BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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小さいころに戦隊ものを見ていたこと記憶がなかったり(苦笑)

それはさておき、これより第5章が始まります。



5章『SUMMER VACATION』
第46話 良い子には見せられない戦隊もの


とうとう夏の暑さが襲い掛かりつつある7月の中旬。

文化祭も終わり、あと数日ほどすれば長期休暇である夏休みに突入する。

これは、そんなある日のことだ。

 

「でね、あたしはね」

 

教室で、日菜さんと何気ない世間話をしていた。

数か月前では想像もつかないことだったけど、これはこれで楽しいものだ。

日菜さんの話す内容は、どこがおもしろいのかが僕には全然理解できないのが難点だけど。

そんな時だった。

 

「横入失礼するっ」

「うわ!?」

 

突然僕たちの間に割りこむようにして、啓介が現れた。

 

「啓介、その制服についているバッチは?」

 

よく見ると、啓介は制服にハートが割れている謎のバッチをつけていた。

いや、啓介だけではなく、その後ろに控えるように立っている男子たちもんだ。

 

「我々は、リア充のごとくイチャイチャして周囲に嫉妬の炎をまき散らせるものに正義の鉄槌を下すもの。その名も」

『妨害レンジャー!』

 

最後は全員で声をそろえてきたところ、団結力はいいらしい。

 

(というより、ツッコミどころが多すぎるだろ)

 

嫉妬の炎をまき散らすって、ただ単にひがんでるだけだし。

そもそもそれが悪と決めつけるのもあれだし。

 

(イチャイチャもしてないんだけど)

 

そして何よりも言いたいのは

 

「ネーミングセンス悪すぎ。全世界に存在する戦隊ヒーローに謝れ」

「だよねー。でも、おもしろそー!」

 

なんだか最近男子たちが集まって何かをしていると思えば、このようなことをしていたのかと、驚き半分呆れ半分だった。

 

(しかも大きな声で言ってるから、女子から冷たい目で見られてるし)

 

何から何まで救いようがなかった。

 

「グハッ。流石は大魔王一樹、早速我々に攻撃を仕掛けてくるとは」

「誰が大魔王だ。誰が」

 

胸元を大げさにつかんで演技をする啓介に、僕はため息を漏らす。

 

(しょうがない。ちょっとした実験だ)

 

文化祭での代役の一件で、何となく演技というものが分かったような気がした僕は、それを実践してみる。

 

「そんなに大魔王と呼んでほしいのであれば、そのように振舞おうか?」

「へ? 一樹。目が怖い」

 

僕はドスを効かせて啓介のもとに近づくと

 

「あまり調子に乗ってると、生まれてきたことを後悔させるぞ」

 

と言ってみた。

 

「ひぃぃぃ!」

 

どうやら啓介には効果てきめんだったようだ。

 

「た、大変失礼しました。我々は、これにて!!」

 

そして逃げていく『妨害レンジャー』のメンバーたち。

 

「すごいねー、本当に大魔王みたいだったよ!」

「もうやりたくないけどね」

 

やっぱり演技というのは疲れる。

 

「今度は大統領の演技をしてよー。とってもるん♪ってくると思うから!」

「だから、やらないからね!?」

 

しかも大統領の演技なんかしたら、色々な意味で失礼だし。

そんな、何気ない休み時間の一コマだった。

 

 

BanG Dream!~隣の天才~   第5章『SUMMER VACATION』

 

 

「やっぱり、暑い」

 

昼休み、昼食を早めに食べ終えた僕は、散歩がてら屋上に来ていた。

屋上に出るとすぐに夏の暑さの攻撃を受ける。

地球温暖化と言われているこの時代、いっそのこと夏の間だけ地球寒冷化にでもなればいいのにとぼやきたくなる。

 

(やっぱりここはだめかな)

 

風がある日はいいかもしれないが、今日はあいにくの無風だ。

そんな中、居続けたら倒れるかもしれない。

僕はそう思って早々にその場を出ようとしたとき、僕の後ろにある校内とつながっているドアから来訪者を告げるように音がした。

 

「あら、あなただったの」

「えっと……」

 

そこに現れた銀色の髪の女子学生は、見覚えがあった。

確か……

 

「湊さん……でしたよね?」

「ええ。そうよ」

 

彼女は今井さんの幼馴染らしい。

少し前にひょんなことから顔見知りになった。

ただそれだけのことだ。

 

「この間の文化祭、演奏を見たわ」

「あれか……ものすごくひどかったでしょ」

 

もうこれで何度目になるのだろうかと思う気持ちを抑えて、湊さんに聞き返した。

これまで、何度も何度もおんなじことを聞かれて感想を言われた。

それは決まって『すごく良かったよ』だった。

評価してくれるのはうれしい。

それは本音だ。

だが、僕は全くあの演奏の出来に満足していない。

それをこう評価されるのは、なんだか複雑な心境でもあった。

 

「ええ。確かに、あなたの演奏はひどかったわ」

「え……」

 

だが、湊さんは違った。

湊さんは表情一つ変えることなく僕の言葉を肯定して断言してきた。

 

「音も歪んでいるし、リズムキープもしっかりできていなかったわ」

 

(すごい)

 

僕は、湊さんの解説に舌を巻く。

湊さんがした開設は、僕が自分で感じていたことをそのまま言っていたからだ。

それはまるで、僕の心を読んでいるかのようだった

 

「でも」

 

そう一言付け加えて、湊さんは言葉を続ける。

 

「あなたたちの演奏。とても素晴らしかったわ。言葉では言い表せない何かを感じたわ」

「……ありがとう」

 

この時のありがとうは、いつも言っている”ありがとう”よりも心がこもっていたような気がする。

 

「ところで、リサはどこかしら?」

「今井さんだったら食堂のほうで見たけど」

「そう、ありがとう」

 

どうやら湊さんは今井さんを探していたようだ。

一言お礼を言うと、そのまま校内のほうに行ってしまった。

 

(にしても、湊さん音楽関係の勉強とかしているのかな?)

 

先ほどの指摘は非の打ち所がないほど完璧なものだった。

あれは音楽を嗜んでいなけれできない芸当だ。

 

(今度、今井さんにでも聞いてみようかな)

 

教えてくれるとは思えないけど、機会があれば聞いてみようと思いながら僕もまた屋上を後にするのであった。

 

 

 

 

 

そして、夏休み前日。

夏休み前恒例の朝礼を終えた僕たちは、教室に戻っていた。

 

「本当に、学園長の話って長いよな」

「ああ。いつものことだが」

「しかも同じことばっかり言ってるもんねー」

 

お偉い人の長い話は、やはり不評のようだ。

日菜さんにいたっては、ものすごく鋭いことを指摘しているし。

 

「あの学園長の話を聞き終えられれば後は待ちに待った夏休み!」

「まあ、俺達は8月までおあずけだけどな」

 

田中君が自虐的につぶやく。

 

「……なんか、ごめん」

「いいのよ、気にしなくても。これは私たちが勝手にやったことなんだから」

 

僕の謝罪に、森本さんは首を横に振りながら柔らかい笑みを浮かべて答える。

 

「もー、何回繰り返してるの、そのやり取り?」

 

日菜さんが呆れるのも無理はない。

少なくとも5回以上はしているはずだ。

文化祭の後、啓介たちは自宅謹慎という処分が下され、反省文を書かされることになったらしい。

そして、ペナルティーで今月いっぱいまで学園に出席をして補講を受けるらしい。

 

「さ、頑張りましょうか。念願の夏休みに向かって」

 

気合を入れ直すように言う啓介の前向きさを、僕もまた見習わなければいけないなと思いながら、僕は蝉の声が聞こえる廊下を歩いていく。

そして、高校に入って最初の僕たちの夏が始まるのであった。




今回は少々短めとなっております。

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