文化祭2日目。
「……」
朝、いつものように起きた僕の気分はいつにもまして憂鬱だ。
それは、先日の忙しさからくるものではない。
(今日、なんだよね。ライブ)
啓介たちに誘われたヘルプのライブの日になったからだった。
「というわけで、頼むから休んでくれ」
「うん、そうする」
この日、一般公開が開始してすぐに、僕たちは文化祭を日菜さんと一緒に見て回るように言われた。
「氷川さん、今日もメイド服着るって言ってて、これ以上はさすがにパンクするぞ」
メイド服を押しまくっていた啓介ですら、懇願するほどのお客さんの数は多かったそうで、歴代1位の売り上げをたたき出したとか。
被害は、日菜さんの楽しげな姿に、拝み倒す変人が数十名、気を失うものが数名ほど。
(生徒会からも、警告されてたしね)
一般公開時間が終わり、片付け作業を始めている中、生徒会長が直々に教室に来て言い放ったのは、
『明日の文化祭で、メイド服を着用することを禁止しますっ。これを無視したものには重い処罰を下します』
という警告だった。
そんな警告をもらっても、日菜さんはメイド服を着る気が満々だったため、始まって早々に日菜さんを教室以外の場所に連れて行って、その間に物を撤去する作戦をとったらしい。
僕は、彼女が決められた時間まで戻らないように見張る付き添い係だ。
(まあ、文化祭を一人で回るよりはましか)
昨日軽く見て回ったのだが、一人でぶらぶらするのは意外に虚しかったので、ある意味ちょうどよかったかもしれない。
「それじゃ、日菜さん。行こうか」
「うん♪」
とりあえず、僕は彼女と文化祭を回ることにするのであった。
「さて。それじゃ、最初はどこに行く?」
「うーんとね……」
人の邪魔にならない場所で、僕は羽丘の催し物が記されているパンフレットを見ている日菜さんの反応を待つ。
「うん、決めた! ここにする」
「えーっと、『絶叫! 恐怖の館』って、お化け屋敷か」
文化祭恒例の出し物と言えば、お化け屋敷だろう。
軽く数えて5~8か所でそういった出し物をしているし。
「それじゃ、行くか」
「楽しみだなー」
僕は、楽しそうにしている日菜さんを見て、こういうのが平和なんだなと、思いながら日菜さんが興味を持った出し物が催されている場所に向かうのであった。
お化け屋敷に入る理由といえば、度胸試しや怖いもの見たさなどの理由で入る人が多い。
だが、その中でもある種定番となっているのがカップルだろう。
彼女が仕掛けに驚いて彼氏に抱き着く……ものすごくベターでありふれた構図ではあるが、だからこそ定番なのかもしれない。
デートで遊園地と言えばお化け屋敷が入ったりするのもそのためだ………という啓介のうんちくを今紹介したいと思う。
さて、どうして僕がこのようなうんちくを紹介しているのかというと、
「う~ら~め~し~や~」
「あはははっ。このお化け”恨めしや!”だってー。もうすっごくるん♪ってする」
先ほどからお化け役の人の挙動を見て、楽しそうにはしゃいでいるからだ。
(うわ、今の人ものすごく悲しげなオーラを上げてる)
わからなくもない。
怖がらせようと頑張っているのに、それを見て笑われたら傷つくのも当然だ。
(まあ、さすがに”恨めしや”は定番すぎるけど)
「ぶわぁ~!」
そんなことを考えていると、突然横の壁を突き破るようにして幽霊役の人が顔をのぞかせる。
「すっごーい。ねーねー、これどうやって直すのー?」
「って、中に入ろうとしない!」
興味津々な様子で奥に行こうとする日菜さんを、僕は腕を握って止める。
「うわわ、一君ダイターンっ」
(日菜さんに、お化け屋敷はやばすぎる)
僕は、ようやく日菜さんが行ってはいけない出し物であったと知った。
日菜さんの腕を引っ張って、外に出たところで
「あ、あっちのほうでお化け屋敷があるって。一君行こ!」
「って、ちょっと待って!!」
再びお化け屋敷が催されている場所に走っていき、中で大暴れ。
そしてまた別のお化け屋敷に入るを繰り返した結果……
「ふぅー。とっても楽しかったけど、あんまりるん♪ってこなかったなー」
「ある意味すごいよ。日菜さん」
僕たちは全お化け屋敷の出し物を制覇してしまった。
「そう? それじゃ、何か称号とかもらえないかなー」
(称号か)
今の彼女にぴったり合うものと言えば、一つしかない。
「”ゴーストバスター”が、妥当だと思う」
「うーん。なんだかるん♪って来ないからいいやー」
僕の考えた称号は日菜さんのお気に召さなかったようだ。
「まだ戻るまで時間もあるし。今度は一君の行きたいところでいいよ」
「え、僕の?」
「うん。るん♪ってくる場所がいいなー」
さりげなくハードルを上げられたような気がする。
「だったら、ここはどう?」
「えー、なになに……アクセ作り体験?」
何ともまんまな名称だが、そこはアクセサリーを作ることを体験できるようで、少し興味を持っていた。
(うまく出来たら妹にでもお土産にしようかと思ってはいたけど)
「一君、そういう趣味あるの?」
「いや、そういうわけじゃないよ。ただ、日菜さんで言うところのるん♪ってきたような気がしたから選んだんだけど……嫌なら別のにするね」
日菜さんのテンションがいまいちなので、僕は別の出し物を探そうとするが
「ううん。ちょっと意外って思っただけで嫌じゃないよー」
「そ、そう? それじゃ、行くか」
こうして僕と日菜さんは、アクセサリーを作る体験ができる出し物が、催されている場所に向かうのであった。
「それでは、そちらの席に座ってください」
アクセ作り体験に入った僕たちは隣同士の席に案内される。
やがて、学生が机の上に置いたのは、アクセサリーを作るのに必要なビーズと、細い針金だった。
「では、始めましょう。まずは自分が作りたいアクセサリーの大きさに針金を切ります。長さの目安としては―――」
学生の説明に従って、僕はアクセサリーを作っていく。
(やっぱり、髪留めみたいなのがいいよね。だとしたら、こんな感じかな)
髪留めに使う場合の長さに合わせて針金を切断すると、それに様々な色のビーンズを通していく。
(うーん。あんまり明るい色とかは蘭も嫌がるようなだから……よしこんな感じかな)
そして、ビーンズを通し終えると、それが落ちないようにする。
「はい、それで完成になります。とてもよく出来てますよ」
「「ありがとうございました」」
教えてくれた学生にお礼を言って、僕たちは出来上がったアクセサリーを手にその場を後にする。
「うーん。面白かったねー」
「そうだね」
そろそろ指定された時間なので、僕と日菜さんは教室に向かって歩いていた。
(しかし、このアクセサリー。結局失敗か)
もう少しクラシックタイプにしたかったのだが、少し派手な感じになってしまったのだ。
これを蘭に渡したら、喜んでもらえるのか微妙だ。
(だったら)
日菜さんにあげたほうがいいような気もする。
それに、日菜さんは興味なさげだった出し物に、わざわざ付き合ってくれたのだ。
それくらいしたって罰は当たらない。
……まあ、これを渡したところでお礼になるのかは微妙なところではあるけど。
「ん? どうしたの?」
「日菜さん、もしよければだけど、これ貰ってくれないかな?」
「え?」
僕が手渡した先ほど作ったアクセサリーを、キョトンとした表情で見る日菜さんは、とても斬新な感じだった。
「本当は妹に土産として渡そうと思ったんだけど、ちょっと似合いそうもなかったから。日菜さんなら似合うかなーって思ったり」
(自分で言ってて虚しくなるな)
ものすごく言い訳がましいし。
「わ、私がもらっても……いいの?」
「ああ。というより日菜さんにもらってほしい」
いつもの日菜さんとは打って変わって、よそよそしい態度の日菜さんに、僕は静かに頷きながら言うと
「それじゃ……もらうね」
日菜さんは僕の手から、髪留めを受け取った。
その表情は、とてもうれしそうに見えたので、僕は彼女に渡してよかったなと改めて思うのであった。
さりげなく、デート回っぽくなってしまいました。
もっとも、本人にはその気はないですが(苦笑)