人はあなたが初めてよ」
「それは光栄です」
白鷺さんはいまだに変装をしているので、表情は分からない。
でも、かすかに見える顔の形から、微笑んでいるような印象を受ける。
「ところで」
友人が一人増えたことから話を変えるように、白鷺さんは口を開く。
「花音、本当に家に帰れるのかしら?」
「………」
あの方向音痴である松原さんが、自宅までの道を迷わずに行けるとこれまでは疑問にも思わなかったが、一度不安を抱くとその不安が消すのは非常に難しかった。
「あら、花音からね」
そんな時、白鷺さんのスマホに電話をかけてきたのは、松原さんだった。
「もしもし………ちょっと待っててね」
「もしかして、迷いました?」
白鷺さんの様子から、僕はまさかと思い聞いてみると、無言で頷かれた。
「今いる場所の目印になるような物を、聞いてもらってもいいですか?」
「花音、ごめんなさい。今いる場所の目印のようなものはあるかしら?」
慌てるそぶりも見せずに対応しているだけで、こういったことがいつも起こっているんだとうかがい知れる。
「郵便ポストにガス屋のポスターが貼ってある電柱……。あ、すぐ行くからそこで待ってて」
白鷺さんの口から松原さんがいる場所の目印を聞いた僕は、すぐに彼女のいるところが思い当たったので、駆けだした。
白鷺さんのほうに向かって一礼をするのも忘れない。
こうして僕は白鷺さんと別れ、松原さんがいるであろう場所に向かうのであった。
(確か、ポスターはこっちに貼ってあったはず)
少し走ると、住宅街のような場所に入る。
前に一度そこを通ったことがあったのが幸いして、僕は松原さんがいるであろう場所を特定できたのだ。
(いたっ)
十字路を右に曲がると、そこには周りをきょろきょろと見まわしている松原さんの姿があった。
その様子はどこか不安そうにも見える。
「松原さん」
「ふぇ!? み、美竹君」
まさか僕が来るとは思ってもいなかったのか、驚いた様子で僕のことを見ている。
「あの電話の時、まだ横にいたから来たんだ」
一応簡潔に、ここに来れた理由を話す。
「いつもはどうやって帰ってたんだ?」
「いつもはちゃんと帰れてるんだよ。でも、たまにこうなっちゃうの」
どうやら、今日はたまたま迷ってしまったらしい。
(とはいえ、このまま返すわけにもいかないし)
「松原さんさえよければ、家の近くまで送ってこうか?」
「ふぇぇ!?」
僕のその提案に、松原さんはとても驚いた様子だった。
「嫌だったらいいけど、どうする?」
「お、お願い……します」
そういう松原さんの顔はどことなく赤くなっていた。
「それじゃ……」
「ど、どうしたの? 美竹君」
松原さんを自宅に送り届けようとした僕だったが、肝心のことを忘れていた。
「松原さんの家って、どこ?」
「あ……」
僕は、松原さんの家の場所を知らない。
そして、松原さんも絶賛迷子中。
その場で固まる僕たちだったが、
「松原さんのご両親に連絡来て迎えに来てもらったほうがいいかもしれない。駅前の広場とかで待ち合わせれば合流できるだろうし」
僕のその提案で、松原さんも硬直から解けたように動き出すとすぐに家に電話をかけ、駅前のほうに迎えに来ることとなった。
「それじゃ、行こうか」
「う、うん」
松原さんの電話も終わり、待ち合わせ場所に向かおうとする僕だったが、松原さんの浮かない様子が気になり足を止める。
「どうしたの?」
「あの、ね……手を」
視線をあちらこちらに回しながら細切れに口にする言葉の意味が、何となく理解できた僕は彼女の手を取る。
「これでいいかな?」
「う、うん」
手を握られているだけだというのに、松原さんはとてもうれしいのかそれとも安心できるのか、笑みを浮かべていた。
そして、今度こそ僕たちは歩き出す。
「………」
「……」
歩いている間、僕たちは無言だった。
(気まずいな)
何とか話題を振らなくちゃと思うが、そもそも僕自身が、話せることなど何もないということに気づいた
「いつもごめんね」
そんな中、沈黙を破ったのは松原さんだった。
「私こんな性格だし方向音痴だから、いつも迷惑かけてるよね」
それは、松原さんの心の声のような気がした。
松原さんは、どちらかというと中井さんと似ているのだ。
……方向音痴は違うけど。
「僕は今まで迷惑だって思ったことはないよ。だって、松原さんは中井さんたち以外でできた初めての友達だもん」
彼女との出会いも、中井さんがいなければなかったかもしれない。
それほどまでに、運命的なものだった。
「初めて……えへへ」
そんな中松原さんはよほどうれしかったのか、笑っていた。
「ありがとね……か、
「え?」
僕は言葉が出なかった。
松原さんが僕ことを苗字ではなく、名前で呼ばんだことがとても驚きだったのだ。
「だ、だって……私たち友達だもん。だから………だめ、かな?」
「う゛……駄目じゃないよ。いきなりだったから驚いただけ」
松原さんの上目遣いは、凄まじいほどの威力だった。
「……それで、ね」
「……うん」
松原さんが、そこから続けようとしている言葉を待つ。
松原さんは、どこか自分に気合を入れているような気がした。
やがて一度深呼吸をした彼女は、頬を赤く染めながら
「わ、私に事も……その、”花音”って呼んでくれたら、うれしいな」
「………」
松原さんに再び上目遣いにこちらを見られている中、今度は僕が葛藤する番だった。
女子を名前呼びにするのはとても難しいのだ。
この間はノリとかでできたが、今回のはわけが違う。
「わかった、よ。これからもよろしくね、花音さん」
「~~っ。うん。私も」
心臓がバクバクと脈打つ中、僕は顔を赤くしながら笑みを浮かべている彼女を見て、こういう休日もいいなと思うのであった。
その後、駅前の広場にたどり着いた時には、すでに花音さんのご両親が待っており、無事に合流することができた。
花音さんの親は安心した様子でこちらにもお礼を言ってきたので、僕はそれに一礼で返した。
そして、親子で花音さんの自宅に向かって歩き出すのを僕は静かに見送るのであった。
こうして、僕の大型連休は過ぎていくのであった。
第2章、完
というわけで、これにて第2章は完結となります。
だんだんヒロインがだれかわからなくなっていったりする今日この頃です(汗)
それでは、次章予告のほうを。
―――
季節は移ろい梅雨を迎える。
じめじめとした天気の中、天才と呼ばれた者は悩む。
それは一つの変化の兆しとなる
次章、第3章『梅雨の憂鬱』