名前だけですが、あの人も登場しています。
……若干キャラ崩壊していそうな気が(汗)
それでは、どうぞ!
「おはよう」
「おー、来たな! ”仲介屋”」
「今度中井さんと会えるようにしてくれよ、仲介屋」
教室に入ったのと同時に僕の周りを取り囲むようにして掛けられる言葉に、僕は内心でため息を漏らす。
「会いたければ勝手に会えばいいじゃん。というか、その呼び方はやめて」
どうにも仲介屋という呼び方が気にくわない。
しかも理由が、”僕が立ち会えば中井さんとお話ができるから”というふざけたものだし。
「だって、お前がいないとまともに話もできないし」
「俺なんか、話しかけても反応ないし」
「お前なんていいじゃないか。俺なんか話しかけようとした瞬間に逃げられたんだぜ!」
(まあ、あいつはそういうやつだもんな)
中井さんは極度の人見知りだ。
慣れればいいのだろうが、見ず知らずの人に話しかけられることは彼女にとっては地獄でしかない。
僕たちがいれば見ず知らずの人を相手にしても、話ができるというのはある種の安心感からなのかもしれない。
まあ、僕が立ち会ったところで返すのは『うん』や『そうだね』の単語くらいだから、いいのかどうかわからないが。
(というか、こいつら邪魔)
先ほどから誰が一番中井さんと話をしていないのかを競い合う男子数名を無視して自分の席に着くことにした。
そんなことにも気づかないほど、彼らは勝負に没頭していた。
悪い奴らではないようだが、これでは
「餌に飢えた獣ね」
周りの女子の誰かから冷たい一言が彼らに向けて放たれた。
(というより、僕の考えたことを言われた)
そんなどうでもいいことを考えていると、先ほどまで醜い争いをしていた男子たちは女子の声が聞こえたのかばつが悪そうにそれぞれの席に戻っていった。
3年経過してもなお、この女子の壁が崩れることはなく、ピリピリとした緊張感が支配しているようにも見える。
これが僕たちのクラスの現状なのだ。
(まあ、こっちには関係ないけど)
別に女子と話をしたいためでも、啓介のように隠された(全然隠れてはないけど)下心など持ち合わせてはいないので、どうでもよかったりもする。
ただ、張り詰めた空気だけは精神的に疲れるからやめてほしかったが。
結局のところ、HRが始まるまでこれが薄まることはなかった。
学生たちにとって、授業という名の呪縛から解放される昼休みは、食事をとること異常にありがたい時間だ。
かくいう僕も、唯一リフレッシュできる時間だったりするので意外と好きだったりする。
そんな昼休み、僕は中庭のほうへと足を進めていた。
別に外が晴れて気持ちいいからという理由ではない。
待ち合わせをしているだけだ。
「あ、一樹君。こっちだよ」
「ごめん、ちょっと遅れた」
待ち合わせをしていた相手、中井さんと松原さんたちが手を振って自分の居場所を伝えてくるので、僕も足早にそちらに向かう。
「ううん。そんなことないよ」
「うん。ちょうど来たところだから」
首を横に振って答える松原さんに続く形で、中井さんも答える。
この二人は1年の時に意気投合して友達になったらしい。
人見知りの彼女がまさかと、僕たちは仰天したが会ってみればその理由はなんとなくわかった。
「奥寺君? 私のことをじっと見て、どうしたの?」
「いや、二人とも本当によく似てるなって思ってね」
この二人、雰囲気が全く同じなのだ。
僕も最初は生き別れの姉妹では、と思ったほどに。
「私と裕美ちゃんが……そんな、私と似ているなんてそんな」
「そうだよ。松原さんに失礼だよ」
片方は恥ずかしそうに否定し、もう片方は本気で怒られてしまった。
とりあえず僕は、彼女たちの腰かけるベンチで、いつものように中井さんの隣……一番端側に腰かける。
今日のお昼は母さんお手製のおにぎりだ。
「私は往来の場で、抱き合うなんてまね、恥ずかしくてできないもん」
「はぅ!?」
中井さんの言葉に、松原さんは顔を真っ赤にして固まった。
「一樹君が走っていった先に変な人に絡まれている花音ちゃんがいて、しかも一樹君も危ない目に合うような雰囲気だから、警察に電話したら最終的には二人とも抱き合うんだもん、とても恥ずかしかったよ」
「ふぇぇぇ」
顔を抑えたくなる気持ちはよくわかる。
僕ですら、あの時のことは恥ずかしすぎて忘れたい出来事だ。
特に、何となく感じた柔らかい感覚は。
「奥寺君のエッチ」
「一樹君のエッチ♪」
「返す言葉もないです」
こういう場では、男が悪くなくても悪いことになってしまうのが世の中の常だ。
でも、中井さんは絶対にからかいの意味を込めて言ってる。
それに、一つだけ言わせてもらいたい。
「でも、あの状況で写真を撮りまくっている中井さんもどうかと思うよ」
あの時、僕が聞いたシャッター音は軽く百を超えていた。
「だって、あの花音ちゃんが一樹君に抱き着いてるのがかわいいんだもん。ほら、見てみて」
そう言ってこちらに自分のスマホ画面を見せてくる。
そこには涙ぐみながら僕に抱き着く松原さんと、それをやさしい表情で受け止める僕の姿が写し出されていた。
(うん。確かにこれは恥ずかしい)
特に自分の表情なんかが。
「ふぇぇ。お願いだから消してよ、裕美ちゃん」
「やーだ♪」
涙目で必死に懇願する松原さんに、中井さんはにこやかな笑みで断る。
というより、今さらだが中井さんがものすごくはっちゃけている。
(たぶん、自分と同じ雰囲気の人と仲良くなれたのがうれしいんだな)
そういう解釈をすることにした。
僕としては、このまま社交的になってくれれば色々とありがたいのだが。
「にしても、どうして今日はあんなことになってたんだ?」
「それは……その、道に迷って……」
とりあえず、話題を変えようと僕は朝に聞きそびれたことを尋ねてみると、恥ずかしげに頬を赤く染めて答えてくれた。
それだけですべての経緯が分かってしまった。
突然だが、松原さんには困った欠点がある。
それが、”極度の方向音痴”である。
これがシャレにならないほどにひどいのだ。
何せ、僕と彼女が知り合うきっかけになったのも、
『ふぇぇ……ここはどこ~』
という、彼女の様子が心配で話しかけたことからだったし。
ちなみに、あの時は友人である”チサト”という人物と待ち合わせをしていた場所に行こうとしていたら、迷ってしまったのだという。
しかも、彼女が歩いていた方角は、目的地とは正反対だったのは今でも忘れられない。
「花音ちゃんの方向音痴も、ここまで行くとすごいよね」
「うん。あそこって方角的にも正反対のほうだし」
「うぅ。いつもいつもごめんなさい」
申し訳なさそうに謝る松原さんに、気にしてないと答えた僕たちは、昼食を食べ始める。
「あ、一樹君。醤油借りてもいい?」
「ハイ、どうぞ」
たまたまお弁当箱に入っていたしょうゆを中井さんに手渡すと、中井さんはお弁当に添えられたお漬物にかける。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そんなやり取りをしていると、松原さんが楽しげにくすくすと声を漏らした。
「どうしたの? 花音ちゃん」
「ううん。なんだか二人とも仲のいい夫婦みたいだなって」
松原さんが口にした単語に、僕と中井さんはお互いに顔を見合う。
「夫婦?」
「僕たちが?」
「うん。とっても仲がいいから」
微笑みながら答える松原さんだが、僕たちとしては複雑だ。
確かに、僕と中井さんは仲がいい。
だから夫婦だと言われることも多々ある。
でも
「そういう感情はないかな」
「うん。私も」
そういうことである。
「小さな時から一緒にいるからね。夫婦というよりは家族としてでしか見られないんだ」
「そうなんだ」
それが不幸だとは思ったことはない。
現に、啓介がいい証拠だ。
啓介の状況であれば、努力すれば中井さんや森本さんと付き合うことも可能かもしれなくもないような気がするようなしないような―――
(どう考えても無理だとしか思えない)
心の中で出しにしてしまった啓介に謝りつつ、思考の片隅に追いやる。
「そうだね、どちらかというと」
「言うと?」
松原さんは中井さんの言葉の続きを興味深げに待つ。
中井さんが何を考えているかはよくわかっているので、僕も声をそろえることにした。
「「弟(妹)みたいな存在……え?」」
「あ……」
声をそろえた僕たちはお互いの間違いに顔を見合わせる。
そして、それを見て何かを察する松原さん。
「何を言ってるの? 一樹君は”弟”だよ」
「いやいやいや、そういう中井さんだって。十分に妹だって」
ついに火ぶたを切ったのは、誰が弟かという論争だ。
これは今まで決着がついたことがない。
向こうもこっちも一歩も譲らないから致し方がないが、いい加減自分が妹であることを自覚してほしい。
(こうなったら今日で決着をつけよう)
僕は、今日こそこの醜い争いに終止符を打つべく、中井さんと言い合う。
「ふぇぇ~。お願いだから、二人ともやめてよ~」
そんな松原さんの懇願もむなしく、引き分けという結末になったのは、昼休みが終わるチャイムの音が鳴り響いた時だった。
一樹は彼女と面識がないので名前がカタカナ表記となっております。
そして、ものすごく今更ですが、本作は最低2,500字、平均で3000字以上を目指しています。
このぐらいの量だと、いい感じのスピードで投稿できたりするので。
そして、次回はまた一人原作キャラが登場します。